数列の極限の定義(ε-N論法)|定義の読み方と証明の書き方
「限りなく近づく」という言い方は、そのままでは証明に使えません。近づいていく動きを、止まった不等式に置き換える必要があります。
ε-N 論法はその置き換えです。許容する誤差を相手が先に決め、こちらはそれに応じた番号を返す。やり取りをこの一往復に切り詰めたものが、収束の定義になります。
数列の収束の定義
実数列 が実数 に収束するとは、次が成り立つことをいいます。
言葉に直せば「どんな正の数 に対しても、ある自然数 が存在して、 を満たすすべての で が成り立つ」という主張です。
このとき または と書き、 をこの数列の極限と呼びます。
は と同じことです。区間 を の 近傍といいます。
近傍の言葉に移すと、定義は別の顔を見せます。 のどの 近傍を取っても、その外側にある項は有限個しかない、という主張です。
<svg viewBox="0 0 460 250" width="100%" style="max-width:460px;display:block;margin:0 auto">
<rect x="70" y="105" width="360" height="30" fill="#1b81e0" opacity="0.09"></rect>
<line x1="70" y1="30" x2="70" y2="215" stroke="#c8c8c8" stroke-width="1"></line>
<line x1="70" y1="215" x2="440" y2="215" stroke="#c8c8c8" stroke-width="1"></line>
<line x1="70" y1="120" x2="430" y2="120" stroke="#1b81e0" stroke-width="1"></line>
<line x1="70" y1="105" x2="430" y2="105" stroke="#1b81e0" stroke-width="1" stroke-dasharray="4 3"></line>
<line x1="70" y1="135" x2="430" y2="135" stroke="#1b81e0" stroke-width="1" stroke-dasharray="4 3"></line>
<line x1="180" y1="50" x2="180" y2="215" stroke="#d0562a" stroke-width="1" stroke-dasharray="4 3"></line>
<circle cx="80" cy="50" r="3" fill="#9a9a9a"></circle>
<circle cx="105" cy="155" r="3" fill="#9a9a9a"></circle>
<circle cx="130" cy="97" r="3" fill="#9a9a9a"></circle>
<circle cx="155" cy="138" r="3" fill="#9a9a9a"></circle>
<circle cx="180" cy="106" r="3" fill="#1b81e0"></circle>
<circle cx="205" cy="132" r="3" fill="#1b81e0"></circle>
<circle cx="230" cy="110" r="3" fill="#1b81e0"></circle>
<circle cx="255" cy="129" r="3" fill="#1b81e0"></circle>
<circle cx="280" cy="112" r="3" fill="#1b81e0"></circle>
<circle cx="305" cy="127" r="3" fill="#1b81e0"></circle>
<circle cx="330" cy="114" r="3" fill="#1b81e0"></circle>
<circle cx="355" cy="126" r="3" fill="#1b81e0"></circle>
<circle cx="380" cy="115" r="3" fill="#1b81e0"></circle>
<circle cx="405" cy="125" r="3" fill="#1b81e0"></circle>
<text x="52" y="124" font-size="11" fill="#1b81e0">α</text>
<text x="26" y="109" font-size="11" fill="#9a9a9a">α + ε</text>
