層コホモロジーとは|定義・チェックコホモロジー・計算例
層コホモロジーは、局所的にできることが大域的にはできない、そのずれを測る道具です。
位相空間 上の層 に対して、大域切断 は層の情報の一部しか拾いません。局所的な切断を貼り合わせようとして失敗する度合いが、 次以上に現れます。
以下では大域切断が足りない理由から始め、導来関手による定義、チェックコホモロジーによる計算、具体的な計算例までを扱います。要になる主張には証明を付けます。
大域切断だけでは足りない
層 は、各開集合 に切断の集合 を与え、貼り合わせの条件を満たすものでした。
局所的な切断が重なりの上で一致していれば、それらは 1 つの大域切断に貼り合わさります。層の公理はそこまでを保証します。
ところが「重なりの上で一致する局所切断がとれるか」自体は、公理からは出てきません。とれないことがあるのです。
大域切断 を見るだけでは、この失敗が見えません。失敗の量を測るのが層コホモロジーです。
直観: 貼り合わせの障害を測る
円周を 2 つの弧 , で覆ってみましょう。重なりは 2 か所にできます。
の上と の上でそれぞれ切断を選び、重なりの上で一致させたいとします。片方の重なりでそろえても、もう片方でずれてしまうことがあります。
このずれの全体が 次のコホモロジーです。ずれをいつでも消せるなら になり、消せないなら になります。
より高い次数は、3 つ以上の重なりで同じことを考えたときの障害にあたります。
は左完全である
層の短完全列を考えます。
層の列が完全だというのは、各点の茎で完全だという意味でした。ここで大域切断をとると、次のところまではいつでも完全になります。
これを左完全といいます。ただし右端に を付けることは、一般にはできません。
証明: が左完全であること
まず が単射であることを示します。 が をみたすとしましょう。
各点 で茎を見ると です。 は単射なので となり、 は のある近傍で になります。
こうして 全体が、 が になる開集合で覆えました。層の一意性の公理から です。
次に を示します。 なので、片方の包含は明らかです。
逆向きを見ましょう。 が をみたすとします。各点 で なので、茎での完全性から となる茎の元がとれます。
芽は近傍上の切断から来るので、 の近傍 と を選んで とできます。
2 つの近傍が重なるところでは です。 は単射なので となり、これらは貼り合わさります。
貼り合わせの公理から が得られ、 です。よって は像に入ります。
右端が全射にならない理由
を持ち上げようとすると、局所的な持ち上げ まではとれます。茎で全射だからです。
重なりの上での差 は で に行くので、 の切断から来ます。この差の族が貼り合わせの障害です。
さきほどの証明では の単射性で差を消せました。今度は差が とはかぎらず、消せる保証がありません。
この族はあとで見るチェックの 次コサイクルにあたります。障害が の元として現れる、というのが長完全列の内容になります。
計算例: 完全列が大域切断で切れる
複素平面から原点を除いた を考えます。次の完全列があります。
真ん中は正則関数の層、右は をとらない正則関数の層です。 は茎のレベルで全射になります。1 点のまわりでなら対数がとれるからです。
大域切断で見ると事情が変わります。 を持ち上げるには、 となる大域的な 、つまり が必要です。
証明: の上に は存在しない
の上に正則関数 があって をみたすと仮定します。
両辺を微分すると です。 を代入して次を得ます。
単位円周に沿って積分しましょう。 は 全体で定義された の原始関数なので、閉曲線に沿う積分は になります。
一方、直接計算すると値は ではありません。
となって矛盾します。したがって は全射ではありません。
原点を 1 周したときに値が ずれる、この量を受けとるのが です。
導来関手による定義
は、 上のアーベル群の層の圏からアーベル群の圏への、左完全な共変関手でした。
層コホモロジーは、この関手の右導来関手として定義されます。
のときは で、大域切断そのものです。新しい情報が出てくるのは 次からになります。
入射分解
具体的な作り方は次のとおりです。まず の入射分解をとります。
各 は入射的な層です。アーベル群の層の圏は十分多くの入射対象を持つので、このような分解はいつでもとれます。
次に大域切断をとって複体を作ります。このとき は外しておきます。
の入射分解をとる
を外して大域切断をとる
残った複体のコホモロジーをとる
この複体の 次コホモロジーが です。
分解のとり方によらないこと
入射分解は 1 通りではありません。それでも同じ群が出ることは、2 段の議論で保証されます。
第 1 に、 の 2 つの入射分解のあいだには、 上の恒等写像を延長する複体の射が存在します。行き先が入射的なので、各段で写像を延ばしていけるからです。
第 2 に、そのような射は鎖ホモトピーを除いて一意です。ホモトピックな射はコホモロジーに同じ写像を誘導します。
