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分散の比が 5 倍でも珍しくない(F 分布の定義と自由度の入れかえ)

同じ母分散の集団から 5 個ずつとって標本分散を出すと、比が 5.050 を超えることが 20 回に 1 回あります。

母分散はまったく同じなのに、比だけ見れば 5 倍。ばらつきの比は、平均の差よりずっと暴れます。

この暴れ方を測る目盛りが F 分布です。

定義

と が独立のとき、それぞれを自由度で割ってから比をとります[1]。

これが自由度 の F 分布で、 と書く。 を分子の自由度、 を分母の自由度といいます。

自由度で割るところが効きます。カイ二乗は自由度ぶんだけ大きくなるので、割っておけば比の中心が の近くに来る。

密度関数

密度は でだけ値を持ちます[2]。

比なので負にはなりません。左端が で右へ長く裾を引く、非対称な形です。

なら最頻値は で、 より小さいところに来ます[2]。山の位置と平均がずれる。

平均は分子の自由度によらない

のとき平均は次のとおりです[1]。

が入っていません。分母の自由度だけで決まります。

分散は で存在します。

分母の自由度が小さいと平均も分散も膨らむ。 なら平均が 、 でも 1.25 で、まだ に戻りません。

比の平均が にならないのは、割り算が上下で対称でないためです。分母が半分になれば 倍、 倍になれば半分。

上に伸びる余地のほうが広いので、平均は より上へ引っぱられる。

逆数をとると自由度が入れかわる

なら です[1]。分子と分母を入れかえただけなので、定義から出ます。

ここからパーセント点の関係が出ます。

数表が上側の点しか載せていないのは、この式で下側が読めるためです。

例:数表の裏側を読む

が表にあります。ここから自由度 の下側 5% 点が出ます。

上側 5% 点のほうは です。 から までが、真ん中の 90% にあたる範囲。

分子と分母の自由度が同じなら、上側と下側が互いに逆数になります。 に対して で、掛ければ 。

t 分布とのつながり

なら です[1]。定義に戻ると当たり前で、 の分子を 2 乗すれば自由度 1 のカイ二乗になる。

数表でも確かめられます。 を 2 乗すると 4.964、。

両側 5% と片側 5% が対応するのは、2 乗すると符号が消えるためです。

分母の自由度を大きくすると

で は に近づきます。分母が定数になれば、残るのは分子だけ。

母分散が既知の場合の検定に戻る、という意味です。分母の自由度は、母分散を推定した精度を表しています。

分母の自由度が小さい

母分散の推定があやしい

比が大きく振れる

棄却の境目が遠くなる

2 つの母分散を比べる

と から大きさ 、 の標本をとり、標本分散を 、 とします。

を仮定すると、 が消えて そのものが F 分布に従います。

例:等分散といえるか

2 つの群から 6 個ずつとり、標本分散が 8.4 と 1.9 だったとします。

自由度は です。上側 5% 点が 5.050 なので、4.42 はまだ内側。

比が 4 倍を超えていても、この標本の大きさでは母分散が違うとまではいえません。判断に必要な差は、直感よりかなり大きい。

分散分析での使われ方

群の数が 、全体の大きさが のとき、群間の変動と群内の変動をそれぞれ自由度で割って比をとります。

自由度は です。3 群を 10 個ずつ調べたなら で、上側 5% 点は 3.354。

平均が全部同じなら比は の近くにいるはずで、3.354 を超えたら偶然では説明しにくくなる。

F という文字がつくまで

フィッシャーが 1924 年の論文で扱ったのは のほうでした[3]。対数をとった量のほうが、当時は表を作りやすかった。

1924
フィッシャーの z

「On a Distribution Yielding the Error Functions of Several well Known Statistics」で、カイ二乗まわりの分布に自由度という考え方を当てはめた。

1934
スネデカーの表

『Calculation and Interpretation of Analysis of Variance and Covariance』で表を作り、フィッシャーに敬意を表して F の文字を当てた。

1941
呼び名の定着

アロイアンの論文ではじめて「F distribution」という言い方が使われている。

いま を見かけないのは、 のほうが計算も表引きも素直だったためです。定義が簡単なほうが残った。

のとき、 の値はどれですか。

  • 1.5
  • 約 1.11
  • 5
__RESULT__

平均は で、分母の自由度だけで決まります。。分子の自由度 4 は平均に効きません。

比をとると上下が非対称になり、平均は からずれ、裾は右へ伸びる。F 分布の性質は、この 1 点からほとんど説明がつきます。

出典

Fisher-F-distribution. Encyclopedia of Mathematics.
F Distribution. NIST/SEMATECH e-Handbook of Statistical Methods, 1.3.6.6.5.
Earliest Known Uses of Some of the Words of Probability and Statistics.
母分散がまったく同じ集団から 5 個ずつとっても、標本分散の比が 5.050 を超えることが 20 回に 1 回あります。カイ二乗をそれぞれ自由度で割ってから比をとったものが F 分布。平均は $n/(n-2)$ で、分子の自由度がまったく効きません。逆数をとると自由度が入れかわるので、数表に上側の点しか載っていなくても下側が読める。$F_{0.05}(12,3) = 8.74$ から $F_{0.95}(3,12) = 0.114$ が出ます。$t_{0.025}(10) = 2.228$ の 2 乗が $F_{0.05}(1,10) = 4.965$ に一致すること、標本分散の比が 4.42 でも等分散を否定できない例、フィッシャーの $z = (\log F)/2$ が 1934 年にスネデカーの表で F に置きかわるまで。