位相空間の直積と直和|定義・計算例・双対性
空間の族から新しい空間を作る操作のうち、もっとも基本的なものが直積と直和である。
直積には、すべての射影が連続になる最弱の位相を入れる。直和には、すべての包含写像が連続になる最強の位相を入れる。向きがちょうど逆になっている。
以下では定義と開集合の形を確かめ、収束や連続性がどう見えるかを計算例で追い、最後に普遍性の言葉でまとめ直す。
直積位相の定義
位相空間の族 を取る。集合としての直積 に入れる標準的な位相が直積位相である。
定義は射影を使う。 を第 成分への射影とし、これらがすべて連続になる最弱の位相を直積位相とする。
最弱にするには、連続性が要求する集合だけを開集合に入れればよい。つまり次の形の集合を準開基に取る。
準開基から開基を作るには、有限個の交わりを取る。
開基の形が意味すること
上の集合は、有限個の成分 にだけ条件を課し、残りの成分は自由にしている。
添字集合が無限のとき、この「有限個だけ」という制限が効いてくる。すべての成分を同時に絞ることはできない。
一見すると弱すぎる定義に見えるが、あとで見るように、この形だからこそ収束や連続性がきれいに扱える。
<svg viewBox="0 0 460 200" width="100%" style="max-width:460px;display:block;margin:0 auto">
<rect x="70" y="50" width="34" height="110" fill="none" stroke="#c8c8c8" stroke-width="1"></rect>
<rect x="125" y="50" width="34" height="110" fill="none" stroke="#c8c8c8" stroke-width="1"></rect>
<rect x="180" y="50" width="34" height="110" fill="none" stroke="#c8c8c8" stroke-width="1"></rect>
<rect x="235" y="50" width="34" height="110" fill="none" stroke="#c8c8c8" stroke-width="1"></rect>
<rect x="290" y="50" width="34" height="110" fill="none" stroke="#c8c8c8" stroke-width="1"></rect>
<rect x="70" y="72" width="34" height="30" fill="none" stroke="#1b81e0" stroke-width="2"></rect>
<rect x="180" y="94" width="34" height="26" fill="none" stroke="#1b81e0" stroke-width="2"></rect>
<text x="55" y="26" font-size="11" fill="#1f1f1f">直積位相の基本開集合は、有限個の成分だけを絞る</text>
<text x="336" y="104" font-size="11" fill="#9a9a9a">…</text>
<text x="83" y="176" font-size="11" fill="#1b81e0">1</text>
<text x="138" y="176" font-size="11" fill="#9a9a9a">2</text>
<text x="193" y="176" font-size="11" fill="#1b81e0">3</text>
<text x="248" y="176" font-size="11" fill="#9a9a9a">4</text>
<text x="303" y="176" font-size="11" fill="#9a9a9a">5</text>
<text x="55" y="194" font-size="11" fill="#9a9a9a">青い成分だけに条件があり、残りは全体のまま</text>
</svg>収束は成分ごとに見ればよい
直積位相の使いやすさは、次の定理に集約される。
定理。 の点列 が に収束することと、すべての について が に収束することは同値である。
証明。射影は連続なので、収束すれば各成分も収束する。
逆を示す。 を含む基本開集合を取ると、有限個の成分 にしか条件がない。各 について番号 を取り、 で となるようにする。
と置けば、 ですべての条件が同時に満たされる。有限個だから最大値が取れる、というところが要点である。