射を両向きにとると、合成は恒等写像にホモトピックです。よってコホモロジーの上では互いに逆の同型になり、群は同型を除いて一意に定まります。
長完全列
導来関手として定義したことの見返りが、長完全列です。短完全列に対して次のように伸びます。
の段で全射にならなかったぶんが、 へ送られていきます。この橋渡しをする写像を連結準同型といいます。
さきほど「差の族が障害になる」と述べたものが、この写像の行き先です。切れてしまった列が先へつながるので、障害を式の上で追えるようになります。
直観: 長完全列の読み方
の例に戻りましょう。長完全列の一部は次のようになります。
は真ん中の元です。持ち上がるかどうかは、右へ送った像が かどうかで決まります。完全性から、像が であることと持ち上がることが同値だからです。
で、 の行き先は原点のまわりの回転数 です。 ではないので持ち上がりません。
「持ち上がらない」という漠然とした事実が、1 つの群の 1 つの元として書けました。これが長完全列の効き目です。
脆弱層と非輪状性
入射分解は存在するものの、手で作るのは大変です。実際の計算では、もっと扱いやすい層を使います。
層 が脆弱であるとは、任意の開集合 に対して制限写像 が全射になることをいいます。切断がいつでも 全体へ延びる層のことです。
脆弱層は非輪状です。つまり で になります。
証明: 脆弱層は非輪状である
次の 3 つを認めて進めます。いずれも層コホモロジーの標準的な補題です。
を脆弱とし、入射的な層 に埋め込んで、商を と置きます。
は仮定より脆弱、 は 1 つ目から脆弱です。したがって 3 つ目より も脆弱になります。
2 つ目を使うと、大域切断をとった列が右端まで完全だとわかります。
ここで長完全列を書きます。 は入射的なので で です。
次のあたりをとり出すと、 が全射で、その次が 、さらに次が となります。完全性から です。
では、両隣が になるので同型が出ます。
も脆弱なので、 についての帰納法から右辺が だと結論できます。
計算例: 摩天楼層のコホモロジー
を位相空間、 を 1 点、 をアーベル群とします。摩天楼層 を次のように定めます。
開集合 が を含むなら 、含まないなら とします。
制限写像 を調べましょう。 が を含むなら の恒等写像、含まないなら です。どちらの場合も全射になります。
つまりこの層は脆弱です。前の節の結果から、次が直ちに従います。
1 点に情報が集まっている層には、貼り合わせの障害がありません。
チェック複体
導来関手による定義は理論的には明快ですが、そのままでは計算できません。開被覆を使って書き下したものがチェックコホモロジーです。
開被覆 をとり、添字集合に順序を入れておきます。 次のコチェインを次で定めます。
次は各 の上の切断、 次は 2 つの交わりの上の切断、 次は 3 つの交わりの上の切断です。

被覆が細かいほど交わりの層が深くなり、複体も長くなります。
差分写像
コチェインを次数の高いほうへ送る写像 を、交代和で定めます。
右辺の各項は、添字を 1 つ落とした成分を、より小さい交わりへ制限したものです。 はその添字を除くという意味になります。
証明:
を 次のコチェインとし、 を 2 回かけた成分を書き下します。
内側の をほどくと、添字を 2 つ落とした項の和になります。落とす添字の組 (ただし )ごとに項を集めましょう。
同じ組は 2 回現れます。 を先に落とす順と、 を先に落とす順です。
を先に落とす場合、外側の符号が 、内側で を落とす符号が です。 なので の位置はずれません。
を先に落とす場合、外側の符号が です。 が抜けたぶん の位置が 1 つ手前へずれるので、内側の符号は になります。
2 つの符号 と は逆です。項どうしが打ち消し合い、すべての組で同じことが起きるので となります。
複体になったので、コホモロジー が定義できます。
証明: チェックの 次は大域切断に一致する
次のコチェインは、各 の上の切断の組 です。差分写像は次の形になります。
核に入るのは、どの 2 つの重なりの上でも値が一致する組です。これは層の貼り合わせの公理が扱う状況そのものになります。
貼り合わせの公理から、そのような組はある に貼り合わさります。一意性の公理から、その はただ 1 つです。
逆に大域切断を各 へ制限すれば、重なりで一致する組が得られます。2 つの対応は互いに逆です。
次では被覆をどうとっても答えが変わりません。層の公理を書き直しただけだからです。
計算例: 2 枚の被覆で書き下す
被覆が の 2 枚だけなら、複体はとても短くなります。
3 つ以上の交わりがないので、 では です。差分写像も 1 本だけになります。
は、前の節のとおり大域切断です。 は、重なりの上のずれのうち、 と をとり替えても消せないものになります。
以下の計算例は、どれもこの 2 枚の形で済みます。
層コホモロジーと一致する条件
チェックコホモロジーと層コホモロジーは、いつでも一致するわけではありません。
被覆を細かくしていく極限を と書きます。 ではこれが と一致し、 では一般には一致しません。
