解析接続とは|べき級数の再展開・多価性・自然境界
べき級数は収束円の中でしか意味を持たない。しかしその外側にも同じ関数が延びていることがある。円の中心を移して展開し直すと、届く範囲が変わるからである。
この操作を繰り返して定義域を広げるのが解析接続である。どこまで広げられるか、途中で分岐しないか、そもそも一意に決まるのかが問題になる。
何をしたいのか
は を除いて意味を持つ関数である。ところが原点でのべき級数 は でしか収束しない。
級数という表し方に限界があるだけで、関数そのものが単位円で切れているわけではない。表し方を取り替えれば先へ進める。
中心を に移して展開し直すと、今度は で収束する。もとの単位円の外側、 のような点まで届く。
これを繰り返して定義域を広げていく。ただし、広げた先の値が経路によらず定まるのか、どこかで行き止まるのかは、別に調べなければならない。
べき級数の収束円
点 を中心とするべき級数を考える。
ある があって、 で絶対収束し、 で発散する。この を収束半径という。
値はコーシー・アダマールの公式で決まる。
収束円の内部で は正則である。項別微分ができ、導関数もべき級数になる。
この級数の収束半径も に等しい。何回でも微分でき、 が成り立つ。
収束半径は最も近い特異点までの距離
収束半径が何で決まるかを見る。答えは特異点の位置である。
まず、 が円板 で正則なら である。コーシーの積分公式から係数評価が出る。
を取り、 上での の最大値を とすると、コーシーの評価式は次を与える。
これを 乗根に入れると である。 を に近づけて を得る。
逆に なら、境界 の上に特異点が少なくとも 1 つある。
もし境界上のすべての点が正則点なら、各点の近傍へ が延びる。境界はコンパクトなので有限個で覆え、 より大きい半径 の円板全体で正則になる。
すると前半から となって矛盾する。したがって境界上に特異点が存在する。
実軸だけ見ても分からない例
実数の関数として見ると、すべての実数で定義され何回でも微分できる。特異な点はどこにもない。
ところが原点でのテイラー級数の収束半径は 1 である。
では発散する。実数の世界にいるかぎり、なぜ 1 で止まるのか説明できない。
複素数に広げると理由が見える。 が極であり、原点からの距離がちょうど 1 である。前節の定理どおり、最も近い特異点までの距離が収束半径になっている。
実軸上の現象が、実軸から離れた点によって支配されている。複素解析を使う動機のひとつがこれである。
解析接続の定義
領域 とし、 を 上の正則関数とする。 上の正則関数 で 上 に一致するものを、 の への解析接続という。
大事なのは「正則なまま延ばす」ことである。連続に延ばすだけなら方法はいくらでもあるが、正則性を課すと選択の余地がほとんどなくなる。
その「ほとんどない」を正確にするのが次の一致の定理である。解析接続の理論はここから始まる。
一致の定理
を領域、すなわち連結な開集合とする。 を 上の正則関数とし、 内に集積点を持つ集合の上で が成り立つとする。このとき 全体で である。
とおき、次の集合を考える。
は閉集合である。各 が連続なので、その零点集合は閉であり、閉集合の共通部分も閉だからである。
は開集合でもある。 なら でのテイラー展開の係数がすべて なので、収束円内で である。その円板は に含まれる。
が空でないことを見る。仮定の集積点を とすると、連続性から である。
もし が の近くで恒等的に でないなら、()と書ける。 の連続性から の十分小さい近傍で となり、その近傍で の零点は のみになる。
これは が零点の集積点であることに反する。よって は の近傍で恒等的に であり、 である。
は空でない開かつ閉な部分集合で、 は連結だから である。したがって となる。
接続の一意性
一致の定理から一意性がただちに従う。 を領域とし、 を 上の正則関数とする。
への解析接続は、存在すれば一意である。
と が両方とも接続だとすると、 上で一致する。 は空でない開集合なので、その点はすべて集積点である。
一致の定理を に適用して を得る。
延ばし方に自由度がないので、「その関数の解析接続」と定冠詞つきで呼んでよい。あとで見る多価性は、この一意性を破るものではなく、経路ごとに別の接続が得られるという話である。
