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全有界と完備|コンパクト性の分解と単位球・カントール集合・p 進整数環の例

はコンパクトですが、 はコンパクトではありません。違いは端点 2 つだけです。 もコンパクトではありませんが、こちらは端点の問題ではなく、単純に広すぎます。

壊れ方の質が違います。前者は穴が空いている、後者は大きすぎる。距離空間では、この直観がそのまま定理になります。

コンパクト性の分解

距離空間 がコンパクトであることと、 が全有界かつ完備であることは同値です。

2 つの条件の役割

完備性が「穴が空いていない」を、全有界性が「大きすぎない」を担当します。どちらが欠けてもコンパクトになりません。

完備性は馴染みのある概念でしょう。以下では全有界性のほうを詳しく見ていきます。

全有界の定義

距離空間 が全有界(totally bounded)であるとは、任意の に対して有限個の点 が取れて

と書けることをいいます。 は中心 、半径 の開球です。

この -網と呼びます。「どれだけ細かい網目を指定されても、有限個の点で全体を捕まえられる」という条件です。

ごとに別の網を取ってよい点が重要です。 を小さくすれば必要な点の個数は増えていきますが、有限でありさえすればかまいません。

有界との違い

有界とは、ある 1 つの球にすっぽり収まることをいいます。全有界ならば有界です。有限個の球の和は有界だからです。

逆は成り立ちません。全有界は「有限個の小さな球で覆える」であって、大きな球 1 つで覆えるだけでは足りないのです。

HTML
CSS
JavaScript
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<svg viewBox="0 0 480 210" xmlns="http://www.w3.org/2000/svg" role="img" aria-label="全有界な集合と有界だが全有界でない集合">
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<circle cx="58" cy="118" r="26"/>
<circle cx="98" cy="118" r="26"/>
<circle cx="138" cy="118" r="26"/>
<circle cx="178" cy="118" r="26"/>
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<circle cx="298" cy="76" r="17"/>
<circle cx="364" cy="103" r="17"/>
<circle cx="424" cy="70" r="17"/>
<circle cx="312" cy="146" r="17"/>
<circle cx="392" cy="160" r="17"/>
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<circle cx="298" cy="76" r="3.6"/>
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<circle cx="392" cy="160" r="3.6"/>
</g>
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<text x="119" y="42" fill="#1b4fb8">全有界</text>
<text x="119" y="184">有限個で覆いきれる</text>
<text x="360" y="42" fill="#c93c41">有界だが全有界でない</text>
<text x="360" y="196">どの球も 1 点しか捕まえられない</text>
</g>
</svg>
</div>
.tb-fig { margin: 0; text-align: center; }
.tb-fig svg { width: 100%; max-width: 480px; height: auto; }

右の図は、互いに離れた点が無限に散らばっている状況です。全体は有界でも、小さな球ひとつひとつが 1 点ずつしか捕まえられないので、有限個では足りません。

では有界と全有界が同値になります。これはハイネ・ボレルの定理の一部で、有限次元だからこそ成り立つ性質です。

球の中心はどこに取ってもよい

部分集合 の全有界性を論じるとき、球の中心を から取るか、周囲の から取るかで定義が 2 通り書けます。この 2 つは同値です。

の点を中心とする -球で を覆えたとしましょう。 と交わらない球は捨ててかまいません。

残った各球 から点 を選びます。三角不等式により が成り立ちます。

こうして中心が の中にある -網が得られました。半径が 2 倍になるだけで、有限性は変わりません。

直径で言いかえる

球を使わない定義もあります。任意の に対して、直径が より小さい有限個の集合で を覆える、という形です。

球から直径へは で移れます。逆は、各集合 から 1 点 を選べば となります。

直径の条件は 真の不等号で書かなければいけません。

では が言えません。閉球には入りますが、開球には入りきらない点が出ます。

細かい違いに見えますが、あとで 進整数環を扱うときに実際に引っかかります。直径がちょうど になる被覆が自然に現れる場面があるのです。

例: 有界閉区間

を長さ の小区間に刻みます。 個あれば足ります。

各小区間の中点を取れば -網になります。よって は全有界です。

の閉集合なので完備でもあります。全有界かつ完備、すなわちコンパクトです。ハイネ・ボレルの定理を分解定理の側から見た形になっています。

例: 開区間

の部分集合ですから、同じ -網がそのまま使えます。全有界です。

しかし完備ではありません。 はコーシー列ですが、極限の に属していないからです。

この空間は「大きすぎない」条件を満たしながら「穴が空いていない」条件だけを落としています。コンパクトでないのは、穴のせいです。

例:

有理数だけを集めた も、有界な集合の部分集合なので全有界です。

こちらの穴はもっと激しく、 など無理数の位置すべてに空いています。 に収束する有理数列を取ればコーシー列で、しかも極限は空間の外です。

穴の個数は全有界性に影響しません。-網は穴を無視して取れるからです。

例:

は完備ですが全有界ではありません。有界でさえないので当然です。

で考えてみましょう。有限個の点 を取ると、 はどの にも入りません。

ここでは条件の欠け方が と逆になっています。穴はないけれど大きすぎる、というわけです。

例: 無限離散距離空間

無限集合 で距離を入れます。離散距離と呼ばれるものです。

この空間は有界です。直径が しかありません。完備でもあります。コーシー列は途中から定数になるしかないからです。

ところが全有界ではありません。 とすると なので、 を覆うには の点をすべて中心に取るしかなく、 は無限集合です。

有界かつ完備でもコンパクトにならない、最も単純な例です。有界性と全有界性の差がここにはっきり出ています。

例: を入れる

上の距離になります。距離を で頭打ちにしただけのものです。

と通常の距離は同じ位相を定めます。半径 未満の球が完全に一致するからです。

は有界です。直径は 以下です。完備でもあります。-コーシー列は途中から になり、そこから先は通常の距離のコーシー列と同じものになるからです。

全有界ではありません。 に関する半径 の球は通常の意味の長さ の区間で、有限個では を覆えません。

例: で移す

同じ に別の距離を入れてみます。

から への同相写像なので、 も通常の位相を定めます。

は全有界です。 で測れば は長さ の区間と等長だからです。具体的に -網も書けます。 となる を取り

とすればよいのです。

完備ではありません。 より -コーシー列ですが、 に対応する実数は存在しません。

2 つの距離が示すこと

前の 2 つの例を並べてみましょう。

完備だが全有界でない。穴は空いていないが、無限の彼方まで一様に広がっている。

全有界だが完備でない。有限の幅に収まっているが、両端に という穴が空いている。

台集合はどちらも 、定める位相も同じ、そして両方とも有界です。それでも全有界性と完備性の判定は正反対になります。

この 1 組から 3 つのことがわかります。第 1 に、全有界性と完備性は互いに独立です。第 2 に、どちらも位相だけでは決まりません。第 3 に、コンパクト性には本当に両方が要ります。

同じ位相に対して、片方の性質だけをもつ距離を 2 通り入れられたのですから、位相からこれらを読み取ることはできません。距離の入れ方、より正確には一様構造が決めているのです。

例: の単位球

2 乗総和可能な数列の空間 で、閉単位球 を考えます。

標準基底 はすべて の元です。 のとき

となります。互いの距離が一定です。

とすると、半径 の球は を高々 1 つしか含みません。 は無限個あるので、有限個の球では覆えません。

は有界で、 の閉集合なので完備です。それでも全有界でないためコンパクトになりません。無限離散空間の例が、そのまま関数解析の中に現れた形です。

例: ヒルベルト立方体

同じ の中で、成分ごとに縮めた集合を取ります。

これはヒルベルト立方体と呼ばれ、コンパクトになります。

全有界性を見ましょう。 なので、 を取れば、 番目より後ろの成分がもつノルムは 未満です。

すると の点は、最初の 成分だけを見た の有界集合で の精度で近似できます。 の有界集合は全有界ですから、その -網を持ち上げれば -網が得られます。

単位球との違いは、後ろの成分を強制的に潰している点です。全有界性とは「有限個の成分で近似が効く」ことだ、という見方がここで顔を出します。

例:

連続関数の空間 に上限ノルムを入れます。関数の族 を考えましょう。

どの ですから、この族は有界です。全有界ではありません。

すべての対の距離が離れているわけではないので、少し工夫が要ります。等比の部分列 を取ると

がちょうど成り立ちます。左辺は で最大値を取り、そこでの値が です。

より一般に なら が成り立ちます。 の球は部分列の項を高々 1 つしか含めず、有限個では覆えません。

例:

