ベクトル場は多様体の各点に接ベクトルを滑らかに割り当てたものです。流れや力場の数学的表現であり、微分方程式や力学系の理論と深く関わります。
ベクトル場の定義
次元多様体 上のベクトル場とは、各点 に接ベクトル を対応させる写像 であって、次の条件を満たすものです。
各点で (接束の切断である)
対応 が滑らかである
滑らかさの条件は、任意の滑らかな関数 に対して関数 が滑らかであることと同値です。 上のベクトル場全体の集合を と書きます。
局所座標での表示
局所座標 において、ベクトル場 は
と表されます。ここで は 上の滑らかな関数(ベクトル場の成分)です。座標ベクトル場 自体もベクトル場の例です。
ベクトル場の演算
ベクトル場には次の演算が定義されます。
スカラー倍と和
と に対し、 および で定義します。これにより は 上の加群となります。
関数への作用
ベクトル場 は関数 に作用して関数 を与えます。 です。局所座標では となります。
リー括弧
2つのベクトル場 に対し、リー括弧(交換子) が
で定義されます。 は再びベクトル場となります。局所座標では
と計算されます。
リー括弧は次の性質を持ちます。
双線型性:
反対称性:
ヤコビ恒等式:
これらの性質により、 はリー括弧に関してリー環をなします。
積分曲線とフロー
ベクトル場 の積分曲線とは、曲線 で各点において
を満たすものです。これは常微分方程式の初期値問題であり、解の存在と一意性が保証されます。
初期条件 から出発する積分曲線を と書くと、写像
がベクトル場 のフロー(1パラメータ変換群)です。フローは および を満たします。