余接ベクトルは「方向」ではなく「傾き」や「変化率を測る道具」として理解するとわかりやすくなります。
接ベクトルと余接ベクトルの対比
接ベクトルは「どの方向に進むか」を表します。矢印のイメージです。一方、余接ベクトルは「ある方向に進んだときにどれだけ値が変わるか」を測る装置です。
具体的に考えましょう。山の斜面に立っているとします。
「北に向かって歩く」「東に向かって歩く」といった進行方向そのもの。矢印で描ける。
「どの方向にどれだけ歩いたら、標高がどれだけ変わるか」という情報。等高線で描ける。
余接ベクトルは矢印ではなく、等高線のような「レベルセット」として視覚化できます。
等高線としての余接ベクトル
関数 の微分 は典型的な余接ベクトルです。 は「 の値が一定の面(等高線)の向きと間隔」を表していると考えられます。
等高線の間隔が狭いほど傾斜が急で、 の「大きさ」が大きいことに対応します。接ベクトル に を作用させると
が得られます。等高線に平行な方向に進めば 、等高線に垂直に進めば は最大になります。
具体例:価格表としての余接ベクトル
もう一つの比喩を使います。市場でリンゴとミカンを売っているとしましょう。
接ベクトルは「リンゴ3個とミカン2個」のような具体的な商品の組み合わせ(量)です。
余接ベクトルは「リンゴ1個100円、ミカン1個50円」という価格表です。価格表そのものは商品ではありませんが、商品の組に作用して合計金額を返します。
この対応が、余接ベクトル が接ベクトル に作用して実数 を返すことに相当します。
「何をどれだけ持っているか」を表す。成分は上付き添字 。
「それぞれの単価がいくらか」を表す。成分は下付き添字 。
は「量 × 単価」の総和。
なぜ「余」なのか
「余接」の「余」は双対(dual)を意味します。接空間の元を入力として受け取り、数値を出力する線型写像の全体が余接空間です。
接ベクトルが「もの」だとすれば、余接ベクトルは「ものを評価する基準」です。同じ商品の山でも、価格表が違えば評価額は変わります。逆に、同じ価格表でも商品が違えば評価額は変わります。両者は独立した概念ですが、組み合わせると数値が出る——この関係が双対性です。
座標での見え方
座標 をとると、接ベクトルの基底は で、これらは「 方向に進む」「 方向に進む」を表します。
余接ベクトルの基底は で、これらは「 座標の変化を読み取る」「 座標の変化を読み取る」を表します。
は接ベクトルから「 成分だけを抜き出す」装置として働きます。