解析接続とべき級数展開

解析接続の具体的な実行手段として、べき級数展開は重要な方法である。正則関数は局所的にべき級数で表現でき、この性質を利用して定義域を段階的に拡張していく。

べき級数の収束円

を中心とするべき級数

は、ある半径 に対して で絶対収束し、 で発散する。この を収束半径という。

収束半径は Cauchy-Hadamard の公式

で与えられる。収束円 の内部で、 は正則関数を定義する。

収束円の境界

境界 上には必ず特異点が存在する。ただし境界全体が特異点とは限らず、一部の点でのみ問題が生じることもある。

正則性と収束

収束円内部の任意の点で は何回でも微分可能であり、導関数もべき級数で表される:

接続の手順

の周りで定義された を、収束円外の点 まで拡張する手順を考えよう。

収束円 の内部に点 をとる。 の周りで新たにべき級数展開を行うと

が得られる。係数は

で計算できる。

この新しいべき級数の収束半径を とすると、 で正則関数が定義される。 を適切に選べば、元の収束円を越えた領域まで関数を拡張できる。

周りのべき級数(収束半径

収束円内の点 を選ぶ

周りで再展開(収束半径

新たな領域 で関数が定義される

具体例:幾何級数

最も単純な例として

を考える。原点中心の収束半径は である。

で再展開しよう。 と書くと

これをべき級数展開すると

となる。この級数の収束半径は であり、 すなわち の範囲で収束する。

元の級数では の一部しかカバーできなかったが、再展開により の領域全体へ拡張された。

接続経路と一意性

から点 へ解析接続する際、経路の取り方によって結果が異なる場合がある。

単連結領域

領域 が単連結(穴がない)ならば、どの経路で接続しても同じ結果が得られる。これは Cauchy の積分定理の帰結である。

多価性の発生

領域に穴があると、穴の周りを回る経路によって異なる値に到達しうる。 がその典型例である。

たとえば を考える。 から出発して正の実軸上で とする。

から へ接続する際、上半平面を通る経路では となるが、下半平面を通ると となる。原点を一周することで符号が反転する。

自然な境界の例

すべての境界点が特異点となり、それ以上の解析接続が不可能な場合を考える。

関数

は原点を中心とする収束半径 のべき級数。

単位円 上の任意の点 は互いに素な整数)において、 は周期的に繰り返される。このため級数は振動して収束せず、 は特異点となる。

有理点が単位円上で稠密であることから、連続性により円周全体が特異点となる。これが自然な境界である。