微分形式を削る内部積、流れで運ぶリー微分 - カルタンの公式でつながる
外微分は次数を 1 つ上げます。逆に 1 つ下げる操作が内部積で、ベクトル場を形式の第 1 引数に差し込むだけのもの。
もう 1 つ、次数を変えずに微分する操作があります。ベクトル場の流れに乗せて運び、変化率をとるリー微分です[2]。
この 3 つは独立ではありません。カルタンの公式 が結び、内部積と外微分からリー微分が出ます。以下では順に定義し、公式の中身と使いどころまで扱います。
内部積の定義
形式 とベクトル場 に対し、 形式 を
で定めます[1]。第 1 引数に を固定し、残りを引数として残す。
形式に対しては と決めます。次数を下げる先がないため。
縮約とも呼ばれます。 や という書き方もある。
次数を 1 つ下げる
は です。 と向きが逆。
反対称性から、 もまた反対称になります。第 1 引数を固定しても、残りの引数についての反対称性は壊れない。
線型なので、 の各点での値は のその点での値だけで決まります。微分が入らないため。
内部積のライプニッツ則
は次数 の反微分です[1]。 を 形式とすると
が成り立ちます。 と同じ形の符号規則。
が次数 の反微分、 が次数 の反微分です。次数の符号が向きに対応している。
を 2 回差し込むと、 になります。反対称なので 。
と形は同じですが、理由が違います。 のほうは偏微分の交換から、 のほうは形式の反対称性から[1]。
例: に を入れる
とします。、。
になります。第 1 引数に を入れて展開しただけ。
出てきた 形式は、 に対応するベクトルを 度回したものに対応します。 次元の面積形式が回転を作る、という見方。
例: 形式から 形式へ
次元で 、 とします。
です。 が食われて消える。
が一般のベクトル場なら になります。ベクトル場を 形式に変える標準的な対応。
流れに沿って運ぶ
ベクトル場 は各点に速度を配ります。その速度に従って点を動かす写像の族が流れ 。
は微分同相なので、微分形式を引き戻せます。 での変化率をとったものがリー微分です[2,3]。
テンソル場ならどの型でも定義できます。形式に限りません。
四角は形を変えますが、この流れでは面積が変わりません。横の伸びと縦の縮みが打ち消し合うため。
面積が変わらない流れを、面積形式のリー微分が になる流れといいます。あとで発散として読み直します。
関数のリー微分は方向微分
形式すなわち関数では、 です[3]。
流れに沿って の値がどう変わるかを見ているだけ。 の での値。
微分形式でも関数でも、定義は同じ 1 本の式です。型ごとに別の定義を置く必要がありません。
ベクトル場のリー微分はリー括弧
が成り立ちます。座標では
です[6]。 の微分だけでなく の微分も入るところが、方向微分との違い。
の微分が入るのは、比べる相手そのものを流れが動かしているためです。 と を比べるのに、後者を まで引き戻す必要がある。
例:リー括弧を座標で計算する
、 とします。
、 です。したがって 。
になりません。 の流れが の向きを変えていることの現れ。
流れが交換しない度合いを測る
は、2 つの流れが交換するかどうかを測ります。 に沿って 、 に沿って 、 に沿って 、 に沿って と動くと、出発点に戻らない[6]。
ずれは に比例します。2 次の量。
なら局所的に流れが交換し、 と を座標ベクトル場にとれる座標が存在します。
灰色が出発点、黒が 4 歩めの到着点です。同じだけ進んで同じだけ戻ったのに、位置がずれる。
ずれる向きが の向きです。括弧が でないとは、この四角が閉じないこと。
微分形式のリー微分
形式に対しては、引き戻しの微分として定義されます。値は次数を変えません。
は次数 の微分で、ライプニッツ則は符号なしです。
次数を変えないので、符号のずれが出ません[3]。
カルタンの公式
リー微分は、外微分と内部積で書けます。
これがカルタンの公式です[1,2]。魔法の公式とも呼ばれます。
次数を数えると納得しやすくなります。 が 、 が なので、どちらの順でも合計は 。
例:カルタンの公式を 形式で確かめる
、 とします。
なので です。 で、。
いっぽう流れは 方向の平行移動なので、 です。合いました。
公式の証明の筋
両辺とも次数 の微分で、 と交換します。この 2 つの性質を持つ作用素は、関数と での値で決まる。
関数では左辺が 、右辺が です。 では両辺とも 。
したがって全体で一致します。生成元での一致から全体の一致を出す、という型の議論[5]。
リー微分は と交換する
が成り立ちます。カルタンの公式に を入れれば出る。
で、 です。等しい。
のほうは と交換しません。交換しないずれがちょうど 、という読み方もできます。
と と のうち、微分形式の次数を変えないものはどれか。
- だけ
- だけ
- だけ
- 3 つとも変えない
共変微分との違い
は について 線型ではありません。 となり、余分な項が出る。
共変微分 は について線型です。この差が、リー微分では接続が要らない理由になっています。
リー微分は多様体の構造だけで定義でき、共変微分は接続という追加の構造を要ります。使える場面と払う代償が入れ替わる。
接続が要りません。 について 線型でなく、1 点の だけでは値が決まらない。
接続が要ります。 について 線型で、1 点の から値が決まる。
体積形式のリー微分は発散
を体積形式とすると、 が成り立ちます[5]。
カルタンの公式で なので、 です。 の外微分が発散の係数を出す。
発散を「流れによる体積の膨張率」と説明することがありますが、この式がその説明そのものになっています。
体積が増える流れと変わらない流れを、並べて描きます。

左は湧き出しがあり、右はありません。どちらも四角の形は変わりますが、面積が変わるのは左だけ。
ベクトル場から流れを作る
流れで体積形式を引き戻す
で微分して発散を得る
3 歩とも、リー微分の定義をそのままたどっただけです。発散という言葉を先に置かなくても出てくる。
例:湧き出しのある流れ
とします。原点から外向きに広がる流れ。
で、外微分は です。発散は 。
面積は 倍に増えます。さきに見た の流れとは対照的。
キリングベクトル場
計量 に対して となる をキリングベクトル場といいます[4]。
流れが等長変換になる、という意味です。長さを変えずに動かす向き。
座標では と書けます。キリング方程式。
例:平面の等長変換
平面では、平行移動 2 本と回転 1 本の計 3 本が独立なキリングベクトル場です。
次元の平坦な空間では 本になります[4]。 本の平行移動と 本の回転。
この本数が最大で、達するものを最大対称空間といいます。
例:球面の 3 本
では、3 つの座標軸まわりの回転が独立なキリングベクトル場です。 で上限に達している。
対称性が高い空間ほどキリング場が多くなります。逆に、一般の計量ではキリング場が 1 本もありません。
シュヴァルツシルト計量では 4 本あります。時間方向 1 本と、空間の回転 3 本[4]。










iX は −1、d は +1、LX は 0 です。カルタンの公式で +1 と −1 が組になって打ち消しています。