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第一種の過誤を 5% に抑えても第二種の過誤は 20% 残る

有意水準を 5% にした検定で、母平均が実際に ずれているとします。標本 25 個なら、その差を見のがす確率は 0.196 です。

第一種の誤りを 5% に抑えても、第二種の誤りは 20% 近く残る。しかも を 0.001 まで下げると、見のがしは 0.722 まで上がります。

2 つの誤りは同時には減りません。

4 通りの結果

判断は 2 通り、真実も 2 通りなので、組み合わせは 4 つです[1]。

真実 / 判断 を棄却しない を棄却する
が正しい正しい判断第一種の過誤
が誤り第二種の過誤正しい判断

対角線の外側が誤りです。左下と右上で、まちがえ方の向きが逆になります。

第一種は、差がないのに「差がある」と言ってしまう誤り。早とちりのほうです[1]。

第二種は、差があるのに「差があるとはいえない」で止めてしまう誤り。見のがしのほうになります。

火災報知器でたとえると分かりやすい。火事でもないのに鳴るのが第一種、火事なのに鳴らないのが第二種です。

感度を上げれば誤報が増え、下げれば見のがしが増える。装置の設計と同じ問題が、検定の設計にもあります。

2 つの確率

第一種の過誤を犯す確率を 、第二種の過誤を犯す確率を と書きます[2]。

を検出力と呼びます。差があるときに、それを差として拾える確率です[1]。

立場がまったく違います。 は分析する側が先に選ぶ数で、 は選べません[2]。

こちらで決める。 のもとでの分布が分かっているので、棄却域の広さを選べば確率が決まる

決められない。本当の差がどれくらいかで変わり、その差は分からないから検定している

境目を動かすと入れかわる

棄却域を狭めると が下がり、そのぶん が正しいときに棄却域へ入る確率も下がります。

つまり が上がる。 を下げれば が上がるという関係は、境目が 1 本しかないことから来ています[2]。

例:有意水準を下げると

母平均が ずれ、標準偏差 、標本 25 個の片側検定で、 だけを変えます。

検出力
0.100.1120.888
0.050.1960.804
0.010.4310.569
0.0010.7220.278

を 100 分の 1 にすると、見のがしは 0.196 から 0.722 へ、3.7 倍に増えました。

厳しくすればよい、という話ではありません。厳しさは、どちらの誤りが高くつくかで決めるものです。

新薬の承認では、効かない薬を通す第一種の誤りが重い。一方で探索的な研究では、有望な候補を見のがす第二種の誤りのほうが重い。

同じ 0.05 を機械的に当てると、後者では拾えるはずのものを捨てることになる。

標本を増やせば両方下がる

と の交換は、標本の大きさを固定したときの話です。 を増やすと 2 つの分布が細くなり、重なりが減ります。

検出力
100.5250.475
250.1960.804
500.0290.971

は 0.05 のまま、 だけが下がっています。標本の大きさは、交換条件そのものを緩める唯一の手。

検出力 0.80 を目安にするなら、この設定では 25 個が境目です。標本設計は、この計算を先にやっておく作業になります。

順序を逆にすると意味が変わります。データをとったあとで検出力を計算しても、結果が出たあとの後知恵にしかならない。

拾いたい差の大きさを先に決め、そこから を出す。差の大きさを決める段階では、統計の外側にある知識が要ります。

は 1 つの数ではない

が「」のような複合仮説だと、 は ごとに変わります。

真の差が大きいほど見のがしにくく、 に近いほど見のがしやすい。 の関数として書いたものが検出力関数です[1]。

「この検定の は何%か」という問いには、差の大きさを決めないと答えられません。 が 1 つの数で済むのと対照的です。

誤りの確率と、結論の確からしさは別

は「 が正しいときに棄却する確率」です。「棄却したときに が正しい確率」ではありません。

検査でたとえます。感度 95%、特異度 95% の検査を、有病率 0.1% の集団に当てる。

1 万人のうち病気は 10 人で、うち陽性は 9.5 人。健康な 9990 人のうち 5% にあたる 499.5 人も陽性になります。

陽性 509 人のうち、本当に病気なのは 1.9% です。 を 5% に抑えていても、陽性という結論が正しい割合はまったく別の数になります。

効いているのは、もとの人数の偏りです。病気の人が 10 人しかいないところへ、健康な人の 5% にあたる 499.5 人が流れこんでくる。

