複素解析でよく使う公式〜定義から留数定理まで一枚に並べる
複素解析でくり返し出てくる式を、使う順に並べます。それぞれが何を言っているか、どこで効くかを添えました。
出発点は 1 つだけ。複素数の掛け算が、回転と拡大をまとめて表すという事実です。
長さは掛け算、角度は足し算[1]。以下の公式はどれも、この構造が別の形で顔を出したものだと見られます。
複素数の書き方
直交形式と極形式の 2 つを、場面で使い分けます。
足し算と引き算は直交形式が楽で、掛け算と割り算とべき乗は極形式が楽。 を絶対値、 を偏角と呼びます。
偏角は の差を無視した量です。 に制限したものを主値と呼び、 と書きます。
オイラーの公式
指数関数と三角関数を結ぶ式です。
を入れると になります。 を に替えて足し引きすれば、三角関数を指数で書く式が出る。
ド・モアブルの公式も、極形式のべき乗として読めます。
指数関数
実部が伸び縮み、虚部が回転を受け持ちます。
絶対値は で、偏角は です。虚軸方向に ずらしても値が変わらないので、複素の指数関数は周期 の周期関数になります。
は という値だけをとりません。それ以外の複素数はすべて、無限個の で実現されます。
三角関数と双曲線関数
オイラーの公式の右辺を に広げたものが定義です。
双曲線関数は を外した形。
2 つの族は虚数倍でつながります。三角関数と双曲線関数が別物に見えるのは、実数の範囲だけを見ているため。
実軸上で ですが、虚軸方向では の速さで伸びます。複素平面では有界になりません。
などの商も同じ形で定義します。 となる点、つまり が の極。
対数と偏角
指数関数が周期を持つので、逆関数は一意に決まりません。
が の不定性を持つぶん、 も ずつ違う値を無限に持ちます。主値は 。
原点は分岐点で、まわりを 1 周すると値が ずれます。孤立特異点ではないので、ローラン展開は作れません。
べき関数も対数を通して定義します。
が整数でなければ多価になる。 は主値をとると で、実数になります。
微分とコーシー・リーマンの方程式
定義は実関数と同じ形ですが、 が複素数としてあらゆる向きから に近づく点が違います。
と分けると、微分可能であることが 2 本の偏微分方程式に翻訳されます。
と が実の意味で微分可能で、この 2 本を満たすことが、複素微分可能であることと同値。1 本にまとめると になります[2]。
極座標では次の形。
導関数は で計算できます。 や は方程式を満たさず、正則になりません。
正則関数の実部と虚部は調和
コーシー・リーマンの方程式をもう一度微分すると、 と がラプラス方程式を満たすことが出ます。
と は共役調和関数と呼ばれます。 が与えられれば、 は積分定数を除いて決まる。
等高線どうしが直交するので、静電場や定常流の記述に使われます。
線積分と長さによる評価
曲線 を とパラメータ表示して定義します。
評価には、経路上の上界 と経路の長さ を使う形が便利です。
円弧の寄与が消えることを示す場面で、この不等式が何度も出てきます。
コーシーの積分定理
単連結な領域で正則なら、その中のどの閉曲線にそう積分も です。
閉曲線を、正則な範囲の中で連続に動かしても値は変わりません。だから積分路は都合のよい形へ替えられます。
コーシーの積分公式
内部の値が、円周上の積分で書けます。
が の外にあれば値は [5]。内か外かで答えが分かれます。
導関数についても同じ形が通ります。グルサーの公式と呼ばれることがある式です。
長さによる評価を当てると、導関数の上界が出ます。
円周でパラメータ表示すれば、平均値の性質になります。
テイラー展開とローラン展開
正則な点のまわりでは、ふつうのべき級数に開けます。
収束半径は、いちばん近い特異点までの距離。実軸だけを見ても決まりません。
特異点のまわりでは、負の次数まで許した展開を使います。
有効なのは円環領域の中だけ。同じ中心でも、どの円環をとるかで係数が変わります[6]。
特異点の分類
負の次数の項をどれだけ持つかで、3 つに分かれます。
極なら が向きによらず成り立ちます。真性特異点では、近づく向きで結果が変わる。
留数
の係数 が留数です。 位の極なら極限で出ます。
で 、 なら、分母を微分するだけ。
位の極では、掛けてから微分します。
真性特異点では公式が使えません。展開して係数を読むことになります。
留数定理
内部の特異点の留数を足すだけで、周積分が決まります。
は回転数。単純閉曲線を反時計回りにたどるなら です[7,8]。
零点と極を数える
対数微分を積分すると、零点と極の個数の差が出ます。
偏角の原理と呼ばれ、 と は重複を込めた個数です。像が原点を何周するかを数えている式でもある[9]。
ルーシェの定理は、これを比較の形に直したものです。 上で なら、 と の零点の個数が一致します。
大きな結論
積分公式の評価から、いくつかの定理がまとめて出ます。
どれも出発点はコーシーの積分公式です。境界の情報が内部を決めるという 1 つの事実が、形を変えて現れています[10]。
よく使う積分の値
留数計算の答え合わせに使える値を並べます。
三角関数の積分は、単位円への置き換えで有理関数に変わります。 のとき次の形。
よくある誤り
式の形を覚えるより、どの条件がどこで効くかを押さえるほうが長く使えます。単連結かどうか、内か外か、正則か、そのつど確かめる癖をつけると誤りが減る。











