点列の極限が一意であることとハウスドルフであることは、一般には必要十分ではありません。ハウスドルフ空間では点列の極限は一意ですが、逆は成り立ちません。つまり、点列の極限が常に一意であってもハウスドルフでない空間が存在します。
可算集合 に余可算位相を入れた空間を考えます。余可算位相とは、開集合を「空集合」と「補集合が高々可算である集合」として定義した位相です。
が非可算集合のとき、余可算位相を持つ空間は T1 空間(1点集合が閉集合)ですが、ハウスドルフ空間ではありません。異なる2点 を分離しようとしても、それぞれを含む開集合の補集合は高々可算なので、必ず交わってしまいます。
この空間では、点列が収束するためには、ある番号以降で定数列になる必要があります。したがって、収束する点列の極限は自明に一意です。
具体的には、点列 が点 に収束するとします。 を含む任意の開集合 に対して、ある 以降すべての が に含まれます。 の補集合は高々可算なので、無限個の が に含まれるためには、ある番号以降で となる必要があります。
このように、点列の極限は一意ですが、空間はハウスドルフではありません。
第一可算公理を仮定すると必要十分
位相空間が第一可算公理を満たす場合(各点が可算な近傍基を持つ場合)、点列の極限の一意性とハウスドルフ性は必要十分になります。
第一可算空間において、点列の極限が常に一意であると仮定します。異なる2点 を分離する開集合が存在しないと仮定すると、 と の任意の開近傍は必ず交わります。
第一可算性により、 の可算な近傍基 と の可算な近傍基 が取れます。各 に対して なので、この交わりから点 を選べます。
すると点列 は にも にも収束しますが、これは極限の一意性に矛盾します。したがって空間はハウスドルフです。
第一可算空間で点列の極限が一意
空間はハウスドルフ
ユークリッド空間などの距離空間は第一可算なので、この結果が適用できます。
まとめ
一般の位相空間では、ハウスドルフ性は点列の極限の一意性を導きますが、逆は成り立ちません。ただし、第一可算空間に限定すれば、両者は必要十分条件になります。
ハウスドルフ ⇒ 点列の極限が一意(逆は不成立)
ハウスドルフ ⇔ 点列の極限が一意(必要十分)