準連接層……アフィンでは加群、貼り合わせても加群のまま
準連接層は、加群を層に仕立て直したものです。アフィンな開集合の上では、必ずある加群 から作った層 の形をしています。
有限性は要求しません。無限生成の加群から作った層も準連接層です。有限性まで課したものが連接層になります。
以下ではまず の作り方を書き下し、判定条件を 1 つ用意します。そのあと例を 6 つ並べ、準連接でない層も作ってみる。
加群から層を作る
を可換環、 を 加群とします。 の基本開集合 に対して、次のように定めます。
を可逆にした加群です。 とすれば になります。
基本開集合が開基をなすので、この規定から層が 1 つ決まります。素イデアル での茎は局所化 です。
とすると 、つまり構造層そのものが出てきます。構造層は、いちばん基本的な準連接層です。
定義
スキーム 上の 加群 が準連接層であるとは、次が成り立つことをいいます。
をアフィン開集合 で覆えて、各 について 加群 が存在し、次の同型が成り立つ。
局所的には加群にすぎない、という条件です。貼り合わせ方は自由なので、大域的には加群と呼べないものも入ってきます。
環付き空間の言葉で言えば、局所的に の直和どうしの写像の余核として書ける層のことです[2]。添字集合は無限でもよい。
判定条件
いちいち被覆をとり直さずに済む言い換えがあります。 がアフィンのときの条件です。
が準連接であることと、すべての について次の自然な写像が同型であることが同値になります[3]。
左辺は大域切断を で局所化したもの、右辺は小さい開集合の上の切断です。「開集合を小さくすることと、分母を許すことが同じ」という条件になります。
準連接でない層を見つけるときは、この等式を壊せばよい。あとで実際に壊してみます。
アフィンでは加群と層が同じもの
判定条件を認めると、次の定理が出ます。アフィンスキームの上では、準連接層の圏と加群の圏が圏同値になります[1]。
この 2 つの関手が互いに擬逆です。加群の言葉で証明した命題は、そのまま層の言葉へ翻訳できます。
翻訳が効くので、アフィン上の議論はほとんど可換環論に帰着します。層らしい難しさが出るのは、貼り合わせたあとです。
開集合を小さくすると加群は大きくなる
判定条件の意味を、絵で見ておきます。
点を抜くたびに、その点で極をもつ関数が使えるようになります。開集合が痩せるほど、切断は太る。
準連接性とは、この太り方がちょうど局所化のぶんで済むという条件です。余計に太っても痩せてもいけません。
例: 構造層とイデアル層
いちばん近いところから並べます。
は です。 の上の切断が になるので、判定条件は定義そのものになります。
閉部分スキーム に対し、 の上で消える関数の層 を考えます。、 なら です。
は です。局所化が完全関手なので、商をとってから層にしても、層にしてから商をとっても同じものになります。
閉点 に対応する極大イデアルを とし、 加群 をとります。 に集中した層は に一致するので準連接です。
どれも の形が直接書けています。アフィンの上では、準連接層を作ることと加群を作ることが同じ作業です。
例: 局所自由層と直線束
貼り合わせで初めて出てくる例へ移ります。局所的に と同型な層を、階数 の局所自由層といいます。
大域的には と同型とは限りません。貼り合わせの部分に情報が入るためです。
射影直線 で作ってみましょう。2 枚のアフィン開集合を 、 とします。
重なりの上で、 側の切断に を掛けて 側の切断へ移す。この規則で貼り合わせた階数 の層を と書きます。
なら構造層そのものです。 では構造層と同型になりません。大域切断の次元が変わるためです。
のとき、大域切断は次数 以下の多項式のなす空間で、次元は になります。 では大域切断が だけ。
局所的には 次元、大域的には次元が で動く。この差が貼り合わせの効果です。
例: 無限直和
準連接層に有限性の条件はありません。無限個の直和も準連接です。
を考えると、アフィン開集合の上では という無限生成加群に対応します。局所化は直和と交換するので、判定条件が通ります。
一般の環付き空間ではこれが崩れます。無限直和が準連接とは限らない、という警告が付いています[2]。
スキームに限れば安全です。準連接層の圏はアーベル圏になり、核も像も余核も準連接層のままです[3]。
準連接でない層を作る
判定条件を壊してみましょう。、 とします。
の外側で茎が になるように、 を で延長した層 を作ります。 の上では と同じで、原点での茎は です。
大域切断を計算します。 全体の切断は、原点の近くで になる 上の関数です。 の でない元は原点の近くで消えないので、そのような切断は しかありません。