前者はどんな位相空間でも成り立ちます(チェックコホモロジー)。
がパラコンパクトなハウスドルフ空間であれば、すべての次数で一致します。ゴドマンによる古典的な結果です。
ルレイの定理
極限をとらず、固定した被覆のまま一致させる条件もあります。
被覆 が に関して非輪状であるとは、すべての交わり の上で、 の高次コホモロジーが消えることをいいます。
このとき次が成り立ちます。
これをルレイの定理といい、非輪状被覆についての補題として定式化されます。証明はチェックから導来関手へのスペクトル系列を使うので、ここでは立ち入りません。
以下の計算例では、いずれもこの条件を満たす被覆を選んでいます。条件を確かめる作業まで含めて計算だと思ってください。
計算例: 定数層の 次
を位相空間、 をアーベル群 の定数層とします。
定数層の切断は局所定数関数です。連結な開集合の上では値が動けないので、定数になります。
が局所連結で、連結成分が の 個だとしましょう。局所連結なら各成分は開集合です。
成分は互いに交わらず、合わせて を覆います。したがって大域切断は、成分ごとに独立に値を選ぶことと同じになります。
次が数えているのは連結成分の個数でした。ここまでは貼り合わせの障害と関係ありません。
計算例: 円周上の定数層
、 とします。被覆は最初の図の , です。
と はどちらも弧なので連結で、 です。交わりは 2 つの弧に分かれるため、 になります。
差分写像は、2 つの重なりのそれぞれで差をとります。
核は となる組で、 に同型です。よって になり、 が連結であることと合っています。
像は対角線 です。したがって次が得られます。
弧も 2 つの重なりも可縮なので、定数層はその上で非輪状です。ルレイの条件が満たされ、得られた値は層コホモロジーそのものになります。
直観: 円周の 1 次が数えているもの
出てきた を、もとの図に照らして読んでみましょう。
側と 側の値を、片方の重なりでそろえたとします。 に残る自由度は使い切っているので、もう片方の重なりに残るずれは消せません。
この消せない整数がコホモロジー類です。円周を 1 周したときに値がいくつ飛ぶか、 はその飛び幅を数えています。
計算例: 射影直線の構造層
複素射影直線 を、標準的な 2 枚のアフィン開集合で覆います。
の座標を 、 の座標を とすると です。
差分写像は です。
核は と の共通部分、すなわち定数だけになります。よって です。
像は です。次数が 以上の項と 以下の項を合わせれば任意のローラン多項式が書けるので、これは の全体になります。したがって です。
3 つの開集合はどれもアフィンです。アフィン開集合の上では準連接層の高次コホモロジーが消えるので、この被覆はルレイの条件を満たします。
計算例: の 次
は、 と の上でそれぞれ自明化され、重なりの上での貼り合わせが 倍で与えられる直線束の層です。
チェック複体の形は構造層のときと同じになります。
差分写像には貼り合わせが挟まり、 となります。
核は をみたす組です。 を の多項式として と書くと、 の項は の形をしています。
これが に入るには、 となるすべての で 、すなわち でなければなりません。
なら は から までを動けるので、次元は です。 なら と が両立せず、 しかありません。
計算例: の 次
像は 2 つの部分から生まれます。 から来るのは ()が張る部分、 から来るのは ()が張る部分です。
合わせると、 または をみたす がすべて像に入ります。商に残るのは をみたす だけです。
なら、そのような は 1 つもありません。 なら が残り、その個数は になります。
たとえば では 次が消え、 次が 次元になります。大域切断がないのに 次が現れる、典型的な例です。
一般の でも同じ形の結果が知られています。 次は のとき次数 の斉次多項式のなす空間、 次は のときその双対で、それ以外は です。
出典は射影空間のコホモロジーです。上の の値は の場合にあたります。
計算例: アフィン直線上の構造層
とします。被覆として 自身の 1 枚だけをとってみましょう。
で、交わりがないので では です。
この答えが正しいのは、アフィンスキーム上の準連接層が非輪状だからです。1 枚の被覆でもルレイの条件が満たされます。
裏を返すと、非輪状でない層に 1 枚被覆を当てると誤った答えが出ます。次の節で見てみましょう。
直観: 被覆が粗いと何を見落とすのか
被覆を の 1 枚にすると、 でコチェインが空になります。チェックコホモロジーは、層が何であっても になってしまいます。
これは層コホモロジーが だという意味ではありません。 を 、層を にすれば、 次は本当は 次元でした。
粗い被覆では、交わりの上に隠れた障害が見えません。細かくすれば交わりの上の高次コホモロジーが消えていき、見落としがなくなります。ルレイの条件は、その「十分細かい」を言い換えたものです。
よくある誤り
最後に、間違えやすい点を並べておきます。
どれも定義に戻れば防げます。何を測っている群なのか、そこを見失わないことです。









