正則局所環(次元と生成元の本数がそろう点)
ネーター局所環 が正則であるとは、 を生成するのに必要な元の本数が、 のクルル次元にちょうど等しいことをいいます[1,2]。
左辺は接空間の次元、右辺は環としての次元です[3]。 つがそろえば滑らかな点、ずれれば特異点。
判定は「数を つ出して比べる」だけで終わります。
余接空間 m/m²
は剰余体 上のベクトル空間になる。 の元を 次以上の項ごと潰した空間、と読めます。
幾何では余接空間にあたります[3]。その双対がザリスキ接空間で、点の周りにどれだけの方向があるかを表す。
の次元は、 の最小生成元の本数と一致する[2,4]。中山の補題がこの一致を与えます。
この本数を埋め込み次元と呼ぶ[4]。埋め込み次元はつねに 以上で、下回ることはありません。
そろうか、ずれるか
埋め込み次元が より大きくなる状況は、点の周りに余分な方向が生えている状況です。曲線なのに接方向が平面いっぱいに広がる、という形。
左では次元 に対して生成元も 本。右では次元 なのに生成元が 本要る。
この差が正則かどうかの差です。
例: 形式的冪級数環
は正則局所環です[1,3]。極大イデアルは で、生成元は 本。
クルル次元も なので、本数と次元がそろう。 次元の滑らかな点をそのまま代数にしたもの。
例: 多項式環を原点で局所化する
アフィン空間の原点における局所環にあたる。原点に特異点はないので、正則になるのは当然の結果です。
上の有限生成代数を滑らかな点で局所化すると、いつも正則局所環が出ます[3]。判定にはヤコビ行列が使える。
例: 1 次元なら離散付値環
次元 の正則局所環は、離散付値環にほかなりません[2]。極大イデアルが 本の元で生成される。
その生成元が素元で、どの元も素元の冪と単元の積に一意に書ける。 次元で整閉な整域、という特徴づけとも重なります[3]。
反例: 尖点
を原点で局所化した環を見ます。曲線 の尖点にあたる点です。
クルル次元は 。曲線なので当然です。
ところが について は 次元になる。関係式 は次数 以上の項しか含まず、 と のあいだに 次の関係を与えないため。
なので正則ではありません。尖った点が特異点として現れる[2]。
この環は整閉でもありません。曲線を と媒介変数で書くと、 が にあたります。
は を満たすので環の上で整。それなのに環に入っていないので、整閉包をとると まで広がります。
反例: 交叉する 2 直線
を原点で局所化した環も正則になりません。 本の直線が原点で交わる図形。
次元は 、埋め込み次元は 。尖点と同じ形のずれが出る。
この環にはもう一つ理由があります。、 なのに なので、整域ではない。
正則局所環はつねに整域なので、これだけで正則から外れる[4]。
正則列と次元の落ち方
を最小の本数で生成する は、正則列になります[4]。順に割っていくと、次元がきれいに ずつ落ちる。
しかも途中の が、また正則局所環になる[4]。
逆に が正則局所環になるのは、 が最小生成系の一部で生成されるときに限ります[4]。
整域である
正則局所環はつねに整域です[1,4]。定義には零因子の話が出てこないのに、結論として出てくる。
証明は次数付き環を見ると早い。 の冪で作った次数付き環が、多項式環と同型になるためです[4]。
多項式環は整域なので、そこから元の環の整域性が従う。 でない元に最低次の項を割り当てると、積が消えないことが確かめられる。
一意分解整域である
もっと強く、正則局所環は一意分解整域になります[1,2,3]。アウスランダーとブックスバウムの定理。
整域であることに比べて、この主張はずっと深いところにある。素元分解の一意性が、次元と生成元の本数の一致だけから出てくる。
コーエン・マコーレーであることも成り立つ[3]。深さと次元が一致する、という別の形のそろい方です。
セールの判定と局所化
セールは、正則性をホモロジー代数の言葉で言いかえました[1,2]。ネーター局所環が正則であることと、大域次元が有限であることが同値になる。
この言いかえには大きな効き目があります。正則局所環の素イデアルによる局所化が、また正則になると分かる[1]。
もとの定義からこれを示すのは簡単ではありません。ホモロジーの側へ渡すと、局所化が完全関手であることから素直に出る。
正則性が局所化で保たれるので、すべての局所環が正則な環を正則環と呼べるようになる[3]。
正則環
すべての素イデアルでの局所化が正則局所環になる環を、正則環と呼びます[3]。正則性が局所化で保たれるおかげで、この定義が意味を持ちます。
は正則環になる。どの点で局所化しても、アフィン空間の滑らかな点しか出てきません。
も正則環になる。素数 で局所化すれば離散付値環 が出て、 で局所化すれば体です。
デデキント環は 次元の正則環にあたります[3]。 でない素イデアルでの局所化が、すべて離散付値環になるため。
正則系のパラメータは局所座標
を最小本数で生成する を、正則系のパラメータと呼びます[1,3]。これは点の周りの局所座標として働く。
冪級数環 で変数が座標だったことと重なります。次数付き環が多項式環と同型になるという事実が、この見方を支えています[4]。
アルティン局所環では体だけ
アルティン局所環が正則になるのは、それが体のときに限ります[2]。
アルティン環の次元は なので、正則なら も 次元。中山の補題から となり、 は体になります。
は正則ではありません[1]。次元は なのに が でない。
ヤコビ判定法
体上の有限生成代数なら、正則性は行列の階数で判定できます[3]。 で定義される図形の点 で、ヤコビ行列の階数を測る。
階数が に達していれば、その点の局所環は正則です。滑らかな点、という幾何の言葉と一致する[1]。
正則性が埋め込み方によらないことも大事です[1]。同じ図形をどの空間に入れても、点が滑らかかどうかは変わりません。