で三角関数の族 を見ます。直交性から のとき

となり、相互距離は です。

これも と同じ構図で、正規直交系がそのまま離散的な点の集まりになっています。 なので有界ですが、全有界ではありません。

無限次元の空間で「有界だが全有界でない」を作るには、正規直交系を持ってくればよい、というのが一般的な処方です。

例: カントール集合

から中央 3 分の 1 を繰り返し除いてできるカントール集合 を考えます。 段階目の は、長さ の閉区間 個の和です。

ですから、 に対して 個の球で覆えます。全有界です。

は閉集合なので完備でもあり、したがってコンパクトです。被覆数を と書くと で、これは

と書けます。指数の がカントール集合のハウスドルフ次元です。被覆数の増え方が次元を測っている、という関係があとで効いてきます。

例: 太ったカントール集合

カントール集合は測度 です。除いた区間の長さの総和が になるからです。

除く割合を減らせば話が変わります。 段階目に 個の区間から、それぞれ長さ の中央部分を除いてみましょう。除いた総量は

なので、残る集合の測度は です。

この集合はカントール集合と同相で、やはりコンパクトです。位相もコンパクト性も同じなのに測度が違う、つまり測度は位相的性質ではありません。

全有界性が位相的性質でないことを の 2 つの距離で見ましたが、同じ種類の現象がここにも現れています。

例: 進整数環

素数 を固定し、 進距離 を入れた 進整数環 を考えます。 で、 を割る の冪の指数です。

個の剰余類に分かれます。

各類の直径はちょうど です。 で値が達成されます。

ここで先ほどの注意が効きます。直径がちょうど なので、 では「直径が 未満」を満たしません。 と 1 段ずらして使います。

いずれにせよ任意の に対して有限被覆が取れるので は全有界で、完備でもあるためコンパクトです。

例: とカントール空間

のとき、 の元は 進展開の桁列 と 1 対 1 に対応します。

このとき 進距離は

となります。これは に入れる標準的な距離そのものです。

つまり とカントール空間は、同相であるだけでなく距離まで一致します。前の 2 つの例が同じものだった、というわけです。

例: 進数で を解く

進距離を入れると、有界で全有界ですが完備ではありません。完備化がちょうど になります。

穴が空いていることを具体的な列で見ましょう。

この列は を満たします。 を確かめてみてください。

第 2 の条件から なので、この列は 進距離でコーシー列です。ところが極限は を満たす数で、整数にも有理数にもそんなものはありません。

全有界な空間の完備化はコンパクトになります。ここでは の穴を埋めた結果がコンパクトな で、 の平方根はその穴の 1 つに住んでいます。

全有界性は完備化しても失われないので、完備化は全有界かつ完備、つまりコンパクトになります。

4 通りの組み合わせ

全有界性と完備性は独立ですから、4 通りの組み合わせがすべて実現します。

HTML
CSS
JavaScript
<div class="quad-fig">
<svg viewBox="0 0 500 290" xmlns="http://www.w3.org/2000/svg" role="img" aria-label="全有界性と完備性の 4 通りの組み合わせ">
<rect x="0" y="0" width="500" height="290" rx="10" fill="#fafbfc"/>
<rect x="110" y="52" width="184" height="104" rx="8" fill="#2f8f4e" fill-opacity="0.12" stroke="#2f8f4e" stroke-width="1.3"/>
<rect x="300" y="52" width="184" height="104" rx="8" fill="#e5484d" fill-opacity="0.09" stroke="#e5484d" stroke-width="1.1"/>
<rect x="110" y="162" width="184" height="104" rx="8" fill="#e5484d" fill-opacity="0.09" stroke="#e5484d" stroke-width="1.1"/>
<rect x="300" y="162" width="184" height="104" rx="8" fill="#e5484d" fill-opacity="0.09" stroke="#e5484d" stroke-width="1.1"/>
<g font-family="ui-sans-serif, system-ui, sans-serif" font-size="12.5" fill="#5b616b">
<text x="202" y="40" text-anchor="middle">全有界</text>
<text x="392" y="40" text-anchor="middle">全有界でない</text>
<text x="100" y="100" text-anchor="end">完備</text>
<text x="100" y="210" text-anchor="end">完備でない</text>
</g>
<g font-family="ui-sans-serif, system-ui, sans-serif" font-size="11.5" fill="#1b1d22">
<text x="122" y="76" font-size="12.5" fill="#1f7a41">コンパクト</text>
<text x="122" y="97">[0, 1]、カントール集合</text>
<text x="122" y="116">ヒルベルト立方体</text>
<text x="122" y="135">Z_p</text>
<text x="312" y="76">R(通常の距離)</text>
<text x="312" y="97">無限離散空間</text>
<text x="312" y="116">min(1, |x-y|) の R</text>
<text x="312" y="135">l^2 の閉単位球</text>
<text x="122" y="186">(0, 1)</text>
<text x="122" y="207">Q ∩ [0, 1]</text>
<text x="122" y="228">arctan 距離の R</text>
<text x="122" y="249">Z(5 進距離)</text>
<text x="312" y="186">Q(通常の距離)</text>
<text x="312" y="207">l^2 の開単位球</text>
<text x="312" y="228">C[0, 1] 全体</text>
</g>
</svg>
</div>
.quad-fig { margin: 0; text-align: center; }
.quad-fig svg { width: 100%; max-width: 500px; height: auto; }

