接空間と接ベクトル

接空間は多様体上の各点において「その点での方向」を表すベクトル全体の集合です。多様体上で微分を行うための基盤となる概念です。

接ベクトルの直観的理解

ユークリッド空間 では、点 における接ベクトルは単に を始点とする矢印として理解できます。しかし一般の多様体は に埋め込まれているとは限らないため、接ベクトルを内在的に定義する必要があります。

接ベクトルを定義するアプローチは主に3つあります。

曲線の同値類として定義する方法
方向微分(関数への作用)として定義する方法
座標変換則を満たす成分の組として定義する方法

現代的には方向微分による定義が標準的です。

曲線による定義

を通る滑らかな曲線 を満たすものを考えます。2つの曲線 が同値であるとは、ある座標近傍 において

が成り立つことをいいます。この同値関係による曲線の同値類が接ベクトルです。

方向微分による定義

における接ベクトルとは、 の近傍で定義された滑らかな関数全体 から への写像 で、次を満たすものです。

線型性:
ライプニッツ則:

直観的には、 は関数 の点 における 方向の微分係数を表します。

接空間の構造

における接ベクトル全体の集合を接空間といい、 と書きます。接空間は実ベクトル空間であり、 次元ならば 次元です。

局所座標 に対し、座標ベクトル場

の基底をなします。任意の接ベクトル

と一意的に表されます。係数 を接ベクトルの成分といいます。

座標変換と成分の変換則

座標 から への座標変換を考えます。接ベクトル の成分が であるとき

が成り立ちます。この変換則を反変的といいます。

接束

すべての点の接空間を集めた集合

を接束といいます。 は自然に 次元多様体の構造を持ち、射影 はベクトル束の構造を与えます。