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ベクトル解析の 3 つの演算が外微分ひとつに畳まれる仕組み

勾配、回転、発散は、 次元でだけ通じる 3 つの別々の演算に見えます。次元を変えると対応が崩れ、外積が使えるのも 次元だけ。

外微分 を入れると、この 3 つが 1 つの演算の次数違いになります。しかも次元を選びません[1]。

以下では を 4 つの公理で特徴づけ、公理から座標公式が一意に決まることを見て、 の意味とド・ラームコホモロジーまで進みます。

微分形式の復習

次微分形式は、各点で接ベクトル 本に数を返す反対称な多重線型写像です。局所座標では

と書けます。係数は滑らかな関数。

形式は関数そのものです。 次元では 次までしかありません。

外微分の 4 つの公理

を、次の 4 条件で定めます[1,2]。

線型である
形式 に対して は の全微分
形式 と任意の に対し

3 つ目の符号が、次数付きライプニッツ則です。 を が追い越すときに、 の次数ぶんだけ符号が付く。

公理から一意に決まる

この 4 条件を満たす作用素はただ 1 つです。座標近傍で書けば分かります。

に 3 つ目を繰り返し使うと、 の項は 4 つ目から消えます。残るのは係数の全微分だけ。

が出ます。座標をどう選んでも同じ作用素になることは、一意性から自動[3]。

座標での公式

上の式を成分で書けば

です。係数を偏微分し、 を左から掛ける。

が のどれかと一致する項は になります。同じ が 2 度現れるため。

例: 形式の外微分

の外微分は

です。偏微分を係数に並べただけ。

これは勾配ベクトル に対応します。ただし対応させるには計量が要る。

例: 形式を計算する

をとります。項ごとに公式を当てる。

第 1 項は を出し、係数は 。第 2 項は です。

になります。 の直線の上でだけ が消える。

例: 形式を計算する

次元で をとります。係数の偏微分は だけが残る。

です。 を 2 回動かすので符号は 2 回変わり、元に戻ります。

符号がずれる場所

ライプニッツ則の符号を落とすと、計算が合わなくなります。 が奇数次のときだけ第 2 項の符号が反転する。

を 形式、 を 形式とすると

です。 が 形式なら符号は に戻る。

例:ライプニッツ則の符号を追う

、 とします。。

直接計算すると です。

公式で計算すると で 、。符号込みで合います。

複体として並べる

は次数を 1 つ上げます。並べると 1 本の列になる。

次元なら の次は です。次数が次元を超えると形式が存在しないため。

つながった矢印を 2 本続けると、いつでも になります。これがド・ラーム複体[4]。

の証明

形式で確かめれば、あとは公理から従います。 に対し

です。係数は と の入れ替えで対称、 は反対称。

対称なものと反対称なものを掛けて和をとると になります。シュワルツの定理が効いている場所[2]。

例:偏微分の交換で消える様子

とします。。

もう一度 をとると です。前半は 。

足すと になります。 が両方の項に同じ値で現れ、符号だけが逆。

次元での grad, rot, div

次元では、次数ごとに が別の名前で呼ばれます。

は勾配です。関数から 形式が出ます。

は回転です。 形式から 形式が出ます。

形式の外微分は発散です。 形式が出て、そこで止まります。

ベクトル場に読み替えるにはホッジ双対が要ります。 形式と 形式をどちらもベクトル場と見なせるのは、 次元だけの事情[1]。

例:

から へ を 2 回かけると です。

読み替えれば になります。ベクトル解析で成分計算していた等式が、公理の 4 つ目に畳まれる。

例:

