微分形式の基礎|定義から外微分・引き戻し・Stokes の定理まで例で理解する
微分形式は余接ベクトルを一般化した概念であり、積分や外微分と自然に結びつく。多様体上の解析の基本言語である。
交代性はなぜ必要か
面積や体積は、向きを入れ替えると符号が変わる量である。平行四辺形の面積を 2 本のベクトルの関数と見ると、2 本を入れ替えたときに符号が反転する。
この性質をはじめから組み込んだ対象が微分形式である。積分したい量が向きに依存する以上、交代性は後から付け足す制約ではなく、出発点に置くべき性質になる。
微分形式の定義
を 次元多様体とする。 上の -形式(-form)とは、各点 に -重線型交代形式 ( 個の引数)を滑らかに対応させるものである。
-形式全体を と書く。
交代形式とは、2 つの引数を入れ替えると符号が変わる多重線型写像のことである。ここから、同じベクトルを 2 か所に入れた値は必ず になる。
低次の微分形式
-形式は滑らかな関数 である。 となる。
-形式は各点で余接ベクトルを与えるものである。局所座標 で と書ける。
-形式は各点で2つの接ベクトルを取り、反対称に実数を返す。 と書ける。
形式の次元
各点において -形式のなす空間は 次元である。基底は を満たす で与えられる。
のときは になる。 個より多くの -形式を並べれば、どこかで同じものが重なり、交代性から全体が消えるからである。
次元は から まで対称に並ぶ。 という等式が、のちに Hodge 双対として幾何的な意味を持つ。
外積
, に対して、外積 が定義される。
外積の計算例
で と を取る。分配律で展開すると次のようになる。
が効いて、 に の項があっても消える。外積は掛け算に似ているが、重なった成分が落ちる点が違う。
外積が消える例
と を取る。 なので、外積は次のように消える。
-形式の外積が になることは、それらが 1 次従属であることと同じである。ベクトルが平行かどうかを調べる操作が、そのまま形式の言葉になっている。
座標表示
局所座標 において、-形式は
と一意に書ける。 であり、 である。
-形式と体積形式
次元多様体上の -形式は最高次の形式である。局所座標では
の形になる。向き付け可能な多様体には、どこでも零にならない -形式(体積形式)が存在する。
行列式が現れる例
の線型写像 を取り、最高次の形式を引き戻す。各点で -形式のなす空間は 1 次元なので、結果はもとの形式の定数倍にしかなりえない。その定数が行列式である。
行列式が体積の拡大率だという事実が、 という次元の計算から自動的に出てくる。
外微分
外微分 は次の性質を満たす線型作用素である。
外微分の座標表示
( は添字の組)に対して
となる。
平面での外微分の計算例
上の -形式 を取る。係数を微分して外積を作り、 と で整理する。
Green の定理に現れる量がそのまま係数として出てくる。座標に依存しない定義から、見慣れた式が導かれている。
ベクトル解析との対応
では、-形式と -形式をどちらもベクトル場と同一視できる。この同一視のもとで、外微分は次の 3 つの操作に順に対応する。
関数の勾配
ベクトル場の回転
ベクトル場の発散
は、勾配の回転が消えることと、回転の発散が消えることの両方を含んでいる。別々に覚えていた 2 つの恒等式が、1 つの等式にまとまる。
閉形式と完全形式
を満たす を閉形式(closed form)という。
の形で書ける を完全形式(exact form)という。
より、完全形式は閉形式である。逆は一般に成り立たない。
完全形式の積分の例
は完全形式である。 と置けば になる。
そのため曲線に沿った積分は端点の値の差だけで決まり、閉曲線に沿えば になる。力学でいう保存力の場が、ちょうどこの形をしている。
閉形式だが完全でない例
から原点を除いた領域の上で、次の -形式を考える。
係数を微分すると になり、 は閉形式である。ところが原点を囲む単位円に沿って積分すると になる。
完全形式であれば、閉曲線に沿った積分は必ず になる。したがって は完全ではない。領域に開いた穴が、積分の値として現れている。
平面の閉形式の分解
いまの は角度の全微分にあたるので と書かれる。角度 自体は大域的な関数として定まらないため、これは記号としての書き方である。
原点を除いた平面では、この形式ひとつが唯一の障害になる。任意の閉 -形式は の形に分解し、係数 は原点のまわりの周回積分で決まる。
であることが、完全形式であることと同じである。 が と同型だという主張の、具体的な言い換えになっている。
Poincaréの補題
上(より一般に可縮な空間上)では、閉形式は完全形式である。
すなわち ならば となる が存在する。これは de Rham コホモロジーが自明であることを意味する。
微分形式の引き戻し
滑らかな写像 に対して、引き戻し が定義される。
引き戻しは外積と外微分と可換である。, 。
座標で書くと引き戻しの係数にヤコビ行列式が現れ、変数変換の公式は引き戻しが積分を保つことの言い換えになる。
引き戻しの計算例
極座標を与える写像 を取る。合成関数の微分から、座標の引き戻しは次のようになる。
外積を取ると と の項が消え、残りがまとまる。
重積分の変数変換で現れるヤコビアンが、そのまま係数 として出てくる。変換公式を覚える対象ではなく、外積の計算結果として導けるようになる。
球面の面積形式の例
単位球面を で表す。 の -形式を で引き戻して整理すると、面積形式は次の形になる。
と の範囲で積分すれば になり、球の表面積の公式と一致する。座標に が掛かるのは、極に近づくほど経度の幅が縮むからである。
微分形式の積分
向き付けられた 次元多様体 上の -形式 は積分できる。座標近傍では
として定義し、1の分割で大域化する。
線積分の例
単位円 を 、 で表す。-形式 を引き戻すと になる。
符号が負になるのは、反時計回りの向きに対して が囲む面積を負に測るからである。向きを逆に取れば符号も反転する。
Stokesの定理
境界を持つ向き付けられた 次元多様体 と、その上の -形式 に対して次が成り立つ。
外微分を取る操作と境界を取る操作が、積分を挟んで向かい合っている。微分積分学の基本定理・Green の定理・発散定理・回転の Stokes の定理は、いずれもこの 1 つの定理の特別な場合になる。
Maxwell方程式の例
電磁場は 4 次元時空上の -形式 にまとめられる。この言葉づかいのもとで、電磁気学の基本方程式は 2 本の式になる。
は Hodge 双対、 は電流を表す形式である。古典的な 4 本の方程式がこの 2 本に収まり、電荷保存則もここから導ける。
は、可縮な領域で となるポテンシャル の存在を導く。Poincaré の補題が物理の言葉に翻訳された場面である。
de Rhamコホモロジー
閉形式のなす空間を完全形式のなす空間で割った商を de Rham コホモロジーという。
割り算が意味を持つのは のおかげである。分子と分母は、それぞれ次の空間にあたる。
を満たす形式を集めたもので、 にあたる。外微分で消えるという条件は、局所的に確かめられる。
と書ける形式を集めたもので、 にあたる。 から、これは常に閉形式に含まれる。
先に挙げた原点を除いた平面の は、 の零でない元を与える。微分だけを使って定義した量が、多様体の穴という位相的な情報を捉えている。