<text x="26" y="139" font-size="11" fill="#9a9a9a">α - ε</text>
<text x="196" y="40" font-size="11" fill="#1f1f1f">N 以降の項はすべて帯の中に入る</text>
<text x="176" y="232" font-size="11" fill="#d0562a">N</text>
<text x="432" y="232" font-size="11" fill="#9a9a9a">n</text>
</svg>帯の幅が 、帯に入りきる境目の番号が です。帯の外にいるのは灰色の 4 項だけで、そこから先はすべて中に収まっています。
を小さくすれば帯は細くなり、境目は右へ動きます。どこまで細くしてもいつかは全部入る、というのが収束の内容です。
定義の意味
は許容する誤差です。相手がどれだけ小さな を出してきても、こちらは条件を満たす を用意できる、という形の主張になっています。
は に依存します。帯を細くすれば、中に入りきるまでに必要な番号は一般に大きくなるからです。依存を強調して と書くこともあります。
は一意ではありません。ある で条件が成り立てば、それより大きいどの番号でも成り立ちます。
したがって最小の を求めることは定義の要求に含まれていません。証明では、扱いやすい を大まかに取れば十分です。
すべての正の数より小さい非負の数は 0 である
が、すべての に対して を満たすとします。このとき です。
証明は一行で済みます。 と仮定すれば が取れて となり、これは矛盾です。
当たり前に見えますが、ε-N 論法の締めくくりでは繰り返しこれを使います。「 を任意に取って不等式を示し、最後に を消す」という運び方は、すべてこの補題に支えられています。
量化子の順序
定義では のほうが より先です。この順序を入れ替えると、まったく別の主張になります。
を先に固定してから、あとから来るあらゆる に耐えろ、という条件です。 では がすべての正の数より小さいので、前節の補題から が出ます。
つまりこの条件は「途中から定数 になる」ことと同値です。収束を表すどころか、ほとんどの数列を排除してしまいます。
を受け取ってから を決める。 は に依存してよい。ふつうの収束の定義。
を先に決め、あらゆる に耐えることを要求する。 で となることと同値。
量化子の順序は書き方の癖ではなく、主張そのものを決めています。読むときは と の並びを先に確認するのが確実です。
定義を書き換えても変わらないところ
定義のいくつかの部分は、書き換えても意味が変わりません。教科書ごとの流儀の違いは、たいていここに収まります。
に変えても同値になる。与えられた に対して 版の条件を使えば、 となる。
を 1 つずらすだけで移り合う。どちらの流儀の教科書もある。
についてだけ確かめれば十分である。 の場合は の条件から従う。
に依存しない について が示せれば、収束が従う。 に対して同じ議論を回せばよい。
最後の言い換えはとくに役に立ちます。証明の途中で や が出てきても、係数をそろえ直す手間は不要です。
具体例: の収束
示したいのは です。
任意の を取ります。アルキメデスの原理により となる自然数 が存在します。
のとき、次の評価が成り立ちます。
定義を満たすので です。
なら で足ります。 なら です。 が 100 分の 1 になると は 100 倍になり、この比例関係がそのまま収束の速さを表しています。
アルキメデスの原理はどこから来るか
前節の証明はアルキメデスの原理に寄りかかっています。これは自明な事実ではなく、実数の連続性から導かれる定理です。
証明の要にあるアルキメデスの原理は、実数がどれだけ大きな数も自然数で追い越せることを保証します。
どんな実数 と正の数 に対しても、 となる自然数 が存在するという主張。
背理法で示します。ある と について、すべての自然数 で が成り立つとします。
すると集合 は上に有界なので、上限 を持ちます。 は上界ではないので、 となる が必ず存在するはずです。
両辺に を足すと となり、 が上界であることに矛盾します。
上限の存在を使っているところが肝心です。順序体でありさえすればよいわけではありません。有理関数体 に をすべての実数より大きいとする順序を入れると、どの自然数 でも となり、アルキメデス性は破れます。
具体例: の収束
示したいのは です。まず差を通分して整理します。
ここで分母を小さく見積もります。 なので、右辺は より小さいはずです。
アルキメデスの原理から となる を取れば、 で です。
分母を小さくして分数全体を大きく見積もる、というのが定石です。 を最小に追い込む必要はありません。 より小さいことさえ言えれば、定義は満たされています。
