層コホモロジーは、トポロジー空間上の層に対して定義される「大域的情報の欠落」を測る道具です。位相空間 上の層 に対し、その大域切断 だけでは局所的な構造を十分に反映できないことが多いため、それを補う理論としてコホモロジーが導入されます。
定義の概略
を位相空間、 をアーベル群の層とすると、層コホモロジー群 は、層の短完全列
に対して長完全列
を導くような共変関手 の右導関手として定義されます。つまり、
です。
チェックコホモロジーによる具体的構成
有限開被覆 に対して、交わり 上の切断を集めて得られる複体
を考え、差分写像 により共境界を定義します。これによって得られるコホモロジー群 は、被覆を細かくした極限をとることで と一致します。
開集合の切断を集めて貼り合わせる
貼り合わせがうまくいかない度合いを測る
層コホモロジーが得られる
幾何的な直感
層コホモロジーは、局所的な情報を「どのように」大域的に結合できるかを表します。
位相的な視点
閉鎖的な部分集合の交わりを追うことで、空間の形を測る。
代数的な視点
環や加群の層の大域的整合性を追うことで、代数構造の欠損を測る。
たとえば、複素射影直線 上の構造層 に対しては
が成り立ちます。これは が「コホモロジー的に単純」な空間であることを示します。
代数幾何への応用
層コホモロジーは、アフィンスキームの関数環や射影スキーム上の線形系を解析するための基本道具です。特に次のような性質が重要です。
アフィンスキームの層コホモロジー
のとき、準連接層 に対して
が成り立つ。これはアフィン上の層はコホモロジー的に単純であることを意味する。
射影スキーム上の層コホモロジー
射影空間上の に対しては
のような消滅定理が成立する。
層コホモロジーは、ベクトル束の層、層の正確列、消滅定理、セルデュアル定理など、多くの代数幾何的構造に関わる基礎理論です。