行列 に対して、ある固有値 に対応する固有ベクトル全体と零ベクトルを合わせた集合を固有空間(eigenspace)といいます。固有空間は を満たす固有ベクトル だけでなく、零ベクトルも含めることでベクトル空間としての性質を保ちます。
数式で表すと、固有値 に対応する固有空間 は次のように定義されます。
この集合は を満たすベクトル全体、つまり の核と一致します。
固有空間の性質
固有空間は部分空間です。つまり、ベクトルの加法とスカラー倍について閉じています。
固有空間に属する 2 つのベクトルの和も固有空間に属する
固有空間に属するベクトルのスカラー倍も固有空間に属する
零ベクトルは常に固有空間に含まれる
固有空間の次元を固有値の幾何的重複度といいます。これは の核の次元に等しく、固有値 に対して線形独立な固有ベクトルがいくつ存在するかを表します。
具体例
次の行列 を考えます。
この行列の固有値は (重複度 2)です。固有空間 を求めるために を解きます。
これを解くと となり、 は任意です。したがって固有空間は次のようになります。
この場合、固有空間の次元は 1 です。固有値の代数的重複度(固有多項式における重複度)は 2 ですが、幾何的重複度は 1 となります。
固有空間の応用
固有空間は行列の対角化において重要な役割を果たします。行列 が対角化可能であるための必要十分条件は、すべての固有値について幾何的重複度と代数的重複度が一致することです。
すべての固有値で幾何的重複度 = 代数的重複度
行列は対角化可能
また、固有空間を用いることで主成分分析(PCA)やスペクトル分解など、データ解析や機械学習における多くの手法を理解できます。固有空間は高次元データを低次元の部分空間に射影する際の基底として機能します。