具体例: が 1 に等しい理由
小数点以下に 9 が 個並ぶ数を とします。 です。
であり、 から が成り立ちます。
アルキメデスの原理より を取れば、 で となります。
という等式は、この極限のことを指しています。左辺は「1 よりわずかに小さい別の数」ではなく、数列 の極限を表す記号です。
極限が 1 である以上、等号は文字どおりの意味で成り立っています。無限小数という記法が極限の省略形だと知れば、不思議に見えていたところは消えます。
具体例:等比数列の収束
のとき です。 は明らかなので とします。
なので と書けて、 です。ベルヌーイの不等式 を使います。
アルキメデスの原理から となる が取れます。 ならば です。
は から決まる定数で、 には依存しません。 が 1 に近いほど は小さく、必要な は大きくなります。
のときは発散し、 は 1 に収束する定数列です。 の場合は後で扱います。
具体例: の収束
分子が 1 次で分母は指数なので 0 に収束しそうです。それを不等式で確かめます。
のとき、二項定理の展開から 1 項だけ残せば次が得られます。
したがって です。
かつ を満たす自然数 を取れば、 で です。
展開のうち都合のよい 1 項だけを残す、という削り方がここでの要点になります。全部の項を扱う必要はありません。
具体例: の 乗根の収束
を示します。 では なので、 と置くと です。
両辺を 乗し、二項展開のうち 2 次の項だけを残します。
整理すると 、つまり です。
かつ を取れば、 で となります。
ベルヌーイの不等式では足りません。 からは しか出ず、1 未満だとわかるだけで 0 に近づく根拠になりません。2 次の項まで残す必要があります。
同じ手を ()に使うと、 から が出ます。こちらは分子が定数なので、1 次の項だけで十分です。
収束しないことの証明
収束しないことを示すには、定義の否定を機械的に作ります。 が に収束しないとは、次が成り立つことです。
と を入れ替え、最後の不等式を否定しただけです。「ある については、どこまで先へ行っても帯の外へ出る項がある」と読みます。
数列が発散するというためには、これがすべての実数 について成り立つことを示さなければなりません。 を 1 つ選んで否定するだけでは足りません。
具体例: は収束しない
と取ります。実数 を任意に固定すると、偶数番目では 、奇数番目では です。
三角不等式から が成り立つので、少なくとも一方は 1 以上になります。
なら偶数の を、 なら奇数の を選びます。どちらもいくらでも大きく取れるので、否定の条件が満たされるわけです。
は任意だったので、 はどの実数にも収束しません。1 と という 2 つの値のあいだを往復し続けるからです。
無限大への発散
収束しない数列のうち、際限なく大きくなるものは別に名前がついています。 が に発散するとは、次が成り立つことです。
が「小さい誤差」だったのに対し、 は「大きい基準」です。論理式の形は同じで、押さえ込む向きだけが逆になっています。
どんなに小さい を出されても、ある番号から先はすべて との差が 未満になる。
どんなに大きい を出されても、ある番号から先はすべて を超える。
は に発散します。アルキメデスの原理から となる自然数が取れるからです。
発散と振動は区別します。 はどの実数にも収束せず、 にも にも発散しません。この場合を振動といいます。
極限の一意性
かつ ならば です。
任意の を取ります。前者から 、後者から が得られ、 では両方の不等式が同時に成り立ちます。
そのような を 1 つ選び、三角不等式で と をつなぎます。
は任意なので、はじめに置いた補題から 、すなわち です。
<svg viewBox="0 0 460 150" width="100%" style="max-width:460px;display:block;margin:0 auto">
<line x1="40" y1="85" x2="430" y2="85" stroke="#c8c8c8" stroke-width="1"></line>
<line x1="95" y1="85" x2="245" y2="85" stroke="#1b81e0" stroke-width="4"></line>
<line x1="245" y1="85" x2="395" y2="85" stroke="#d0562a" stroke-width="4"></line>
<line x1="95" y1="76" x2="95" y2="94" stroke="#1b81e0" stroke-width="1"></line>