から へ を 2 回かけても です。

こちらは 。2 つの公式が同じ理由から出ていることが、次数を付けると見えます。

小さな長方形の周回で回転が出る

の係数が何を測っているのかを、周回積分で見ます。

長方形を縮めても、周回積分を面積で割った値は変わりません。極限がちょうど の係数。

が微分らしく見えるのは、この比が極限を持つためです。境界で測って中身を割る、という操作。

座標に依らない公式

座標を使わずに を書けます。 形式 とベクトル場 に対し

が成り立ちます[1,3]。ハットは、その引数を抜くという意味。

第 1 項が微分らしい部分、第 2 項がリー括弧の補正です。

例: 形式の不変公式を確かめる

では

になります。3 つの項だけ。

、 なら で、第 3 項が消えます。残る 2 項が 。

座標の基底では第 3 項が落ちるので、座標公式と一致します。

リー括弧が現れる理由

第 1 項だけでは、 に関数を掛けたときの振る舞いが壊れます。 に の余分な項が出る。

なので、第 2 項からも同じ形の項が出ます。符号が逆で、打ち消し合う。

結果として全体が 線型になり、テンソルとして意味を持ちます。リー括弧は、テンソル性を回復するために入っている。

引き戻しと交換する

滑らかな写像 に対し が成り立ちます[2]。

形式では で、連鎖律そのもの。一般の次数へは、ウェッジ積との整合性から持ち上がります。

この性質のおかげで、 が閉形式を閉形式へ、完全形式を完全形式へ送ります。コホモロジーに写像が誘導される根拠。

例:極座標へ移して確かめる

を極座標へ引き戻します。、。

で、外微分をとると が出ます。

先に を計算してから引き戻しても です。合いました。

を 形式、 を 形式とするとき、 はどれか。

__RESULT__

符号は先に来る形式の次数で決まります。 が 形式で偶数次なので となり、両方が正。

ド・ラーム複体

から、像が核に含まれます。差をとった商が意味を持つ。

これがド・ラームコホモロジーです[4]。閉形式のうち、完全でないぶんを数える。

ド・ラームの定理により、実係数の特異コホモロジーと同型になります。微分の話が位相の話とつながる場所。

例: のコホモロジー

は可縮なので、、 では です[4]。

が なのは、 となる関数が定数だけだから。連結成分の個数を数えている。

例:円周と穴あき平面

円周では 、 です。 が を生成する。

穴あき平面も同じ形になります。円周と可縮な部分の積に分かれるため[5]。

次元球面では と だけが で、あいだは です。

が完全でないことを見る

穴あき平面で を原点のまわりに積分する様子を描きます。

戻ってきたときに値が に戻りません。 ずれる。

完全形式なら必ず に戻ります。 が閉じた道で になるため。

ポアンカレの補題

可縮な開集合では、閉形式はすべて完全です[5]。

局所的にはいつでも成り立ちます。多様体はどの点でも球体と同相な近傍を持つため。

したがってコホモロジーは、局所では何も見ません。大域の形だけを拾う不変量。

ストークスの定理との関係

という等式が、 と境界をとる操作を結びます[6]。

閉形式を閉じた図形の上で積分すると になる、という主張がここから出ます。ホモロジーとコホモロジーの対になる仕組み。

を「境界の代数版」と呼ぶのは、この双対性から。

よくある誤り

ライプニッツ則の符号を落とす。先に来る形式が奇数次のときだけ第 2 項が負になります
から を結論する。可縮な領域でだけ言えます
次元の grad, rot, div の対応を一般次元へ持ち込む。ホッジ双対が要ります
座標公式が座標に依存すると思う。4 つの公理から一意に決まります
不変公式のリー括弧の項を落とす。テンソル性が壊れます
とベクトル場の微分を混同する。 は形式にだけ働きます
次数が上がる向きを逆に覚える。 は から へ送ります

参考文献

Exterior derivative
Äußere Ableitung
Dérivée extérieure
De Rham cohomology
Closed and exact differential forms
Generalized Stokes theorem
勾配も回転も発散も、外微分を次数ごとに読み替えたものです。4 つの公理を置くだけで座標公式が一意に決まり、$d \circ d = 0$ が偏微分の交換から出る。この一行に、ベクトル解析で別々に覚えた 2 つの恒等式が畳まれます。周回積分を面積で割った極限が $d$ の係数になること、リー括弧を含む座標に依らない公式、引き戻しと交換する性質まで確かめる。ド・ラームコホモロジーが拾うのは大域の形だけ。