効果量 0.2 を拾うには 197 人(検出力と検出力関数の読み方)
効果量 0.8 の差を両側 5% で拾うなら、標本は 13 個で足ります。効果量 0.5 なら 32 個、0.2 なら 197 個。
差が半分になると、必要な数は 4 倍を超えて増えます。検出力を決めるのは差の大きさと標本の大きさで、その 2 つが を通じて掛かり合うため。
この関係を関数として書いたものが検出力関数です。
定義
検出力とは、対立仮説が正しいときに帰無仮説を棄却する確率です[1]。第二種の過誤の確率 を使えば にあたります。
対立仮説が「」のように幅を持つ場合、この確率は 1 つの数になりません。母数 ごとに値が変わります。
そこで の関数として書きます。棄却する確率を 全体の上で定めたものが検出力関数です[2]。
が帰無仮説の側にあるときの は、第一種の過誤の確率にあたります。同じ関数の、見る場所が違うだけ。
検出力関数は帰無仮説の側と対立仮説の側を 1 本でつないだもの。 では 以下であることが要求され、 では大きいほどよい。
と を別々の数として覚えるより、1 本の曲線として見るほうが関係が読める。
効果量という物差し
必要な標本の大きさを言うとき、差を絶対値で述べても伝わりません。「 の差」は、ばらつきが なら大きく、 なら小さい。
そこで標準偏差で割った値を使います。差をばらつきの何個ぶんかで測る形です。
これを効果量と呼びます。単位が消えるので、身長でも試験の点でも同じ物差しで比べられる。
検出力を決めるのは、この と が組んだ の値です。だから が半分になると、同じ検出力を保つのに が 4 倍要ります。
例:両側検定の検出力関数
標準偏差 、標本 25 個、有意水準 5% の両側検定で、 を調べます。
| 真の | 検出力 | 見のがす確率 |
|---|---|---|
| 0.0 | 0.0500 | 0.9500 |
| 0.2 | 0.1701 | 0.8299 |
| 0.4 | 0.5160 | 0.4840 |
| 0.6 | 0.8508 | 0.1492 |
| 0.8 | 0.9793 | 0.0207 |
での値が 0.05 になっています。ここは棄却してはいけない場所なので、この値が有意水準そのもの。
が から離れるほど値が上がります。差が大きいほど拾いやすい、という当たり前の内容が、曲線の傾きとして出ている。
谷の底が有意水準
両側検定の検出力関数は を底とする谷の形になります。底の高さがちょうど 。
を増やすと谷が細くなり、両側の立ち上がりが急になります。底の高さは変わりません。
底が動かないのは、 を固定しているためです。標本を増やしても第一種の過誤は減らない。減るのは第二種のほうだけです。
片側だと単調になる
、 の片側検定にすると、形が変わります。
| 真の | 片側の検出力 | 両側の検出力 |
|---|---|---|
| -0.2 | 0.0041 | 0.1701 |
| 0.0 | 0.0500 | 0.0500 |
| 0.2 | 0.2595 | 0.1701 |
| 0.4 | 0.6388 | 0.5160 |
右側では片側のほうが高く、左側では極端に低い。 で 0.0041 しかありません。
向きを決めたぶん、決めた向きには強く、反対向きにはほとんど反応しなくなる。片側検定を選ぶことは、この形を選ぶことです。

不偏な検定
検出力関数が では 以下、 では 以上になる検定を不偏といいます[3]。
対立仮説が正しい場所での棄却率が、帰無仮説が正しい場所での棄却率を下回らない、という条件です。当たり前に見えますが、成り立たない検定もあります。
片側検定を という対立仮説に当てると、 の側で検出力が を割ります。 での 0.0041 がそれです。
一様最強力な検定が存在するときは、それは必ず不偏になります[3]。有意水準 で常に棄却するだけの検定より弱くなることがないため。
多くの問題では一様最強力な検定が存在しません。不偏なものに範囲を狭めれば、その中で最強力なものが見つかる場合があります[3]。
必要な標本の大きさを逆算する
検出力を先に決めて を出す形が、標本設計です。両側 5%、検出力 0.80 で計算します。
| 効果量 | 必要な |
|---|---|
| 0.2 | 197 |
| 0.5 | 32 |
| 0.8 | 13 |
| 1.0 | 8 |
効果量 0.2 と 0.8 で 15 倍の差がつきます。 は効果量の 2 乗に反比例するため。
検出力のほうを上げると も増えます。効果量 0.5 なら、0.80 で 32 個、0.90 で 43 個、0.95 で 52 個。
上げ方が急なところに注意が要ります。0.80 から 0.95 へ 15 ポイント上げるのに、標本は 1.6 倍。天井に近づくほど高くつく。
逆に、標本の数が先に決まっている場合もあります。そのときは同じ式を逆に読み、この人数で拾える差はどれくらいまでか、を出すことになります。
拾えない大きさの差しか期待できないと分かったなら、調べる前に設計を変えるほうがよい。検出力の計算は、そのための事前の見積もりです。
0.80 という慣習
検出力 0.80 という目安はコーエンが提案したもので、理論から出た数ではありません[4]。
効果量の大小の目安も同じです。 で 0.20、0.50、0.80 を小・中・大とする区切りは、量的な分析にもとづくものではない[4]。
で 0.10、0.30、0.50。 で 0.20、0.50、0.80
で 0.12、0.20、0.32。 で 0.16、0.38、0.76
分野ごとに測り直すと、目安のほうが大きすぎることがあります。中くらいの効果を拾うのに、コーエンの数字なら 1 群 64 人、測り直した数字なら 110 人が要る[4]。
慣習の数字を当てると、必要な人数を小さく見積もることになります。
観測された効果から検出力を出さない
データをとったあとで、観測された差を真の差と見なして検出力を計算する形があります。事後検出力と呼ばれます。
これは 値の言いかえにしかなりません。 が小さければ事後検出力は高く、大きければ低くなる。同じ情報を 2 通りに書いているだけです。
検出力の計算は、拾いたい差を先に決めてこそ意味を持ちます。決める根拠は統計の中にはなく、その分野で意味のある差はどれくらいか、という判断から来る。
「有意にならなかったが検出力が低かった」という書き方も、同じ循環に落ちています。有意にならなかったこと自体から、検出力が低かったと計算されているためです。
言うべきことがあるとすれば、事前に決めた差でどれだけの検出力を用意していたか、のほうです。数字は同じ式から出ますが、決めた時点が違えば意味が変わります。
両側 5% の検定で、標本の大きさを 4 倍にしました。検出力関数はどう変わりますか。
- 谷の底が 0.05 から下がり、両側も立ち上がる
- 谷の底は 0.05 のまま、両側の立ち上がりが急になる
- 谷の底は 0.05 のまま、形も変わらない
は曲線の底の高さ、検出力は底から離れた場所の高さ、標本の大きさは谷の細さ。3 つとも同じ 1 本の曲線の上にあります。














底の高さは有意水準そのものなので、n を変えても動きません。動くのは対立仮説の側で、n が 2 倍になったぶん同じ検出力に届く μ が半分になります。