<line x1="245" y1="72" x2="245" y2="98" stroke="#9a9a9a" stroke-width="1"></line>
<line x1="395" y1="76" x2="395" y2="94" stroke="#d0562a" stroke-width="1"></line>
<circle cx="170" cy="85" r="3.5" fill="#1f1f1f"></circle>
<circle cx="320" cy="85" r="3.5" fill="#1f1f1f"></circle>
<text x="167" y="110" font-size="11" fill="#1f1f1f">α</text>
<text x="317" y="110" font-size="11" fill="#1f1f1f">β</text>
<text x="126" y="62" font-size="11" fill="#1b81e0">α の ε 近傍</text>
<text x="278" y="62" font-size="11" fill="#d0562a">β の ε 近傍</text>
<text x="96" y="136" font-size="11" fill="#9a9a9a">ε を距離の半分に取ると、2 つの近傍は重ならない</text>
</svg>図で見ると事情がはっきりします。 なら を距離の半分に取ることで 2 つの 近傍が離れ、同じ項が両方に入ることはできなくなります。
背理法で書くならこの形になり、補題を使えば背理法なしで済みます。どちらも中身は同じで、 を距離に比べて小さく取ったところが要です。
有界性
収束する数列は有界です。 ならば、ある が存在してすべての で となります。
に対応する を取ります。 では三角不等式から です。
残るのは の有限個だけなので、最大値が取れます。
で を取る
以降を で押さえる
残った有限個の最大値と合わせる
有限個なら最大値が取れる、という一点だけが効いています。無限個の項を一度に押さえようとすると行き詰まるので、 で切って前後を別々に扱います。
逆は成り立ちません。 は で有界ですが、収束しない例でした。
極限の和
、 のとき です。
任意の に対し、 側は を使って 、 側も を使って を取ります。
とすれば、 で次が成り立ちます。
誤差を 2 つに割り振るこの手口を 論法といいます。3 か所に分けたければ にすればよく、定数倍の言い換えを認めるなら割り振り自体が不要です。
極限の積
です。差を 2 つに分けるところから始めます。
は収束するので有界です。 となる を取り、 と置けば で、 と が同時に成り立ちます。
側と 側をそれぞれ で押さえると、次のようにまとまります。
有界性がここで効いています。 をいくら小さくしても、 が際限なく大きくなれば積は小さくなりません。
極限の商
かつ のとき です。これと積の結果を合わせれば、商の場合が出ます。
まず分母が 0 から離れることを示します。 に対応する を取れば、 では次のとおりです。
とくに では なので、 が定義できます。この範囲で差を評価します。
となる を取り、 とすればよいわけです。
はじめの数項で になっていても構いません。極限は先の挙動だけで決まるので、有限個の項は結論に影響しないからです。
順序の保存
十分大きいすべての で が成り立ち、両方が収束するなら です。
、 と置き、 と仮定します。 を取ると、十分大きい で と が同時に成り立つはずです。
と はどちらも に等しいので、 となって仮定に反します。
狭義の不等号は保たれません。 と はすべての で ですが、極限はどちらも 0 です。
極限を取ると差が潰れることがある、と覚えておけば十分です。不等号が緩む方向にしか動かないので、 で書いておけば安全になります。
はさみうちの原理
十分大きい で が成り立ち、 かつ ならば です。
任意の に対し、 側の と 側の を取り、挟み込みが成り立つ番号と合わせて を決めます。 では次の 4 つが一列に並びます。
両端だけを見れば です。
が収束することを仮定していないところが要点です。挟むだけで、収束することと極限の値が同時に手に入ります。
たとえば から が出ます。 自体は収束しませんが、 に押さえられるので結論は言えます。
数列 について「ある が存在して、すべての とすべての で が成り立つ」という条件を考える。この条件の意味はどれか。
- ふつうの収束の定義と同じ意味である
- ではすべて となる
- 数列が有界であることと同値である
- どんな数列でも自動的に成り立つ










N を先に固定しているので、n≥N では ∣an−α∣ がすべての正の数より小さいことになる。非負でそうなる数は 0 だけである。