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開被覆だけでコホモロジーを計算するチェックの方法

チェックコホモロジーは、開被覆だけを材料にしてコホモロジーを計算する方法です。

層の切断を、開集合ごと・交わりごとに並べます。並べたものを差分でつなぐと複体になり、そのコホモロジーをとる。

導来関手による定義と違い、手で計算できます。被覆を 1 つ選べば、あとは線形代数です。

以下では複体を組み立て、円周と射影直線で実際に計算します。層コホモロジーと一致する条件まで確かめる。

コチェイン

位相空間 、開被覆 、層 をとります。添字集合には順序を入れておきます。

次のコチェインを次で定めます[1]。

次は各 の上の切断の組、 次は 2 つの交わりの上の切断の組、 次は 3 つの交わりの上の組です。

交わりが空なら、その成分は零になります。被覆が粗いと高次のコチェインが早く消えます。

差分写像

次数を 1 つ上げる写像を、交代和で定めます[1]。

はその添字を除くという意味です。右辺の各項は、より小さい交わりへ制限されています。

次では次の形になります。

2 つの切断の差を、重なりの上でとっているだけです。ずれを測る写像だと読めます。

複体になることを確かめます。 を 次として、2 回かけた成分を書きましょう。

内側の をほどくと、添字を 2 つ落とした項の和になります。落とす組 ()ごとに集めます。

同じ組は 2 回現れます。 を先に落とす順と、 を先に落とす順です。

前者の符号は です。後者では が抜けたぶん の位置が 1 つ手前へずれ、 になります。

符号が逆なので打ち消し合います。すべての組で同じことが起きるので です。

次は大域切断になる

を計算します。 は、どの重なりの上でも値が一致する組です。

これは層の貼り合わせの公理が扱う状況そのものです。したがって 1 つの大域切断に貼り合わさります[2]。

一意性の公理から、貼り合わせ方はただ 1 通りです。逆に大域切断を制限すれば、一致する組が得られます。

次では被覆をどう選んでも答えが変わりません。層の公理を書き直しただけだからです。

被覆と交わりを絵にする

材料の並びを描いておきます。

3 枚の被覆なら、 次まで作れます。3 枚の共通部分が空なら、そこで複体が止まります。

被覆が細かいほど交わりが深くなり、複体も長くなります。粗い被覆では早く切れる。

例: 円周を 2 枚で覆う

、 とします。2 つの弧 、 で覆いましょう。

弧は連結なので です。交わりは 2 つの弧に分かれるので になります。

差分写像は、2 つの重なりのそれぞれで差をとります。 です。

核は の組で 、像は対角線です。したがって次を得ます。

が なのは円周が連結だから。 の が、1 周したときの飛び幅を数えています。

例: 円周を 3 枚で覆う

被覆を替えても答えが変わらないことを確かめます。3 つの弧で覆いましょう[1]。

隣どうしだけが重なり、3 つの共通部分は空とします。各交わりは連結です。

係数を でとりました。 なので です。

の核は定数の組で 次元、したがって像は 次元になります。

2 枚のときと同じ答えです。良い被覆を選べば、被覆の枚数によらない値が出ます。

被覆を細かくする

被覆を替えていくようすを動かします。

枚数を増やしても答えが変わりません。円周の場合、どの弧も可縮なので条件が満たされているためです。

細かくすると計算量は増えます。値が変わらないなら、粗いほうを選ぶのが得です。

粗すぎると失敗します。次の節で反例を見ます。

極限をとる

被覆に依存しない定義もあります[1]。

被覆の細分について極限をとり、 と書きます。細かくしていった先の値です。

では、これが層コホモロジーと一致します。どんな位相空間でも成り立ちます[1]。

では一般に一致しません。 がパラコンパクトなハウスドルフ空間なら、すべての次数で一致します[1]。

ネーターかつ分離的なスキームの上の準連接層についても、ザリスキ位相で一致することが知られています[1]。

例: 射影直線の構造層

代数幾何での計算例です。 を 2 枚のアフィン開集合で覆います[5]。

、、交わりは です。

差分写像は になります。核は で、定数だけです。

像は で、これは の全体になります。次数が正の項と負の項を合わせれば、任意のローラン多項式が書けるためです。

大域正則関数が定数しかないこと、 次が消えることが、線形代数だけで出ました。

粗い被覆の落とし穴

被覆を 1 枚にすると何が起きるかを見ます。

とすると、交わりがないので で です。

したがって が、層に関係なく出てしまいます。

、 とすると、本当の は 次元です。1 枚被覆ではとり逃がします。

粗い被覆では、交わりに隠れた障害が見えません。何枚あれば足りるかを決める条件が要ります。

ルレイの条件

固定した被覆のまま一致させる条件があります[3]。

すべての交わり の上で の高次コホモロジーが消えるとき、被覆は非輪状であるといいます。

このとき が成り立ちます。極限をとらずに済む。

アフィンスキームの上では準連接層の高次コホモロジーが消えるので、アフィン開被覆が条件をみたします[4]。

を 2 枚のアフィンで覆ったのは、この条件を満たすためでした。円周で弧を使ったのも、弧が可縮だからです。

練習

を 自身 1 枚だけで覆ってチェックコホモロジーを計算すると、 の 次はいくつになりますか。

  • 1 次元。正しい値が出る
  • 0 になるが、本当の値とは違う
  • 計算できない
  • 無限次元になる
__RESULT__

1 枚被覆では交わりがないので ()となり、層が何であっても 次は です。ところが の本当の は 次元なので、この計算は誤りになります。 は 1 枚のアフィンで覆えないため、ルレイの条件が満たされていません。

被覆が条件をみたすかを先に確かめる。計算より前の手順です。

よくある誤り

まとめます。

どの被覆で計算してもよいと思う。非輪状な被覆を選ぶ必要がある。
チェックと層コホモロジーがいつでも一致すると思う。 では条件が要る。
が大域切断と別のものだと思う。層の公理を書き直しただけである。
交わりが空でも成分があると思う。空なら零になり、複体はそこで止まる。
細かい被覆ほど正しいと思う。条件をみたせば粗い被覆でも正しい。
添字の順序を無視する。順序を入れて に限るのが定義である。

被覆を選び、条件を確かめ、線形代数を回す。この 3 手が計算の全体です。

参考文献

Čech cohomology, Wikipedia (English).
Sheaf (mathematics)), Wikipedia (English).
Coherent sheaf, Wikipedia (English).
Section 17.10: Quasi-coherent modules, The Stacks Project.
Scheme (mathematics)), Wikipedia (English).
開集合ごと、交わりごとに切断を並べ、交代和で作った差分でつなぐと複体になります。$\delta\delta = 0$ を符号の打ち消しで確かめ、$0$ 次が大域切断そのものになることを層の公理から導く。円周を 2 枚と 3 枚で覆ってどちらも $H^1$ が同じ値になることを計算し、$\mathbb{P}^1$ の構造層も線形代数だけで求めます。1 枚被覆で $\mathcal{O}(-2)$ の $1$ 次を見落とす例と、ルレイの条件まで扱う。