距離空間の完備化は「本質的に一意」です。ここでは一意性の正確な意味と、完備化の一意性の証明を解説します。
一意性とは何か
数学で「一意」という言葉は文脈によって異なる意味を持ちます。
最も素朴な一意性は「ただ一つ存在する」という意味です。例えば「方程式 , の解は一意」とは、正の解が のただ一つであることを意味します。
しかし、構成によって定まる対象の一意性は、通常「同型を除いて一意」という意味になります。
同型を除いて一意
「同型を除いて一意」とは、条件を満たす対象が複数構成できても、それらがすべて同型であることを意味します。
例えば、実数の完備性を満たす順序体は のみですが、 の具体的な構成法は複数あります。
これらはすべて同型な順序体を与えるので、「実数体は同型を除いて一意」といいます。
普遍性による一意性
より強い一意性の概念として、普遍性(universal property)による特徴づけがあります。
対象 が普遍性を満たすとき、同じ普遍性を満たす任意の対象 に対して、 と の間に標準的な同型が存在します。この同型は構成に依存せず自然に定まります。
完備化の定義
距離空間 の完備化とは、完備距離空間 と等長埋め込み の組で、 が で稠密となるものです。
等長埋め込みとは、任意の に対して を満たす写像です。
完備化の存在
完備化の存在は Cauchy 列の同値類として構成できます。
上の Cauchy 列全体を とし、 で同値関係を定めます。 とし、
で距離を定めます。(定値列)で埋め込みを定義します。
完備化の普遍性
完備化は次の普遍性を満たします。
を の完備化とする。任意の完備距離空間 と任意の一様連続写像 に対して、一様連続写像 で を満たすものが一意に存在する。
図式で書くと、
となり、 は を経由して一意に拡張されます。
一意性の証明
完備化が同型を除いて一意であることを示します。
と を の完備化とします。
は等長写像なので一様連続です。 は完備なので、普遍性により で を満たすものが存在します。
同様に で を満たすものが存在します。
合成 を考えると、
となります。 は で稠密であり、一様連続写像の拡張の一意性から です。
同様に なので、 と は互いに逆写像であり、 です。
等長同型としての一意性
上の証明をより詳しく見ると、 と は等長写像です。
が等長であることと、稠密部分集合上で距離が決まることから、 も等長となります。したがって、2つの完備化は等長同型です。
標準的同型の意味
一意性の証明で構成された同型 は、埋め込みと整合的です。すなわち、 の点は両方の完備化で「同じ場所」に対応します。
この同型は の稠密性と拡張の一意性から自動的に定まるので、「標準的」あるいは「自然」な同型と呼ばれます。構成の詳細に依存しない同型です。
他の完備化の例
有理数 の通常の距離による完備化は です。
の 進距離 による完備化は 進数体 です。異なる距離からは異なる完備化が得られます。
一意性が成り立たない場合
普遍性を満たさない構成では、一意性が成り立たないことがあります。
例えば、「 を含む完備距離空間」という条件だけでは一意になりません。 を含む完備距離空間として も もありえます。「稠密に埋め込む」という条件が一意性に本質的です。
条件を満たす対象がすべて同型。同型の取り方は一意でないかもしれない。
条件を満たす対象間に標準的な同型が存在。同型が自然に定まり、構成に依存しない。完備化、局所化、テンソル積などが典型例。