層(sheaf)は、位相空間上の局所的なデータを体系的に扱う道具である。
層の写像
を位相空間、 を 上の層、 を 上の層とする。連続写像 に対して、層の写像とは、各開集合 に対して次の形の準同型族を与えることをいう。
この族が制限写像と両立する、つまり
を満たすとき、 を層の写像と呼ぶ。
とくに のとき、すなわち恒等写像のもとで が定義されるとき、それを層の準同型という。
のもとで
が開集合ごとに定まり、制限写像と両立する。
の場合で、
単に の準同型をいう。
層の制限
層 の制限(restriction)とは、部分空間 に対して定義される層
のことを指す。制限層 は、 の構造を に限定して考えたものである。
制限は層の構成と両立し、たとえば に対して
が成り立つ。
層の制限は、部分空間上での局所的構造を抜き出す操作
位相空間全体の情報を必要最小限の部分に絞る操作
層の像
層の写像 に対して、各開集合 ごとに像
をとると、これは必ずしも層にならない。なぜなら、開集合の被覆に関して貼り合わせの条件が崩れることがあるためである。
したがって、層の像はこの前層を層化(sheafification)したものとして定義される。
像前層 を作る
それを層化して を得る
つまり
である。このようにして得られる は の部分層になる。
各開集合で の像をとった集合系。
像前層を層化したもの。層としての貼り合わせ条件を満たす。
層の写像にはさらに核(kernel)や余像(cokernel)も定義でき、アーベル層圏ではこれらが正確列を構成する。
層の写像の核
層の写像 の核(kernel)は、像と異なり自然に層となります。各開集合 に対して次のように定義されます。
核は制限と貼り合わせの条件を自動的に満たすため、これは 上の層となります。茎のレベルでも、 が成り立ちます。
層の写像において、像の構成が非自明である一方で核は自然に定義されるという非対称性は、層論の特徴的な性質の一つです。この性質は、層コホモロジー論において重要な役割を果たします。