左上だけがコンパクトです。残りの 3 つは、どれか一方または両方が欠けています。

同じ が右上と左下の両方に現れていることに注意してください。距離の入れ方でどちらにもなります。

全有界性が保たれる操作

全有界性は素直な性質で、多くの操作で保たれます。

全有界集合の部分集合は全有界
全有界集合の閉包は全有界
全有界集合の有限和は全有界
全有界空間の有限個の直積は全有界

1 つ目はコンパクト性との違いが出るところです。コンパクト集合の部分集合はコンパクトとは限りません。 の部分集合 がその例です。

全有界性のほうは部分集合に無条件で遺伝します。-網をそのまま流用でき、必要なら中心を取り直せばよいからです。

閉包について保たれることも大事です。おかげで、全有界な集合の完備化を取るという操作が意味をもちます。

一様連続な像は全有界

写像で移したときの振る舞いには、はっきりした条件が付きます。

一様連続写像

全有界集合の像は全有界。-網の像が像の網になる。

連続なだけの写像

像が全有界とは限らない。一様性がないと網目が引き伸ばされる。

反例は簡単に作れます。 を考えましょう。

定義域の は全有界です。 は連続ですが一様連続ではありません。そして像は で、有界でさえありません。

コンパクト性は連続写像で保たれるのに、全有界性は一様連続性を要求します。ここにも「全有界性は位相の性質ではない」ことが現れています。

全有界ならば可分

全有界な距離空間は可分です。つまり可算な稠密部分集合をもちます。

に対して -網 を取り、 とおきます。 は有限なので は可算です。

任意の に対し、 となる を取れば の中に から 未満の点があります。よって は稠密です。

厳密にいえば、この構成は各 について網を 1 つずつ選ぶので可算選択公理を使っています。通常の数学では気にする必要はありませんが、選択公理を落とした議論では前提になります。

無限次元ノルム空間の単位球

で見た現象は、無限次元ならいつでも起こります。

無限次元ノルム空間の閉単位球は、有界かつ(空間が完備なら)完備ですが、全有界にはなりません。したがってコンパクトになりません。

では正規直交基底という都合のよい道具がありました。内積のない一般のノルム空間では、代わりにリースの補題を使います。

リースの補題

リースの補題

をノルム空間、 を閉部分空間、 とします。このとき かつ を満たす が存在します。

意味

閉部分空間からしっかり離れた単位ベクトルが必ず取れる、ということです。 に取れるとは限らないところが要点です。

この補題を繰り返し使うと、離れた単位ベクトルの列が作れます。 で議論しましょう。

を任意の単位ベクトルとします。 が取れたら、それらが張る有限次元部分空間 は閉です。 が無限次元なら なので、補題により となる単位ベクトル が取れます。

こうして に対して を満たす単位ベクトルの列ができました。 の球は高々 1 つしか含めないので、単位球は全有界ではありません。

有限次元部分空間が閉であることが効いています。無限次元であるという仮定は、ここで を保証するために使われました。

リースの定理

前節の議論を逆から読むと、次の定理になります。

ノルム空間 の閉単位球がコンパクトであることと、 が有限次元であることは同値です。

有限次元なら と同型で、ハイネ・ボレルの定理からコンパクトです。無限次元なら前節の列が邪魔をします。

コンパクト性が有限次元性そのものを特徴づけている、という強い結果です。無限次元の解析でコンパクト性が貴重品になる理由が、ここに集約されています。

コンパクト性の 3 つの言いかえ

準備が整ったので、分解定理を正確に述べます。

はコンパクトである
は点列コンパクトである
は全有界かつ完備である

距離空間 について、この 3 条件は同値です。点列コンパクトとは、任意の点列が収束部分列をもつことをいいます。

証明は と回すのが標準的です。 を直接示すより、点列コンパクト性を経由するほうが議論が短くなります。

距離空間でなければ崩れる

この同値性は距離空間に特有です。一般の位相空間では、コンパクト性と点列コンパクト性のあいだにどちらの含意も成り立ちません。

は、連続体濃度個の の直積です。チコノフの定理によりコンパクトですが、点列コンパクトではありません。

を「 の 2 進展開の第 桁」と定めます。任意の部分列 に対し、偶数番目だけを拾った を考えましょう。

この では の偶奇に応じて を交互に取ります。射影は連続なので、部分列 は積位相で収束しません。どんな部分列を取っても、それを狂わせる が 1 つ作れてしまうわけです。

