解析接続(analytic continuation)は、ある領域で定義された正則関数を、より広い領域へ拡張する手続きのこと。
基本的な考え方
関数 が領域 で正則であるとする。別の領域 で定義された正則関数 が、 において を満たすとき、 を の解析接続という。
内のある収束点列とその極限点で が成り立てば、共通部分全体で となる。この性質により、解析接続は一意的に定まる。
ある点 の周りでべき級数展開された関数は、収束円内で正則である。収束円の境界上の点 で新たにべき級数展開すると、元の円を越えて定義域を広げられる。
具体例:対数関数
対数関数 は解析接続の典型例。実数の対数 ()から出発しよう。(, )に対して
と定義すれば、負の実軸を除く複素平面で正則な関数が得られる(主値)。
しかし を に制限する必然性はない。 の範囲を広げると、異なる「枝」が現れる:
これらすべての枝を含む構造がリーマン面である。
リーマン面
多価関数を一価関数として扱うために、定義域を複数の「葉」から成る曲面として構成する。
の場合、複素平面を無限に積み重ねた螺旋階段状の曲面を考える。原点を一周するごとに別の階層へ移り、 ずつ値が変化する。
実軸上の
主値 ()
すべての枝を含むリーマン面上の一価関数
特異点と自然な境界
解析接続が行き詰まる点を特異点という。
除去可能特異点、極、真性特異点の 3 種類がある。これらは Laurent 展開で分類できる。
ある曲線上のすべての点が特異点になる場合、その曲線を自然な境界と呼ぶ。たとえば は単位円 が自然な境界となる。
自然な境界の存在により、すべての正則関数を複素平面全体に拡張できるわけではない。
解析接続の一意性
正則関数の解析接続は、連結な領域では一意的である。これは一致の定理の帰結である。
ただし、経路によって異なる値に到達することもある(単連結でない場合)。 を原点の周りに一周させると、符号が反転する。このような現象を単射性(monodromy)という。