再展開による接続
具体的な接続の手段がべき級数の再展開である。 が で正則とし、 を取る。
を中心に展開し直す。係数は で計算できる。
この級数の収束半径を とする。 であれば、新しい円板がもとの円板からはみ出し、真の拡張になる。
点 周りのべき級数(収束半径 )
円内の点 を選ぶ
周りで再展開(収束半径 )
なら定義域が広がる
問題は、どの を選べば拡張になるかである。次の評価と 2 つの例でそこを見る。
新しい収束半径の下からの評価
つねに が成り立つ。等号のときは何も広がらない。
三角不等式から である。 なら だからである。
はこの小さい円板で正則なので、収束半径の下からの評価から となる。
したがって再展開で定義域が狭くなることはない。しかし広がる保証もない。広がるかどうかは特異点の配置で決まる。
特異点から遠ざかる方向に移す
特異点は の 1 点だけである。中心を に移す。特異点から遠ざかる向きである。
とおくと なので、等比級数の形に整える。
収束条件は 、つまり である。 となる。
前節の下限は だったので、 はそれを大きく上回る。真の拡張である。
新しい円板は の直前まで届く。たとえば は で入るが、もとの単位円の外にある。
検算しておく。 を代入すると となり、 に一致する。
は から特異点 までの距離である。収束半径の定理どおりになっている。
特異点に近づく方向では広がらない
同じ関数で に移すとどうなるか。今度は特異点 に近づく向きである。
収束条件は 、つまり である。 となる。
これは下限 とちょうど等しい。等号なので、何も広がっていない。
実際、新しい円板はもとの単位円に完全に含まれる。 なら だからである。
理由は から特異点までの距離にある。 しかないので、収束円が特異点に押さえられて広がれない。
再展開すればいつでも延びるわけではない。特異点から遠ざかる方向へ中心を移す必要がある。
の収束円が で、特異点が だけだとする。中心を に移して再展開したとき、拡張になるのはどれか。
- どこに移しても同じだけ広がる
対数関数を接続する
もうひとつ例を見る。主枝の対数のべき級数は次のとおりである。
特異点は なので である。中心を に移す。実軸から離れる向きである。
階微分は なので、係数は となる。
収束条件は である。 なら となる。
下限は だったので、これも真の拡張である。たとえば は で新しい円板に入るが、 でもとの円の外である。
新しい収束半径が から特異点 までの距離になっている点も、前の例と同じである。
経路に沿った接続
出発点 から目標点 まで曲線 を引く。曲線に沿って中心を少しずつ進め、円板を鎖のようにつないでいく。
隣り合う円板は重なるように取り、重なりの上で関数が一致するようにする。有限個の円板で に到達できれば、 に沿った解析接続が定まったという。
結果は円板の取り方に依らない。重なりが空でない開集合なので、一致の定理から各段の関数が一意に決まるからである。
しかし曲線を変えると結果が変わりうる。同じ点に別の道から到達したとき、違う値になることがある。これが多価性である。
モノドロミー定理
どんなときに経路によらないかを述べるのがモノドロミー定理である。
が領域 内のすべての曲線に沿って接続可能とする。このとき接続の結果は、曲線のホモトピー類だけで決まる。とくに が単連結なら、 上の一価な正則関数が得られる。
証明の骨格を述べる。端点を固定してホモトピックな 2 曲線 を取り、連続変形 でつなぐ。
各 について、 に沿った接続の終点での値を考える。この値は について局所的に定数である。
をわずかに動かしても、 は を覆う円板の鎖の中に収まる。同じ鎖で接続できるので値が変わらないからである。
区間 は連結なので、局所的に定数な関数は定数である。したがって と で同じ値になる。
単連結ならすべての曲線が互いにホモトピックなので、値は終点だけで決まる。一価な関数が定義できる。
平方根の多価性
は単連結でない。ここで多価性が起きる。
を、 で として接続する。 に沿って動かすと になる。
上半平面を通って を から まで動かすと である。
下半平面を通って を から まで動かすと である。同じ点で符号が逆になった。
原点を一周すると が 増え、 になる。出発点に戻ったのに値が変わる。
