商空間は空間の点を同一視して新しい空間を作る操作です。ここでは商位相の具体例を詳しく見ていきます。
区間から円周へ
最も基本的な例として、閉区間 の両端点を同一視して円周 を作ります。
同値関係は のみで、他の点は自分自身とのみ同値です。商写像 は で与えられます。
は連続な全射であり、 がコンパクト、 がハウスドルフなので、これは商写像となります。
正方形からトーラスへ
正方形 の対辺を同一視するとトーラス が得られます。
同値関係は および です。上辺と下辺、左辺と右辺をそれぞれ貼り合わせます。
具体的な商写像は です。トーラスは と同相であり、ドーナツの表面として視覚化できます。
正方形からメビウスの帯へ
で と同一視するとメビウスの帯が得られます。
左辺と右辺を貼り合わせますが、上下を反転させて貼ります。これにより向き付け不可能な曲面ができます。メビウスの帯は境界を持つ2次元多様体です。
正方形からクラインの壺へ
と で同一視するとクラインの壺が得られます。
メビウスの帯の貼り方に加えて、上下の辺も通常通り貼り合わせます。クラインの壺は向き付け不可能な閉曲面で、 には自己交叉なしに埋め込めません。
球面から実射影空間へ
次元球面 で対蹠点を同一視すると実射影空間 が得られます。
の点は の対蹠点の対であり、原点を通る直線と1対1に対応します。 は と同相ですが、 では は と同相ではありません。
はメビウスの帯の境界円周に円板を貼り付けた空間とも見なせます。
円板から球面へ
円板 の境界 をすべて一点に潰すと が得られます。
同値関係は、境界上のすべての点を同一視し、内部の点は自分自身とのみ同値とします。直感的には、巾着袋の口を絞って閉じる操作です。
より一般に、 の境界 を一点に潰すと となります。
円錐の構成
位相空間 の円錐(cone) は、 で を一点に潰した商空間です。
は と同相です。 は区間 と同相であり、 は円錐面と同相です。
懸垂の構成
位相空間 の懸垂(suspension) は、 で と をそれぞれ一点に潰した商空間です。
となります。懸垂は次元を1つ上げる操作として、代数的位相幾何学で重要です。
楔和の構成
基点付き空間 と の楔和(wedge sum) は、(非交和)で と同一視した商空間です。
は8の字型の空間で、基本群は自由群 となります。 は2つの球面を一点で接合した空間です。
商群と等質空間
位相群 とその閉部分群 に対して、商空間 は等質空間と呼ばれます。
です。 は3次元回転群、 は 軸周りの回転で、商空間は回転軸の方向全体、すなわち球面となります。
(Hopf束の底空間)、 なども重要な例です。
軌道空間
群 が空間 に作用するとき、軌道による同値関係で商を取った空間 を軌道空間といいます。
が に平行移動で作用するとき、 です。 が に作用するとき、 です。
が に対蹠点を交換する作用で作用するとき、 です。
商空間がハウスドルフでない例
で という同値関係を考えます。商空間 は非ハウスドルフです。
任意の2つの同値類は「絡み合って」おり、開集合で分離できません。この空間は密着位相を持ち、任意の空でない開集合は全体と一致します。
原点を2つ持つ直線
を2つ用意し、 で ()と同一視した空間は、原点を2つ持つ直線です。
この空間は非ハウスドルフです。2つの原点はどんな開集合でも分離できません。局所的にはユークリッド空間と同相ですが、ハウスドルフでないため多様体ではありません。
群の作用による軌道空間で、作用が適切(固有かつ自由)な場合。等質空間 ( が閉部分群)。射影 。
から への商写像。端点を同一視する操作は開写像にならない。 の像は で開集合でない。