逆向きの反例は最小の非可算順序数 です。可算個の可算順序数の上限は可算順序数なので、任意の点列はあるコンパクトな に収まり、収束部分列がとれます。それでも開被覆 には有限部分被覆がありません。

つまり距離空間だからこそ 3 条件が結びつきます。分解定理は距離という構造に依存した定理です。

証明: コンパクト 点列コンパクト

点列 が収束部分列をもたないと仮定して、矛盾を導きます。

どの点 の集積点ではありません。したがって各 に対して、 を有限個しか含まない開球 が取れます。

これが集積点でないことの言いかえです。もし任意の半径の球が無限個の項を含むなら、そこから に収束する部分列が作れてしまいます。

の開被覆です。コンパクト性から有限部分被覆 が取れます。

各球は の項を有限個しか含まないので、全体でも有限個です。しかし項は無限個あり、すべてどこかの球に入っているはずです。矛盾しました。

証明: 点列コンパクト 全有界かつ完備

まず完備性です。 をコーシー列とすると、仮定から収束部分列 が取れます。

コーシー列が収束部分列をもてば、全体がその極限に収束します。 の両項を小さくできるからです。

次に全有界性を対偶で示します。 が全有界でないとすると、ある について有限個の -球では覆えません。

を任意に取り、 が取れたら、 全体にならないので、そこから外れる点を とします。

こうしてできた列では、 のとき必ず となります。どの部分列もコーシーになりえないので収束部分列をもたず、点列コンパクト性に反します。

証明: 全有界かつ完備 点列コンパクト

ここが対角線論法の出番です。点列 を任意に取ります。

全有界性を で使うと、有限個の半径 の球で が覆えます。項は無限個あるので、少なくとも 1 つの球 が無限個の項を含みます。その項たちを部分列 とします。

同じことを に対して で行い、半径 の球 と部分列 を得ます。以下、半径 の球 と部分列 を作り続けます。

各段の部分列は前の段の部分列です。ここで対角線を取り、 とおきます。

なら は第 部分列の項でもあるので、 はともに半径 の球 に入ります。よって

となり、 はコーシー列です。完備性から収束します。

半径 の球に 2 点が入るとき距離は ではなく で抑えられます。係数を落としやすいところなので注意してください。

ルベーグ数の補題

残るのは「点列コンパクト コンパクト」です。その道具になるのがルベーグ数の補題です。

ルベーグ数の補題

を点列コンパクトな距離空間、 をその開被覆とします。このときある が存在して、任意の に対し を丸ごと含む が取れます。

直径による言いかえ

直径が より小さい部分集合は、必ず のどれか 1 つの元に含まれる、という形でも書けます。両者は係数 の違いで同値です。

証明は背理法です。各 について がどの にも含まれないような が取れたとします。

点列コンパクト性から とできます。 はある に属し、 は開なので となる があります。

を十分大きく取れば かつ とできます。すると となり、 の取り方に反します。

全有界性だけではルベーグ数は出ない

ルベーグ数の補題の仮定を「全有界」に弱めることはできません。ここは間違えやすいところです。

を取り、開被覆として を考えます。 は全有界です。

任意の に対し、 は直径が 未満ですが、 にいくらでも近い点を含むのでどの にも入りません。ルベーグ数は存在しないのです。

この は完備でありません。実際、仮定を「完備かつ全有界」にすれば補題は成り立ちます。全有界性だけでは足りず、完備性か点列コンパクト性を補う必要があるわけです。

逆にルベーグ数の存在が全有界性を導くわけでもありません。 では直径 未満の集合が 1 点集合しかないので、どんな開被覆も をルベーグ数にできます。それでも は全有界ではありません。