検定でも同じことが起きます。ほとんど差がない仮説ばかりを大量に検定すれば、棄却された中の多くは第一種の誤りになる。

が守っているのは、 が正しい場合だけの割合です。 が正しい場合が全体の何割あるかは、 の外側にあります。

何度も検定すると

の検定を独立に 20 回おこなうと、すべて が正しくても、少なくとも 1 回は棄却してしまう確率が になります。

検定の回数1 回以上まちがえる確率
50.2262
100.4013
200.6415
1000.9941

1 回あたりの は守られているのに、全体としては半分以上の確率でまちがえる。検定の回数を増やすほど、第一種の過誤は集団として膨らみます。

対処のひとつは、1 回あたりの水準を回数で割る形です。20 回なら を使う。全体としての誤りを 5% 以下に抑えられます。

代償は です。水準を 20 分の 1 にすれば見のがしは大きく増える。ここでも交換条件から逃げられません。

報告されない検定の回数も同じ問題を起こします。10 通り試して 1 つだけ載せると、読む側からは 1 回に見えて、実際は 10 回ぶんの危険を負っている。

対立仮説を書くかどうか

2 つの誤りがそろうのは、対立仮説を明示する立場をとったときだけです。

フィッシャーの有意性検定は対立仮説にまったく触れません。モデルの検証手続きとして読めるもので、 のもとでの分布だけを見て、データがそこから見て変かどうかを判断します[3]。

比べる相手がいないので も定義できない。背理法に近い形だと言われるのはこのためです[3]。

ネイマンとピアソンの検定は仮説を 2 つ置きます。同じ を持つ検定の族の中から、検出力が最大になるものを選ぶ問題として組み直した[3][4]。

1933
ネイマン・ピアソンの補題

単純仮説どうしの検定では、尤度比検定が同じ有意水準の中で最も検出力が高い。数理統計の基本補題とも呼ばれる。

2005
2 つの立場の比較

クリステンセンの整理では、同じ でネイマン・ピアソン型の検出力が 0.9、フィッシャー型が 0.002 になる例が示されている。

差が 400 倍もつくのは、比べる相手を決めているかどうかの違いです。ただしフィッシャー型は 2 つの分布から選ぶために作られたものではありません[3]。

目的の違う道具を同じ物差しで測ると、こういう差が出る。 を問題にするなら、 を先に書く必要があります。

有意水準を 0.05 から 0.01 に下げました。標本の大きさは変えません。何が起きますか。

  • 第一種の過誤も第二種の過誤も減る
  • 第一種の過誤は減り、第二種の過誤は増える
  • 第一種の過誤は減り、第二種の過誤は変わらない
__RESULT__

棄却域を狭めたので、 が正しいのに棄却する確率は下がります。同時に が正しいときに棄却域へ入る確率も下がるので、見のがしは増える。両方を同時に減らせるのは、標本を増やしたときだけです。

は選ぶ数、 は結果として決まる数、 は 2 つの関係そのものを動かす数。この 3 つの役割が違います。

参考文献

Statistical hypotheses, verification of. Encyclopedia of Mathematics.
Comparisons based on data from one process. NIST/SEMATECH e-Handbook of Statistical Methods.
Ronald Christensen, *Testing Fisher, Neyman, Pearson, and Bayes*. The American Statistician 59(2), 121-126, 2005.
Neyman-Pearson lemma. Encyclopedia of Mathematics.
標本 25 個、有意水準 5% の片側検定で、母平均が $0.5$ ずれているときの見のがしは 0.196。$\alpha$ を 0.001 まで下げると 0.722 まで上がります。境目が 1 本しかないので、片方を減らせばもう片方が増える。$\alpha$ は先に選ぶ数、$\beta$ は本当の差の大きさで決まる数で、立場が違います。両方を下げられるのは標本を増やしたときだけ。$n$ を 10 から 50 へ増やすと $\beta$ は 0.525 から 0.029 まで落ちます。感度も特異度も 95% の検査が有病率 0.1% の集団では陽性適中率 1.9% にしかならないこと、20 回検定すれば 0.64 の確率で 1 回は誤って棄却すること、$\beta$ を語るには対立仮説を書く必要があることまで。