無限個の成分に条件があると、この最大値が取れない。開基を有限交叉に限る理由がここにある。
計算例:ユークリッド空間
を 2 つ取り、直積位相を入れる。基本開集合は の形で、 と は の開集合である。
開区間の積、つまり開長方形が開基になる。これは の通常の位相と一致する。
同じことが でも成り立つ。有限個の直積では、直積位相はふつうの位相にほかならない。
計算例:トーラスとカントール集合
に直積位相を入れると、トーラスが得られる。円を 2 つ掛け合わせた形である。
に離散位相を入れ、可算無限個の直積 を作ると、カントール集合と同相になる。
はヒルベルト立方体と呼ばれる。どちらも無限直積だが、チコノフの定理からコンパクトである。
可算個の直積までなら距離化できる。 には次の距離が入り、これが直積位相を与える。
箱型位相との違い
すべての成分を同時に絞る位相も考えられる。次の形の集合を開基に取る位相を箱型位相という。
有限直積では両者は一致する。無限直積では箱型位相のほうが真に強く、開集合が増える。
強い位相は良さそうに見えるが、実際には扱いにくい。チコノフの定理が成り立たず、連続性の判定も成分ごとにはできなくなる。
計算例:箱型位相では対角写像が連続でない
を で定める。直積位相ならこれは連続である。
箱型位相で考える。原点のまわりの開集合として、次のものを取る。
を求める。 がここに入るには、すべての で が要る。これを満たすのは だけである。
1 点集合は で開ではない。したがって は箱型位相について連続でない。
成分ごとの写像がすべて連続でも、全体としては連続にならない。直積位相ならこういうことは起きない。
有限個の成分にだけ条件を課す。収束も連続性も成分ごとに判定でき、チコノフの定理が成り立つ
すべての成分に同時に条件を課す。開集合は増えるが、成分ごとの判定が使えなくなる
射影は開写像だが閉写像とは限らない
直積位相について、射影 は開写像である。基本開集合の像が開集合になるからである。
一方、閉写像とは限らない。 で次の集合を取る。
は連続関数 の における逆像なので閉集合である。ところが第 1 成分への射影の像は で、これは閉集合ではない。
双曲線が無限遠へ逃げていくために、 が像から抜け落ちる。射影が閉写像になるための条件は、もう一方の因子のコンパクト性である。
直和位相の定義
今度は向きを逆にする。族 の非交和 を考える。
包含写像 がすべて連続になる最強の位相を、直和位相という。
最強にするには、連続性を壊さない範囲で開集合を最大限入れる。結果として次の特徴づけが得られる。
が開であることと、すべての について が で開であることは同値である。
各 をばらばらに並べ、位相をそのまま持ち込んだ形になる。
計算例:直和は連結にならない
族が 2 つ以上の空でない空間からなるとき、直和は連結でない。
各 は直和の中で開集合である。 が開だからである。
同時に は閉集合でもある。補集合が他の の和で、それも開だからである。
開かつ閉で、空でも全体でもない集合があるので、連結ではない。直和は最初から分かれた空間を作る操作である。
ハウスドルフ性、連結性、コンパクト性はいずれも任意個の直積で保たれる。コンパクト性についての主張がチコノフの定理である。
ハウスドルフ性と局所コンパクト性は保たれる。連結性は保たれず、コンパクト性は有限個の直和のときだけ保たれる。
普遍性による特徴づけ
2 つの構成は、圏論の言葉では積と余積にあたる。定義の仕方を知らなくても、次の性質だけで決まる。
直積の普遍性。任意の空間 と連続写像の族 に対して、 を満たす連続写像 がただ 1 つ存在する。
直和の普遍性。任意の空間 と連続写像の族 に対して、 を満たす連続写像 がただ 1 つ存在する。
矢印の向きがすべて逆になっている。この関係を双対という。
普遍性はなぜ最弱と最強に対応するのか
直積の普遍性が成り立つには、位相が弱くなければならない。開集合が多いほど連続写像の条件が厳しくなり、 が連続にならなくなるからである。
一方で射影自身が連続である必要はあるので、弱くしすぎることもできない。この 2 つの要求の境目が、射影を連続にする最弱の位相である。
直和では逆になる。 が連続であるためには開集合が少ないほうが都合よく、包含写像が連続であるためには多いほうがよい。境目が最強の位相になる。
普遍性から出発すれば、どちらの位相も同型を除いて一意に決まる。定義の細部を覚えていなくても、性質から復元できる。
無限直積で、直積位相と箱型位相はどう違いますか。
- 直積位相のほうが開集合が多い
- 箱型位相のほうが開集合が多い
- どちらも同じ位相になる










箱型位相はすべての成分を同時に絞れるので、開集合が真に多くなります。有限直積では両者は一致しますが、無限直積では箱型位相のほうが強い位相です。