埋め込みとは何か|部分多様体・正則値定理・ホイットニーの定理
多様体の中に多様体が入っている、という状況を正確にすると 2 つの条件に分かれる。微分の階数という局所の条件と、像の位相という大域の条件である。
前者だけを課したのがはめ込み、両方を課したのが埋め込みで、埋め込みの像がちょうど部分多様体になる。この分かれ方が話の骨格である。
素直に入っているとは何か
の中の単位円を見る。円上の各点のまわりで座標を取り替えると、円が「 の部分」になるようにできる。
こういう座標が全点で取れることを「素直に入っている」の意味だと考える。これが部分多様体の定義になる。
一方、8 の字の形をした曲線では交点の近くで同じことができない。どう座標を取っても、交点のまわりは 1 本の直線に見えない。
ところが厄介なことに、交点がなくても素直に入らない例がある。原因が局所ではなく大域にある場合で、それを見分けるのが埋め込みの条件である。
微分の階数で見分ける
滑らかな写像 を考える。、 とし、各点 での微分 を見る。
これは線型写像なので、階数で分類できる。分類の名前は次のとおりである。
すべての で が単射。階数は で、 が必要になる。
すべての で が全射。階数は で、 が必要になる。
すべての で が同型。 の場合で、はめ込みかつ沈め込み。
はめ込みは「潰さない」写像、沈め込みは「余分を落とす」写像である。埋め込みはこの一覧に入らない。はめ込みに大域的な条件を足したもので、微分だけでは決まらないからである。
定数階数定理
局所の話は次の定理に集約される。以下すべての基礎になる。
が の近傍で階数 一定とする。このとき と のまわりの座標を適当に選べば、 は次の形になる。
証明は逆写像定理に帰着する。局所座標で 、 としてよい。
ヤコビ行列の階数が なので、変数と成分を並べ替えて左上の 小行列が正則としてよい。 と最初の 成分とそれ以外に分ける。
とおくと、 は正則である。逆写像定理から は の近くで微分同相になる。
とすると、定義から という形になる。ここで は最初の 変数である。
の階数も で一定である。ヤコビ行列を書くと左上が単位行列のブロック三角形になるので、階数が であることは と同値になる。
よって は だけの関数である。最後に終域で という座標変換を施せば、 の形になる。
はめ込みの局所標準形
階数は下半連続なので、 の階数が最大値 なら近傍でも である。したがってはめ込みは階数一定で、定数階数定理が使える。
を代入すると、局所的に次の形になる。
つまりはめ込みは、局所的には の への標準的な包含そのものである。
系として、はめ込みは各点の近傍に制限すれば単射になる。ただし大域的な単射性は従わない。局所と大域の差がここで生まれる。
もう 1 つの系として、はめ込みの像は局所的にはスライスの形をしている。この「局所的に」を「大域的に」へ上げられるかが、あとの主題になる。
沈め込みの局所標準形
沈め込みでも同じ議論が通る。階数は最大値 で一定なので、 として次を得る。
沈め込みは局所的には射影である。とくに開写像になる。
逆像の形も読み取れる。 は局所的に で定まる集合、すなわちスライスである。
これが次に述べる正則値定理の中身になる。部分多様体を作る道具はここから出てくる。
部分多様体の定義
を 次元多様体、 を部分集合とする。各点 に対して を含む座標近傍 で次を満たすものがあるとき、 を 次元部分多様体という。
このような をスライス座標という。 に部分空間位相を入れると、スライス座標の最初の 成分が の座標を与え、 は 次元多様体になる。
文献によっては、単射はめ込み の像に の位相を移したものをはめ込み部分多様体と呼ぶ。
この位相は部分空間位相と一致するとはかぎらない。以下で部分多様体といえば、上の定義(埋め込み部分多様体)を指す。
区別が必要なのは、あとで見る反例が「はめ込み部分多様体だが部分多様体でない」ものだからである。
正則値定理
を滑らかな写像とする。 が正則値であるとは、 のすべての点 で が全射であることをいう。逆像が空のときも正則値と呼ぶ。
定理として、 が正則値なら は の 次元部分多様体である。
証明は局所標準形から出る。 を取ると、 が全射なので階数は最大値 であり、下半連続性から の近傍で沈め込みになる。
沈め込みの局所標準形により、 と のまわりの座標を取り替えて を射影 の形にできる。 の座標は としてよい。
このとき次が成り立つ。
変数を並べ替えればスライス座標の形である。よって は 次元部分多様体になる。
接空間も同時に決まる。 内の曲線に沿って は定数なので であり、両者とも 次元だから等しい。
例として球面
を とする。微分は である。
なら で、 への線型写像として全射である。 の点はすべて なので、 は正則値になる。
したがって は の 次元部分多様体である。接空間は次のとおりで、位置ベクトルの直交補空間になる。
は正則値でない。 だからである。実際 は 次元ではない。
例として直交群
を扱う。 の終域を全行列にすると次元が合わないので、対称行列の空間 に取るのが要点である。
の次元は である。微分は積の微分から次のようになる。
