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核はそのまま、像には「層化」が要る|層の写像と制限

層の写像には、はっきりした非対称があります。核はそのまま層になり、像はそのままでは層になりません。

核は「各点で へ行く」という局所的な条件で決まります。局所的な条件で切り出したものは、層の公理をそのまま受け継ぐ。

像は違います。「その開集合の上で持ち上がる」という条件が局所的でないためです。

以下では射・制限・押し出し・逆像を整理し、核と像の差がどこから出るかを具体例で追います。

層の射

上の層 に対して、射 とは開集合ごとの写像の族です[1]

制限と両立することを要求します。 について が成り立つ、という条件です。

値が群や環なら、各 も準同型にします。層の圏はこの射で定まります。

茎にも写像が誘導されます。芽 へ送ればよく、well-defined になります。

制限

開集合 に対して、 の上の層に読み替えられます[1]

に対して と定めます。もともと に値を割り当てているので、何も新しく作りません。

層の公理は自動的に成り立ちます。 の中の開被覆は の中の開被覆でもあるためです。

について が成り立ちます。制限を 2 回しても 1 回と同じです。

茎も変わりません。 なら です。

押し出しと逆像

連続写像 があると、層を移せます。

押し出しは素直です[1]

が連続なので は開集合です。層の公理も、逆像が被覆を被覆へ送ることから従います。

逆像は素直にいきません。 上の層 に対して を素朴に定めても、層になりません。

が開集合とは限らないためです。 を含む開集合について極限をとり、そのあと層化します[1]

が開埋め込みなら簡単になります。 で、制限と同じものです。

3 つの操作の向き

移し方を図にしておきます。

右向きが押し出し、左向きが逆像です。片方は定義がそのまま通り、もう片方は層化が要ります。

制限は、開埋め込みに沿った逆像の特別な場合です。この場合だけ層化が要りません。

核は層になる

の核を定めます[1]

これが層になることを確かめます。一意性は から受け継ぎます。部分集合なので、一致すれば等しい。

貼り合わせを見ましょう。 が重なりで一致するとします。

が層なので、貼り合わせた があります。 を各 へ制限すると です。

の一意性の公理から となり、 です。核は層になりました。

茎とも交換します。 が成り立ちます[1]

像前層は層にならない

像を素朴に定めてみます。

これは前層ですが、層にならないことがあります。貼り合わせの公理が破れるためです[1]

の上では持ち上がる切断が、 全体では持ち上がらない。そういう状況が起きます。

「持ち上がるかどうか」が局所的な条件でないことが原因です。核のときとの差はここにあります。

例: 平方根が貼れない

具体的な反例を作ります。 とし、 をとらない正則関数の層とします。

射を と定めます。層の射になっていることは、制限と両立するので分かります。

茎では全射です。 点のまわりでは、 をとらない正則関数に平方根がとれるためです。

大域切断では全射になりません。座標関数 に対して をみたす大域的な が存在しないからです。

は各点のまわりで像に入ります。ところが 全体では像に入らない。像前層の貼り合わせが破れています。

1 周すると符号が変わる

貼れない理由を動かして見ます。

左の点が 1 周するあいだに、右の平方根は半周しかしません。

戻ってきたとき、平方根は出発点の反対側にいます。符号が反転しているので、局所的に選んだ枝どうしが重なりで食い違う。

各弧の上では平方根がとれています。それでも貼り合わせられません。像前層が層にならない、というのはこの状況を指しています。

層化して像を定める

対処は層化です[1]

層化してできた の部分層になります。茎は変わらないので、点ごとの像は同じです。

さきほどの例では、 が層化した像に入ります。局所的に像に入っていれば、層化の段階で拾われるためです。

余核も同じ事情です。素朴に商をとった前層は層にならないので、層化して定めます。

核だけが層化なしで済む。この非対称が、層の圏を扱うときの基本になります。

全射性は茎で見る

射の全射性は、開集合ごとではなく茎で定めます[1]

が全射であるとは、すべての が全射であることをいいます。 と同じ条件です。

が全射である必要はありません。さきほどの平方根の例が、その差を示しています。

単射のほうは食い違いません。 が単射であることと、すべての が単射であることが同値です[1]

同型についても茎で判定できます。すべての が同型なら は同型です[1]

完全列と大域切断

核と像が定まったので、完全列が書けます。

完全性は茎で見ます。各点で完全なら、層の列として完全とします。

大域切断をとると、右端で切れます。左の 2 本までは完全ですが、 が全射とは限りません。

平方根の例がまさにこれです。局所的に持ち上げられても、貼り合わせで失敗する。

このずれを測る道具が層コホモロジーで、チェック複体を使えば計算できます[4]

準連接層の場合

代数幾何では、層に条件を付けて扱いやすくします[2]

スキームの上の準連接層に限れば、核も像も余核も準連接層のままです。圏がアーベル圏になります。

アフィン開集合の上では加群の話に帰着します。局所化が完全関手なので、核と余核が加群の側の計算どおりに出ます[3]

一般の環付き空間では、この保証がありません。準連接層の圏がアーベル圏にならないことがあります[3]

スキームという土台があるおかげで、扱いが軽くなっています[5]

練習

層の射 について、開集合ごとに素朴に定めても層になるものはどれですか。

  • 余核
  • 商層
__RESULT__

核は「」という局所的な条件で切り出したものなので、貼り合わせの公理を から受け継ぎます。像は「その開集合の上で持ち上がる」という局所的でない条件なので、貼り合わせが破れることがあります。余核と商層も同じ理由で層化が要ります。

局所的な条件かどうか。判定はこの一言で済みます。

よくある誤り

まとめます。

像を開集合ごとの像だと思う。層化して初めて層になる。
全射性を各 の全射性で判定する。全射性は茎で定める。
単射性も茎でしか判定できないと思う。単射は開集合ごとに見てよい。
逆像が押し出しと同じように定義できると思う。極限と層化が要る。
制限が新しい層を作る操作だと思う。値はもとの層のものをそのまま使う。
完全列の大域切断が完全だと思う。右端で切れる。

核と像の非対称が、層コホモロジーが必要になる出発点です。

参考文献

Sheaf (mathematics)), Wikipedia (English).
Coherent sheaf, Wikipedia (English).
Section 17.10: Quasi-coherent modules, The Stacks Project.
Čech cohomology, Wikipedia (English).
Definition 26.9.1: Schemes, The Stacks Project.
核は各点で 0 へ行くという局所的な条件なので、そのまま層になります。像は「その開集合の上で持ち上がる」という局所的でない条件なので、貼り合わせが破れる。$\mathbb{C}^{*}$ の上で $f \mapsto f^2$ を考えると、$z$ は局所的に平方根をもつのに大域では 1 周で符号が反転して貼れません。層化して像を定める理由、全射性を茎で見る理由、制限と押し出しと逆像の違いまで扱います。