極大イデアルがただ一つ - 局所環の性質
極大イデアルをちょうど一つだけ持つ環を局所環と呼びます[1,2,3]。
一点の近くだけを見ている環、という気分の名前です。クルルが 年に Stellenringe という名で導入しました[2]。
条件の書き方はいくつもあります[1,3]。どれも同じ環を指しますが、使う場面がそれぞれ違う。
三通りの言いかえ
番目から 番目が出る筋は短い。 と が両方とも単元でないと、和の も単元でなくなってしまいます。
内側の橙が単元でない元の全体で、これがそのまま唯一の極大イデアル になります。外側の青が単元。
真のイデアルは単元を含めません。だから に入らないイデアルは作れず、 がすべての真のイデアルを飲み込む。
剰余体
局所環 に対して、 を剰余体と呼ぶ[1,2,3]。極大イデアルで割った先なので、これは体になります。
可換でない場合には斜体が出る[2]。ジャコブソン根基で割った先が剰余体にあたります[2]。
剰余体は「その点での値」を測る道具になる。関数の芽の環なら、剰余体への写像がちょうど点での値を返す。
局所準同型
局所環どうしの準同型では、極大イデアルの行き先を条件にします[1]。
が を満たすとき、局所準同型と呼ぶ[1]。
条件を付けないと不都合が出ます。 のような写像は、極大イデアルを へ潰してしまう。
局所準同型に限れば、剰余体のあいだの写像が自然に定まる。点と点の対応が保たれる、という気分になります。
例: 体
体は極大イデアルが ひとつだけなので局所環です[1,2]。単元でない元は だけ。
いちばん退屈な例ですが、剰余体が自分自身になるという性質は使い道があります。
例: 形式的冪級数環
体 上の は局所環です[1,2]。定数項が でない冪級数が単元になる。
逆数は等比級数で書ける。 の逆数が になる、という形です。
定数項が の冪級数の全体が、唯一の極大イデアル です。次元は で、離散付値環にもなる。
例: 素イデアルでの局所化
可換環 と素イデアル に対して、 を分母にとった は局所環です[1,2,3]。
極大イデアルは の像が生成する[3]。 の外の元を全部単元にしたので、残る非単元が 由来のものだけになる。
が例です[1,2]。分母が奇数の有理数を全部集めた環で、極大イデアルは になる。
局所環を作る操作としては、これがいちばん基本的な形です。素イデアルを一点に選び、その周りだけを見る。
例: p 進整数と剰余環
進整数環も局所環です[1]。極大イデアルは が生成する。
も局所環になる[2,3]。単元でない元は の倍数で、それらが極大イデアルをなす。
も同じ形です[2]。次元は で、極大イデアルの 乗が消える。
例: 関数の芽
の近くで定義された連続関数を、 のまわりで一致するものどうし同一視した集まりを考えます[1,2]。
これは局所環になる[1]。ある芽が単元であることと、その点での値が でないことが同値になる。
正則関数の芽でも同じ[3]。代数多様体の点における局所環も、この発想を代数の側で実現したものです[2]。
「点の近く」という言葉が、環の言葉にそのまま乗る。
反例: 整数環と多項式環
は局所環ではありません[1,2]。極大イデアルが素数ごとにあり、無限個ある。
も局所環になりません[1]。既約多項式ごとに極大イデアルが立つ。
どちらも局所化すれば局所環になります。もとの環が局所でないことと、各点で見れば局所になることは両立する。
半局所環
極大イデアルが有限個の環を半局所環と呼ぶ[1]。局所環をゆるめた概念。
アルティン環はこの形に入ります。有限個の極大イデアルを持ち、局所環の直積に分解する。
中山の補題
局所環でいちばんよく使う道具が中山の補題です[1]。
有限生成 加群 について が成り立てば、 が従う。「少し縮めて元に戻るなら、もともと何もなかった」という主張です。
系として、生成元の本数が測れるようになる。 の剰余体上の次元が、最小生成系の本数を与える。
有限生成という仮定は外せません。無限生成の加群では成り立たない例が作れる。
クルルの交叉定理
ネーター局所環では、極大イデアルの冪の共通部分が になります[1]。
無限に小さい元がない、という主張です。 でない元は、どこかの段階で から外れる。
この性質があるので、 の冪を使って距離を測れる。冪の指数が大きいほど に近い、と決めればよい。
完備化
進位相についての完備化 は、射影極限として作ります。
各段で を無視した近似を並べ、それらが整合する列を集めた環です。
を完備化すると 進整数環が出る。多項式環を原点で局所化して完備化すれば、形式的冪級数環になる。
完備化しても次元も剰余体も変わりません。扱いにくい部分だけを整えて、幾何の情報は保つ操作になる。
ヘンゼルの補題
完備な局所環では、方程式の解を段階的に持ち上げられます[4]。
多項式 が を法として単純根 を持てば、 は各 を法とする単純根へ一意に持ち上がる[4]。
手順はニュートン法とそっくりです[4]。
が単元であることが、割り算を可能にしている。単純根という条件がここで効く。
進整数環では、 を法とする平方剰余が一意に平方根へ持ち上がります[4]。 も同じ性質を持つ[4]。
この性質を満たす局所環をヘンゼル環と呼びます[4]。完備でなくても成り立つ場合がある。
幾何での意味
代数多様体の点をとり、その点で消えない関数を分母に許すと局所環が出ます[2]。点のまわりだけを見る操作にあたる。
極大イデアルは、その点で消える関数の全体です。剰余体はその点での値の体になります。
環の性質が点の性質になる、という対応がここで立つ。特異点かどうかも、局所環の性質として書けるようになります。











