いくつ掛けてもコンパクトのまま!チコノフの定理と選択公理
コンパクト空間をいくつ掛け合わせても、積はコンパクトのまま。個数に制限はなく、非可算個でも成り立ちます[3]。
有限個なら被覆をたどるだけで示せます。無限個になると、その手が届かない。ツォルンの補題を持ち出す必要が出てきます[1]。
定理の主張
コンパクト空間の族 に対し、積空間 は積位相についてコンパクトです[1]。
チホノフが 1929 年に示し、翌年に論文が出ました[3]。一般位相のほとんどがこの定理の影響下にある、と言われるほど広く使われます。
どの位相を入れるかで結論が変わる
無限個の積では、位相の入れ方が 2 通り考えられます[1]。
箱位相は の形をすべて基底にとります。素直な一般化に見えますが、これでは定理が成り立ちません。
積位相のほうは条件を 1 つ足します。有限個を除いて でなければならない[1]。
箱位相を入れた では、有界な列全体と非有界な列全体が分解になります。連結性さえ失われる[1]。
積位相のほうは、有限個しか動かさないおかげで性質が保たれます。定理が成り立つのはこちらだけ。
有限個ならチューブ補題で済む
まず 2 つの積を見ます。 がコンパクトで、 が を含む の開集合だとする[1]。
このとき の近傍 をうまくとると、 がまるごと に収まります。細長い管が入るという形なので、チューブ補題と呼ばれます。

が と同相でコンパクトなので、有限個の で覆えます。その たちの共通部分を とすればよい[1]。
管をとった後は のコンパクト性を使うだけ。有限個の積は帰納法で片づきます[1]。
無限個では手が届かない
無限個の因子では帰納法が使えません。 段でどうにかなる話ではないからです[1]。
そこで証明の形を変えます。まずコンパクト性を、開集合ではなく閉集合の言葉で書き直す[1]。
がコンパクトであることと、次が同値になります。閉集合の族 で となるものには、有限個をとって共通部分が空になるものがある。
対偶をとると使いやすい形になります。どの有限部分族も共通部分が空でないなら、全体の共通部分も空でない。この性質を有限交叉性と呼びます[1]。
コンパクト性は、有限で成り立つことが全体でも成り立つという乗り移りの条件だと読めます。
非コンパクトな では たちが反例。どの有限個も交わるのに、全体は空。
極大な族をとる
有限交叉性を持つ族 は、それを含む極大な族 に広げられます[1]。
証明はツォルンの補題です。有限交叉性を持つ族の全体を包含で順序づけ、鎖の上界が和集合で作れることを見ればよい[1]。
極大な族には強い性質が付きます。有限個の共通部分がまた族に属し、族のすべての元と交わる集合もまた族に属する[1]。
有限交叉性を持つ族
ツォルンの補題で極大に広げる
射影した族も有限交叉性を持つ
各因子のコンパクト性で点を選ぶ
証明の流れ
各 について、族 を考えます。射影で移しただけなので有限交叉性を保ちます[1]。
がコンパクトなので、この族の閉包すべてに属する点 がとれる。集めて とします[1]。
あとは がすべての の閉包に属することを見ればよい。 を含む基本開集合は有限個の の共通部分なので、極大性から の元とすべて交わります[1]。
積位相の基本開集合が有限個しか制限を持たないという事実が、ここでちょうど効いてきます。箱位相ではこの一歩が踏み出せません。
選択公理との関係
無限個の積が空でないこと自体が、すでに選択公理です。定理の中でも各因子から点を選んでいます。
実際、チホノフの定理は選択公理と同値になります。定理の側から選択公理を導き返す道も知られています。
証明では、 に 1 点を足して余有限位相を入れた空間の積を考えます。積がコンパクトであることから、もとの積が空でないと出る。
チューブ補題と帰納法で済む。選択公理は要らない
ツォルンの補題が要る。選択公理と同値
積で保たれる性質は、そう多くありません。リンデレフ性は 2 つの積でさえ崩れることがあり、コンパクト性ほど素直ではない[2]。
応用の広がり
バナッハ空間の双対の単位球が弱 位相でコンパクトになるという主張が、バナッハ・アラオグルの定理です。証明の中心にチホノフの定理があります[3]。
完全正則 空間のストーン・チェックコンパクト化も、この定理で作られます。連続関数を座標にして立方体へ埋め込み、閉包をとる[3]。
逆極限が空でないことの証明、一般化されたカントール不連続体やチホノフ立方体の構成にも使われます[3]。
箱位相を入れた について正しいのはどれですか。
- コンパクトである
- 連結でさえない
- 積位相と一致する
有限で成り立つことを無限へ運ぶ。その運搬にツォルンの補題が要るところが、この定理のいちばん深い部分です。












有界な列の全体と非有界な列の全体が、どちらも箱位相で開集合になります。この 2 つが分解を与えるので連結ではありません。積位相との一致は有限個の積のときだけ。無限個では箱位相のほうが真に細かくなります。