で全射性を確かめる。 を任意に取り、 とおく。
と を使うと となり、全射である。
よって は正則値で、 は次元 の部分多様体になる。
接空間は 、つまり交代行列全体である。次元は で確かに一致する。
例として特殊線型群
を扱う。行列式の微分はヤコビの公式で与えられる。
なら である。 と取ると なので、 は零写像でない。
への零でない線型写像は全射なので、 は正則値である。よって は 次元の部分多様体になる。
接空間は 、トレースが の行列全体である。
正則値でないとどうなるか
とし、 を見る。原点を頂点とする 2 枚の円錐である。
微分は で、原点でだけ になる。したがって は正則値でない。
実際この集合は原点で部分多様体でない。原点の小さな近傍から原点を除くと、上下 2 つの連結成分に分かれる。
もし 2 次元部分多様体なら、十分小さい近傍は円板と同相で、中心を除いても連結なままのはずである。矛盾する。
原点を取り除けば は 2 次元部分多様体になる。壊れているのは 1 点だけである。
逆は成り立たない。 では は 軸で立派な部分多様体だが、 はその上で消えるので は正則値でない。
はめ込みの定義
が各点で 単射であるとき、 をはめ込みという。
局所標準形から、はめ込みは局所的には標準的な包含と区別がつかない。だから局所的には何の病理も起きない。
問題はすべて大域的に起こる。次の 3 つの例でそれを確かめる。
尖点ははめ込みでない
、 を考える。速度ベクトルは である。
で となるので は単射でない。よってはめ込みではない。
自身は単射である。 が単射だからである。連続でもあるが、像は で定まる尖点付きの曲線になる。
微分が消える点がたった 1 つあるだけで、像の滑らかさが壊れる。 に制限すればはめ込みになり、像もそこでは滑らかである。
単射性だけでは像がきれいにならない、という最初の例である。
埋め込みの定義
が埋め込みであるとは、 がはめ込みであり、かつ が同相写像であることをいう。ここで には からの部分空間位相を入れる。
同相を要求するので、埋め込みは単射である。しかし逆は成り立たない。単射なはめ込みでも埋め込みにならないことがある。
その差がどこにあるかを、次の 2 つの反例で見る。どちらも定義域がコンパクトでないことに注意しておく。
8 の字曲線
、 とする。速度ベクトルは次のようになる。
両成分が同時に になることはない。 となるのは だが、そこでは である。よってはめ込みである。
単射でもある。 が で成り立つのは か のときだが、後者だと となり、第 2 成分の一致から 、結局 になる。
像は 8 の字の形をしている。 のとき で、これは に等しい。
しかし埋め込みではない。像の中で のどんな近傍を取っても、 が に近い点だけでなく に近い点まで含んでしまうからである。
つまり逆写像が連続でない。定義域では遠く離れた点が、像の中では近づいている。
強調しておくと、 は単射なので像は「自己交差していない」。埋め込みでない原因は交差ではなく位相にある。
トーラス上の稠密な直線
もう 1 つの反例はさらに極端である。 とし、無理数 を固定する。
を で定める。速度ベクトルは常に なので、はめ込みである。
単射でもある。 なら と がともに整数になる。 とすると が有理数になって矛盾する。
ところが像は の中で稠密である。傾きが無理数なので、直線は閉じずに巻き続ける。
埋め込みでないことは 8 の字と同じ理由で従う。 の像における近傍には、 がいくらでも大きい の像が入るからである。
さらに像は部分多様体でもない。部分多様体は局所閉集合、つまり開集合と閉集合の交わりである。稠密な局所閉集合は開集合になってしまうが、この像は の中で開でない。
はめ込み部分多様体ではあるが部分多様体ではない、という状況の典型例である。
単射なはめ込み が埋め込みでないとき、必ず起きていることはどれか。
- の像が自己交差している
- が単射でない点がある
- 像への写像の逆が連続でない
- がコンパクトである
固有な単射はめ込みは埋め込み
反例はどちらも定義域が非コンパクトだった。実は適切な条件を足せば、単射はめ込みは埋め込みになる。
が固有であるとは、コンパクト集合の逆像がつねにコンパクトであることをいう。主張は、単射で固有なはめ込みは埋め込みである、というものである。
証明の核は、固有写像が閉写像だという事実にある。 を閉集合とし、 を の閉包の点とする。
は局所コンパクトなので、 のコンパクト近傍 が取れる。固有性から はコンパクトで、その閉部分集合 もコンパクトである。
連続像 はコンパクトで、 がハウスドルフなので閉集合である。
の内部は の近傍なので、 は の閉包に属する。この集合は に含まれ、後者は閉だから もそこに入る。
したがって となり、 は閉である。 は連続な単射で閉写像なので、像への写像は同相になる。
コンパクトなら単射だけでよい
系として、 がコンパクトなら単射はめ込みは自動的に埋め込みである。
コンパクト空間からの連続写像は固有だからである。実際 がコンパクトなら のハウスドルフ性から閉集合で、その逆像は の閉部分集合、つまりコンパクトになる。
