距離空間において、コンパクト性は全有界性と完備性という2つの条件に分解されます。この分解は解析学で重要な役割を果たします。
全有界の定義
距離空間 が全有界(totally bounded)であるとは、任意の に対して、有限個の点 で と書けることをいいます。
全有界は「有限個の小さな球で覆える」という条件で、有界より強い概念です。 では有界と全有界は同値ですが、一般の距離空間では異なります。
全有界の例と非例
の有界集合は全有界です。有界閉区間 は任意の に対して有限個の長さ の区間で覆えます。
無限次元ノルム空間の単位球は有界ですが全有界ではありません。Rieszの補題により、単位球から距離 以上離れた点を無限に取れるため、有限個の球で覆えません。
コンパクト性の特徴づけ
距離空間 に対して、次の3条件は同値です。
はコンパクトである
は点列コンパクトである(任意の点列が収束部分列を持つ)
は全有界かつ完備である
この同値性は距離空間に特有であり、一般の位相空間では成り立ちません。
証明の概略
(1)→(2) は一般の位相空間で成り立ちます(コンパクトならば点列コンパクト)。
(2)→(3) について、点列コンパクトならば完備です(Cauchy列は収束部分列を持ち、その極限に収束)。全有界性も点列コンパクト性から従います。
(3)→(1) について、全有界性から任意の開被覆に対してLebesgue数が存在し、有限部分被覆が取れます。
完備化と全有界性
距離空間 の完備化 において、 が で全有界であることと、 自身が全有界であることは同値です。
したがって、全有界な距離空間の完備化はコンパクトとなります。これは関数空間の理論で重要な事実です。