位相空間の族から新しい位相空間を構成する基本的な方法として、直積と直和がある。両者は圏論的に双対の関係にあり、それぞれ積と余積に対応する。
直積位相
位相空間の族 が与えられたとき、集合としての直積 に入れる標準的な位相が直積位相(積位相)である。
直積位相は、各射影 がすべて連続になる最弱の位相として定義される。具体的には、()の形の集合全体を準開基とする位相である。
開基は有限個の添字 と各 に対して
の形の集合全体である。これは「有限個の成分にのみ条件を課す」集合であり、無限直積でも扱いやすい形になっている。
直積位相の重要な性質として Tychonoff の定理がある。これはコンパクト空間の任意個の直積が再びコンパクトになるという主張で、選択公理と同値であることが知られている。
箱型位相との違い
直積位相と対比されるのが箱型位相である。箱型位相は (各 )の形の集合全体を開基とする位相で、すべての成分に同時に条件を課すことを許す。
有限直積では両者は一致するが、無限直積では箱型位相の方が強い。箱型位相は Tychonoff の定理が成り立たず、扱いにくい性質を持つことが多い。たとえば に箱型位相を入れると、定数列への収束が点ごとの収束と一致しなくなる。
直和位相
位相空間の族 の直和(余積、非交和)は、集合としての非交和 に直和位相を入れたものである。
直和位相は、各包含写像 がすべて連続になる最強の位相として定義される。これは が開であることと、すべての に対して が で開であることが同値になる位相である。
直感的には、各 をばらばらに並べて、それぞれの位相構造をそのまま保存したものである。
圏論的特徴づけ
直積と直和は圏論における積と余積として特徴づけられる。
直積 は次の普遍性を持つ。任意の位相空間 と連続写像の族 に対して、 を満たす連続写像 が一意に存在する。
直和 は双対の普遍性を持つ。任意の位相空間 と連続写像の族 に対して、 を満たす連続写像 が一意に存在する。