2 つの性質は独立です。証明の中で両方を別々に調達する必要があります。

証明: 点列コンパクト コンパクト

開被覆 を任意に取ります。使う材料は 2 つで、どちらも点列コンパクト性から来ます。

第 1 に、ルベーグ数の補題から が取れます。第 2 に、すでに示したとおり点列コンパクトなら全有界です。

全有界性を で使うと、有限個の球 が覆えます。

に含まれ、ルベーグ数の性質からある に含まれます。よって が有限部分被覆です。

点列コンパクト

ルベーグ数 と全有界性

半径 の有限被覆

有限部分被覆

全有界性が最後の一歩で効いています。ルベーグ数だけでは「各点の近くは 1 つの に収まる」としか言えず、その近傍を有限個で覆う手段が別に要るのです。

完備化はコンパクトになる

全有界な距離空間 の完備化 はコンパクトです。

で稠密ですから、-網は -網になります。よって は全有界で、完備でもあるためコンパクトです。

逆にコンパクト距離空間の部分空間は全有界です。したがって、全有界性とは「コンパクト距離空間の中に等長に埋め込めること」と言い換えられます。

穴を埋めさえすればコンパクトになる、という約束が全有界性の正体です。 の完備化が 進完備化が という例で見たとおりです。

完備空間の中では相対コンパクトと一致する

を完備距離空間、 を部分集合とします。このとき が全有界であることと、閉包 がコンパクトであることは同値です。

が全有界なら閉包も全有界で、 の閉集合だから完備、よってコンパクトです。逆にコンパクトなら全有界で、部分集合の も全有界です。

がコンパクトであることを の相対コンパクト性といいます。完備な空間の中では、全有界性と相対コンパクト性が同じものになる、というのがこの主張です。

完備でないと崩れます。 とすれば は全有界ですが、 はコンパクトではありません。

precompact という語

この事情のせいで、precompact という語が 2 つの意味で使われています。混乱しやすいところです。

全有界の意味

ブルバキ系。précompact を「有限個の で覆える」の意味に使う。完備化がコンパクト、という言い方も同じ内容。

相対コンパクトの意味

関数解析でよく見る用法。閉包がコンパクト、を precompact と呼ぶ。周囲の空間に依存する。

完備空間の部分集合を扱うかぎり、2 つは一致します。関数解析で使う空間はたいてい完備なので、実害が出ないまま両方の用法が生き残りました。

一般には後者のほうが真に強い条件です。用語を使うときは定義を明示するのが安全でしょう。

区別の軸は明快です。全有界性は空間の内部だけで決まり、相対コンパクト性は外側の空間に依存します。 はそれ自身の中でも の中でも全有界ですが、相対コンパクトなのは の中で見たときだけです。

有限次元へ潰す

ここから応用に入ります。完備な空間で仕事をするかぎり、コンパクト性の判定はすべて全有界性の判定に還元されます。

そして全有界性の判定条件には、驚くほど共通の形があります。Hanche-Olsen と Holden のコルモゴロフ・リースのコンパクト性定理についての論文が、それを 1 つの補題にまとめています。