直接示すこともできる。 はコンパクト空間からハウスドルフ空間への連続全単射なので、同相写像である。
この系のおかげで、コンパクト多様体を扱うときは単射性だけ確かめればよい。前の 2 つの反例がどちらも非コンパクトな定義域を持っていたのは偶然ではない。
埋め込みの像は部分多様体
ここまでの道具で、埋め込みと部分多様体が同じものだと分かる。
を埋め込みとすると、 は の 次元部分多様体であり、 は微分同相になる。
を取る。はめ込みの局所標準形から、 の近傍 と の座標近傍 があって、 が の座標でスライスの形になる。
ここまでは局所の話だけである。問題は が より大きいかもしれない点にある。
そこで埋め込みの条件を使う。 は像への同相なので は の開集合であり、 のある開集合 を用いて と書ける。
に制限すれば となり、これはスライスである。よってスライス座標が取れた。
逆に が部分多様体なら、包含写像 は埋め込みである。スライス座標で書けば、標準的な包含そのものだからである。
部分多様体の接空間
を部分多様体、 を包含とする。 は埋め込みなので は単射である。
そこで を像 と同一視し、 の 次元部分空間と見なす。以後この同一視のもとで話す。
スライス座標 を使うと、 は が張る部分空間である。
曲線の言葉で言えば、 の中を走る曲線の速度ベクトル全体が になる。正則値の逆像として得た場合は で、球面での がその例である。
法束
商空間 を法空間という。次元は である。
集めた は 上の階数 のベクトル束になる。局所自明化はスライス座標から作れる。 の像が各点で基底を与えるからである。
にリーマン計量が入っていれば、直交補空間として と実現できる。商として定義しておくと計量に依らないのが利点である。
球面 の法束は自明である。 が零点のない切断を与えるからである。
法束が自明でない例もあり、それが埋め込みの存在を妨げることがある。最後の節で を扱う。
管状近傍定理
をコンパクトな部分多様体とする。このとき法束の零切断のある近傍から における の近傍への微分同相があり、零切断が に対応する。
証明の骨格はこうである。 にリーマン計量を入れ、 に を対応させる写像を考える。
零切断上でこの写像の微分は同型なので、逆写像定理から各点の近くで微分同相である。コンパクト性から一様な半径が取れ、全体で微分同相になる。
意味するところは、部分多様体のまわりの形が法束だけで決まるということである。埋め込みの分類や特性類の議論は、この定理の上に載っている。
ホイットニーの定理
抽象的に定義された多様体が、いつもユークリッド空間の部分多様体として実現できるかを答えるのがホイットニーの定理である。多様体はハウスドルフかつ第二可算とする。
次元多様体は に閉部分集合として埋め込め、 にはめ込める。
なら に埋め込め、 なら にはめ込める。
埋め込みとはめ込みで必要な次元が 1 つずれている。埋め込みのほうが強い条件なので、余分に 1 次元要る、と読める。
第二可算性は落とせない。非可算個の連結成分を持つ多様体はどんな にも埋め込めないからである。
コンパクトな場合の証明の骨格
をコンパクトとして、まず「ある に埋め込める」を示す。
有限個の座標近傍 で を覆い、従属する 1 の分割 を取る。座標写像を とする。
写像 を考える。値域は である。
ははめ込みである。 なら各 となり、 なる について 、よって となる。
は単射でもある。 なら で、正になる を選べば が出る。
はコンパクトなので、前の系から は埋め込みである。あとは次元を下げる。
のとき、方向 への射影を合成しても埋め込みのままである、という を選ぶ。悪い は 2 種類ある。
単射性を壊す方向は から対角線を除いた集合(次元 )の像で、はめ込み性を壊す方向は単位接束(次元 )の像である。
ならサードの定理からどちらも測度零なので、良い が存在する。これを繰り返して まで下げられる。
から への最後の一段が難所で、自己交差を対にして消す「ホイットニーの技法」が必要になる。
2n は改善できるか
強い版の が一般に改善できないことを、いちばん小さい例で見る。 は に埋め込めない。
理由は法束にある。 の中のコンパクト曲面はアレクサンダー双対性から空間を分離し、分離する曲面は両側的、つまり法束が自明な直線束になる。
法束が自明なら、接束と合わせて の接束の制限が向きづけ可能になり、曲面自身も向きづけ可能でなければならない。 は向きづけ不可能なので矛盾する。
では 、 である。 に埋め込めないので、 をこれ以上下げられない。
はめ込みなら可能である。ボーイ曲面が の へのはめ込みを与える。 なので、はめ込み定理とちょうど整合している。
一般には、 が 2 の冪のとき が に埋め込めないことが知られる。その範囲で は最良である。
が 2 の冪でなければ改善できることもある。はめ込みについては、閉 次元多様体が にはめ込めるという定理がある。 は の 2 進表示に現れる 1 の個数で、マッセイが予想しコーエンが 1985 年に証明した。










はめ込みなので微分は各点で単射、単射なので像は自己交差しません。残るのは逆写像の連続性が壊れる場合だけです。M がコンパクトなら次節のとおり必ず埋め込みになります。