もしこれが準連接なら の形に書けます。 なので、層全体が でなければならない。
ところが の上では ではありません。矛盾するので、この層は準連接ではないと分かります。
による延長は、判定条件をきれいに壊す操作です。「小さい開集合のほうが切断が多い」の度が過ぎている、と読めます。
茎と台を計算する
の茎は局所化でした。この事実だけで、層の台がすぐに求まります。
、 としましょう。 は原点に集中した加群です。
素イデアル で局所化します。 なら が の中で可逆かつ になるので、 です。
では が残ります。生成点 でも が可逆になるので です。
したがって茎が でないのは原点だけ。台は 1 点になり、この層は原点の摩天楼層です。
加群の台と層の台が一致します。 という可換環論の公式が、そのまま幾何の言葉になっている。
完全列は茎ごとに見る
準連接層の圏がアーベル圏である、という主張の中身を計算で確かめます[3]。
の上で、 倍写像 を考えましょう。加群の言葉では です。
局所化は完全関手なので、核と余核はそれぞれ加群の核と余核から来ます。核は 、余核は です。
右端は原点の摩天楼層です。層の完全列が、加群の完全列と 1 対 1 に対応している。
アフィンでない場合も、アフィン開集合ごとにこの計算をして貼り合わせます。局所化の完全性が全体を支えています。
貼り合わせの図
がどう組み立てられているかを描いておきます。

重なりの上でどう掛け合わせるかだけが自由です。掛ける量を に選んだものが になります。
の代わりに ( は重なりの上の可逆元)を使っても、同型な層しか出ません。整数 だけが本質的な情報です。
の大域切断を数える
大域切断を実際に計算しましょう。 側で多項式 、 側で をとります。
重なりの上で が要求されます。 と書くと、 の項は の形です。
これが多項式であるには 、つまり が必要になります。
なら は から まで動けるので、大域切断の次元は です。 なら条件をみたす がなく、 しかありません。
には大域切断が しかない。局所的には と同じ形なのに、貼り合わせのせいで大域では何も残りません。
ベクトル束としての読み方
階数 の局所自由層は、階数 のベクトル束と同じものです[3]。
各点にベクトル空間が乗っていて、近くの点どうしで自然につながっている。層の言葉では、局所的に と同型ということです。
は階数 なので直線束と呼ばれます。 上の直線束は、同型を除いて整数 で尽くされます。
局所自由層はいつでも連接層です。逆は成り立たず、摩天楼層は連接でも局所自由ではありません。台が 1 点に潰れているためです。
連接層との違い
有限性を課したものが連接層です。2 つの条件の差を並べます。
局所的に加群として書ける。加群の生成に有限性を要求しないので、無限直和や無限生成加群から来る層も含まれる。
準連接層のうち、局所的に有限生成で、さらに有限表示をもつもの。ネーター的なスキームの上では、有限生成という条件だけで足りる。
ネーター的なら、連接層は局所的に有限生成加群に対応する層と一致します[4]。この条件の下では、有限生成と有限表示が同じことになるためです。
幾何の対象としては、連接層が有限次元的なものにあたります。準連接層はその外側まで含んだ広い枠です。
用語の対応
英語の資料を読むときのために、名前を並べておきます。
日本語の「準」は quasi の訳です。連接の一歩手前、という語感になっています。
引き戻しは準連接性を保つ
射に沿って層を動かす操作のうち、引き戻しは扱いやすい側です。
を射、 を 上の準連接層とすると、引き戻し は 上の準連接層になります[2]。
アフィンどうしで見ると、テンソル積そのものです。 に対応する射なら、 の引き戻しは です。
側で加群 をとる
環準同型 でテンソルする
側の加群 を層にする
局所的な計算だけで済むので、条件なしに準連接性が保たれます。押し出しのほうは射に条件が要り、そこから先は別の話になる。
練習
の上の 加群 が準連接であるための条件はどれですか。
- が有限生成 加群である
- すべての について が同型である
- すべての点で茎が有限生成である
- が の部分層である
よくある誤り
最後にまとめます。
判定条件に戻れば、どれも短く決着します。局所化と切断が食い違っていないか、そこだけを見る。











有限生成を課すと連接層の条件に寄ってしまいます。準連接性は有限性とは無関係で、局所化との整合だけを見る条件です。摩天楼層は有限生成ですが、無限直和は有限生成ではありません。どちらも準連接層です。