近似補題

距離空間 について、任意の に対しある 、距離空間 、写像 が存在して、 が全有界であり、かつ ならば が成り立つならば、 は全有界です。

証明の要点

の有限 -被覆を引き戻せば -被覆になります。数行で終わります。

は「有限個の数値に潰す写像」だと思ってください。以下に見る定理はどれも、 を何に取るかが違うだけです。

全有界性とは、族全体を一様に有限次元へ潰せること。この一文が応用の全体を貫いています。

アスコリ・アルツェラの定理

をコンパクト空間とし、連続関数の空間 を上限ノルムで考えます。

部分集合 が全有界であることと、 が各点有界かつ同程度連続であることは同値です。同程度連続とは、 に対する の元によらず共通に取れることをいいます。

証明で使う は、有限個の点での値を並べる写像 です。

同程度連続性があれば、 を細かく分割して代表点を取ることで、この有限個の値から関数全体が一様に復元できます。あとは の有界集合が全有界であることに帰着します。

は完備ですから、全有界性はそのまま相対コンパクト性になります。 の族が全有界でなかったのは、 の近くで同程度連続性が崩れるからです。

アスコリ・アルツェラの仮定

教科書でよく見る形と、必要十分な形にはずれがあります。

多くの本が「一様有界かつ同程度連続」を仮定に置きますが、 がコンパクトなら各点有界で足ります。一様有界性は結論の側から出てくるもので、仮定としては冗長です。

定義域のコンパクト性は落とせません。 上で とすれば、一様有界かつ同程度連続なのに一様収束部分列をもちません。台が無限遠へ逃げていくからです。

値域が一般の距離空間 のときは、条件が「各点有界」ではなく「各点相対コンパクト」になります。各 について で相対コンパクト、という形です。

ペアノの存在定理

アスコリ・アルツェラの典型的な使い道が、常微分方程式の解の存在です。

が連続なだけ(リプシッツ条件なし)のとき、オイラー折れ線で近似解 を作ります。

刻み幅を細かくした折れ線の族は、一様有界で、しかも の有界性から傾きが一様に抑えられるので同程度連続です。

したがって全有界となり、一様収束部分列が取れます。その極限が積分方程式を満たすことを確かめれば、解の存在が言えます。

解の一意性は得られません。得られたのは部分列の極限だからです。リプシッツ条件がないときに解が一意でないのは、この証明の構造にきちんと対応しています。

リース・コルモゴロフの定理

での対応物も同じ形をしています。 とします。

が全有界であるための必要十分条件は、無限遠で一様に減衰すること、すなわち任意の に対しある

が成り立つことと、平行移動について一様に連続なこと、すなわち任意の に対しある

が成り立つことです。

第 2 の条件が、アスコリ・アルツェラの同程度連続性にあたります。 は「小さな立方体の上での平均を取る」有限階数の射影で、やはり有限次元へ潰す写像です。

多くの教科書はここに「 で有界」という第 3 の条件を併記します。しかしこれは他の 2 条件から従う冗長な仮定です。1957 年に Sudakov が示していたのに長く忘れられていた、とHanche-Olsen らの改良版の論文が述べています。

レリッヒ・コンドラショフの定理

偏微分方程式で最も使われるコンパクト性が、ソボレフ空間の埋め込みです。

を有界なリプシッツ領域、 とすると、 に対して埋め込み はコンパクトです。

理由は前節の条件を確かめるだけです。平行移動の評価

が族全体で一様に成り立ちます。勾配の可積分性という 1 階の情報が、そのまま平行移動の同程度連続性に翻訳されるのです。

臨界指数 ではコンパクトになりません。互いに交わらない球の上で と集中させると、スケーリングがちょうど釣り合って ノルムが によらず一定になります。

非有界領域でも崩れます。台を平行移動させた が反例です。これは前節の「無限遠での一様減衰」が破れる形になっています。

プロホロフの定理

確率論にも同じ構図が現れます。距離空間上の確率測度の族 が緊密であるとは、任意の に対してコンパクト集合 が取れて、すべての となることをいいます。

緊密ならば は弱位相で相対コンパクトです。逆は空間が完備可分(ポーランド空間)のときに成り立ちます。

順方向に完備性が要らない点は、実用上ありがたいところです。列から弱収束部分列を取り出す、という一番よく使う操作は、完備性なしで通ります。

全有界性は二重に現れています。緊密性の定義に出てくるコンパクト集合が完備かつ全有界であり、証明ではその全有界性から有限個の球を取り出して対角線論法を回します。そして結論の相対コンパクト性も、測度の空間における全有界性です。

質量が無限遠へ逃げない、という緊密性の意味は、リース・コルモゴロフの一様減衰条件のちょうど確率論版になっています。

バナッハ・アラオグルの定理

無限次元の単位球が全有界でないなら、コンパクト性はあきらめるしかないのでしょうか。位相を変える手があります。

ノルム空間 の双対 の閉単位球は、弱 位相でコンパクトになります。これがバナッハ・アラオグルの定理です。

同じ集合が、ノルムの一様構造では全有界でなく、弱 の一様構造では全有界かつ完備になります。全有界性が位相ではなく一様構造の性質だ、という主張の最もはっきりした実例でしょう。

ノルム位相での相対コンパクト性の条件も、この文脈で述べておく価値があります。 が相対コンパクトであることは、任意の に対してある有限次元部分空間の -近傍に が収まることと同値です。

Terence Tao は弱位相についての講義ノートでこれを「コンパクト集合はほとんど有限次元でなければならない」と要約しています。近似補題の が有限次元への写像だったことと、正確に対応しています。

なお「弱 位相は距離化可能」という言い方は不正確です。 が可分のとき、有界集合に限れば距離化可能になる、というのが正しい主張です。

被覆数

全有界性は「有限個で覆える」という是か非かの条件でした。個数を数えれば定量的な量になります。

-被覆に必要な最小の個数を被覆数といい、 と書きます。全有界性は「任意の 」と一言で言い換えられます。

具体的な値を見てみましょう。単位正方形を一辺 の正方形で覆うのに要る個数です。

0 20 40 60 80 100 1/2 1/3 1/4 1/6 1/8 1/10 4 9 16 36 64 100 単位正方形の被覆数(横軸は一辺の長さ)