二周すれば元に戻る。値は 2 つあり、原点は 2 位の分岐点と呼ばれる。
対数の分岐点
では事情がさらに極端になる。
原点を一周するたびに が 増えるので、値は ずつずれる。何周しても元に戻らない。
平方根と違い、値は無限個ある。原点は無限位の分岐点である。
一価にするには、原点から出る半直線で平面を切る。負の実軸を切ると の主枝が定まる。この切れ目を分枝切断という。
切ったあとの領域は単連結なので、モノドロミー定理が使える。切り方を変えれば別の枝が得られる。
リーマン面という見方
多価性を「関数が悪い」と見るのをやめる立場がある。定義域が狭すぎたのだ、と考え直す。
なら平面を 2 枚用意し、切り口で互い違いに貼り合わせる。一周すると 2 枚目に移り、二周で戻る。
なら無限枚を螺旋階段のように貼る。何周しても新しい階に上がり続ける。
できあがった曲面をリーマン面という。その上では関数は一価になる。多価性は、関数の性質ではなく曲面の形として現れる。
解析接続で到達できる範囲をすべて集めたものが、その関数のリーマン面である。接続の理論は曲面の理論に読み替えられる。
自然境界
接続がどこまでも進むとは限らない。収束円の境界上のすべての点が特異点なら、そこから一歩も外へ出られない。
このとき円周を自然境界という。関数の存在域が収束円そのもので終わる。
証明のときに使う事実を先に置く。正則点の集合は開集合なので、特異点の集合は閉集合である。
したがって、境界上の稠密な部分集合が特異点だと分かれば、閉包を取って境界全体が特異点になる。次節はこの形で進む。
単位円が自然境界になる例
係数は か なのでコーシー・アダマールから である。
二進有理点 を取る。 は整数、 は 以上の整数である。 のとき指数が整数倍になる。
として を代入する。 の項は となり、すべて正の実数である。
第 1 項は 個の有限和で、絶対値は 以下に抑えられる。第 2 項は正の項の無限和である。
とすると、第 2 項の各項が に近づく。有限個で切って下から評価すればいくらでも大きくできるので、和は発散する。
よって となり、 は特異点である。二進有理点は単位円周上で稠密なので、前節の議論から円周全体が特異点になる。
が の最大の存在域であり、単位円は自然境界である。
間隙定理
前節の級数は指数が と急速に増える。指数に大きな隙間があるべき級数を間隙級数という。
アダマールの間隙定理は次を主張する。 の指数が をすべての で満たすなら、収束円は自然境界である。
なら比が で条件を満たす。 でも比が で満たすので、 も同じ結論になる。
ファブリの間隙定理はもっと弱い条件で足りることを言う。 であれば収束円が自然境界になる。
隙間が十分あると、境界の情報が円周全体に均等に散らばってしまい、どの方向にも抜け道が残らない。
ガンマ関数を接続する
積分表示は右半平面でしか収束しない。
で被積分関数が の振る舞いをするので、 が必要である。
部分積分から関数等式 が出る。これを について解く。
右辺は かつ で意味を持つ。定義域が左へ 1 だけ広がった。
繰り返せばいくらでも広がる。
を任意に大きく取れるので、 は複素平面全体へ有理型に接続される。極は で、いずれも 1 位である。
での留数は になる。関数等式ひとつで全平面が埋まる、見通しのよい例である。
ゼータ関数を接続する
級数は でしか収束しない。
交代級数にすると収束域が広がる。ディリクレのエータ関数を次で定める。
これは で収束する。偶数項を 倍して引く計算から が出るので、次が得られる。
右辺は で意味を持ち、 が 1 位の極になる。ここまでで定義域が半平面に広がった。
さらに関数等式を使えば全平面に届く。
の値が の値から決まる。 を代入すると が出る。
この値をもって と書くのは誤りである。もとの級数は でしか意味を持たない。
接続した先の関数の値と、そこでは収束しない級数の和を取り違えている。両者を結ぶのは接続の一意性であって、等号ではない。
級数という表し方の限界と、関数そのものの広がりを区別する。この記事の最初に述べた区別が、最後まで効いている。












新しい収束半径は b から特異点 z=1 までの距離です。b=−3/4 なら 7/4 で、もとの円をはみ出します。特異点に近づく側へ移すと広がりません。