では となり、次元が指数に乗ります。次元の呪いと呼ばれる現象の、最も素朴な姿です。

次元ノルム空間の単位球でも同じオーダーで、

が成り立ちます。上界をよく と書きますが、これが 以上になるのは のときだけです。範囲を断らずに使うと誤りになります。

カントール集合で見た と並べると、被覆数の増える速さが次元を測っていることがよくわかります。

エントロピー数と統計学

-エントロピーと呼びます。集合の複雑さの尺度として、統計学と機械学習の基礎になっています。

平均 の劣ガウス過程 に対して、上限の期待値がエントロピーの積分で抑えられます。

これがダドリーのエントロピー積分です。詳細はBartlett の講義ノートにあります。

ここで定性的な全有界性では足りなくなります。積分が収束するには より真に遅く発散する必要があり、すべての でも積分は発散しうるからです。

VC 次元が有限な集合族については、被覆数が下敷きの確率測度によらず一様に の多項式で抑えられます。この一様性がグリベンコ・カンテリの定理につながります。

コンパクト性の一成分だった全有界性が、それ自体で測るべき量になった。応用の広がり方として、これが最も遠くまで届いた例だと思います。

理解の確認

の 2 つの距離を入れる。この 2 つを比べたとき正しいものはどれか。

  • 定める位相が違うので、全有界性の判定が食い違う
  • どちらも有界なので、どちらも全有界になる
  • 位相は同じだが、 は完備で全有界でなく、 は全有界で完備でない
__RESULT__

の通常の位相を定めます。それでも -球は通常の区間なので有限個では覆えず、 は完備です。一方 で測ると は長さ の区間と等長なので全有界ですが、 がコーシー列になって完備でありません。位相が同じでも判定が分かれる、つまり全有界性も完備性も位相的性質ではない、ということです。

参考文献

全有界性の定義と基本性質は Encyclopedia of Mathematics の該当項目にまとまっています。直径による定義と -網による定義が並記されており、一様連続写像による像が全有界になることも扱われます。

一様空間への一般化と、precompact という語の整理は nLab の totally bounded space が詳しいところです。全有界な部分空間が冪集合のイデアルをなす、という見方も載っています。

分解定理の証明は、ウィスコンシン大学の Andreas Seeger による Math 522 の講義ノートが最も丁寧です。補題を 7 つに分け、どの含意にどの性質を使うかが明示されています。本記事の対角線論法もこの流れに従いました。

ルベーグ数を「完備かつ全有界」から直接導くルートは、スタンフォード大学の Brian Conrad による Math 396 の配布資料にあります。球の中心を取り直す議論もここに書かれています。

全有界性だけではルベーグ数が出ないことは、Gupta と Mukherjee の論文が正面から扱った主題です。ルベーグ数をもつ距離空間(Atsuji 空間)は、完備距離空間とコンパクト距離空間のちょうど中間に位置します。

コンパクト性と点列コンパクト性が一般の位相空間で分離する例は、トロント大学の MAT327 の講義ノートにあります。 の両方が扱われています。

応用を貫く近似補題は、Hanche-Olsen と Holden の The Kolmogorov–Riesz compactness theoremにあります。Expo. Math. 28 巻、2010 年、385–394 頁の論文です。

1 つの補題からアスコリ・アルツェラとリース・コルモゴロフの両方を導き、レリッヒ・コンドラショフまで射程に入れた構成になっています。本記事の応用の節は、おおむねこの見取り図に沿いました。

リース・コルモゴロフの有界性条件が冗長であることは、Hanche-Olsen、Holden、Malinnikova の続編の主題です。1957 年の Sudakov の結果の再発見にあたる短い論文で、簡潔な別証明が付いています。

プロホロフの定理で完備性がどちら向きに必要かは、ライデン大学の Onno van Gaans による講義ノートが明快です。完備距離空間の閉集合についてコンパクト性と全有界性が一致する補題を、証明の直前に置いている点も参考になります。

被覆数とエントロピー積分は、カリフォルニア大学バークレー校の Peter Bartlett による Stat 210B の講義ノートが入口として読みやすいところです。被覆数と充填数の関係や、ノルム球の被覆数の評価もここにあります。

コンパクト性が全有界性と完備性に分かれることを例中心に解説します。$\mathbb{R}$ に 2 つの距離を入れて両性質の独立性を示し、$\ell^2$ の単位球やカントール集合の例、同値性の証明、関数解析への応用まで扱います。