接ベクトルの引き算がなぜできないのか?そこで接続が要る
ではベクトル場を成分ごとに微分すれば済みます。ベクトルの引き算ができるのは、離れた点の接空間を同じものと見なせるため。
多様体では見なせません。点が違えば接空間も違い、引き算そのものが定義されない。
比べ方を外から与える構造が接続で、それを使った微分が共変微分です[2]。以下では公理から始め、クリストッフェル記号による表示、計量から接続がただ 1 つ決まる定理までを扱います。
方向微分が定義できない
ベクトル場 を の向きに微分したいとします。素直には
と書きたくなります。ところが分子の 2 つは別の接空間に住んでいて、引き算ができない。
座標をとって成分を微分する手はあります。しかし座標を変えると結果が変わり、幾何的な量になりません。
成分の微分では足りない例
平面を極座標で書き、 をとります。これは各点で外向きの単位ベクトル。
成分は で定数なので、成分を微分すれば です。ところが直交座標で書けば で、 方向に動けば向きが変わる。
同じ対象なのに答えが割れます。基底そのものが動いていることを、成分の微分が見落としている。
接続の公理
接続 とは、2 つのベクトル場から 1 つのベクトル場を作る対応 で、次を満たすものです[2]。
1 つ目と 3 つ目が非対称なところが要点です。 には関数がそのまま外へ出て、 には微分の項が付く。
この非対称のおかげで、 の値は の 1 点での値だけで決まります。 のほうは近傍での様子が要る。
クリストッフェル記号
局所座標で基底どうしの微分を書き出します。
この がクリストッフェル記号です[4]。基底ベクトルが動く速さを、基底で展開した係数。
一般のベクトル場では、ライプニッツ則から
が出ます。第 1 項が成分の微分、第 2 項が基底の動きの補正。
記号はテンソルではない
は座標変換で余分な二階微分の項を出します[4]。
第 2 項があるので、テンソルの変換則を満たしません。1 点で全部 にする座標がとれるのは、この項のおかげ。
いっぽう 2 つの接続の差はテンソルになります。第 2 項が引き算で消えるため[2]。
例:極座標のクリストッフェル記号
平面の極座標では 、 です。公式に入れると
が出て、残りは になります[4]。
平面は平坦なのに記号は ではありません。曲がっているのは空間ではなく座標のほう。
は、円周に沿って進むと外向き成分が内側へ引き戻されることを表しています。向心加速度に対応する項。
基底が回る様子を見る
極座標の基底ベクトルが、点を動かすとどう回るかを描きます。
成分 は変わらないのに、赤い矢印は向きを変え続けます。クリストッフェル記号が拾っているのはこの回転。
補正項がなければ、微分が という誤った答えになります。共変微分が「共変」と呼ばれるのは、座標を変えても答えが変わらないため。
接続はいくらでもある
公理を満たす は 1 つではありません。 を勝手に決めても、変換則さえ守れば接続になる。
2 つの接続の差はテンソルなので、接続の全体はアフィン空間の形をしています。原点のない空間で、どれか 1 つを選ぶと差がベクトル空間をなす。
1 の分割を使えば、任意の多様体に接続が存在します。凸結合で閉じる性質を使う構成[2]。
捩れを測る
接続から作れるテンソルの 1 つが捩れです。
これはテンソルになります。 を掛けたときの余分な項が、3 つの間で打ち消し合うため[6]。
座標基底では なので、成分は です。記号の反対称部分。
閉じない平行四辺形を絵にします。

実線が出発の 2 辺、破線が平行移動した 2 辺です。到着点が 2 つに分かれる。
レヴィ・チヴィタ接続では、この隙間が閉じます。捩れを に選んだのがその条件。
接続を 形式で書く
枠 をとると、 と書けます。 が接続形式。
座標基底をとれば です。クリストッフェル記号を 形式に束ねただけ。
枠をとり替えると、 は行列の共役に微分の項が足された形で変わります。テンソルでないことが、この変換則に出ている。
捩れの幾何的な意味
捩れが でないと、小さな平行四辺形が閉じません。 に沿って を平行移動したものと、 に沿って を平行移動したものが食い違う[6]。
ずれの向きが です。結晶のらせん転位に例えられることがあります。
平行移動で枠がねじれる、という現れ方もします。曲率とは別の効き方。
平行四辺形が閉じないことを測ります。接続の反対称部分から出る量。
一周して戻ったときのベクトルのずれを測ります。接続の微分から出る量。
計量との両立
計量 が与えられているとき、 を要求できます。書き下すと
です[1]。内積の微分にライプニッツ則が成り立つ、という形。
平行移動で長さと角度が保たれることと同値になります。ものさしが移動中に伸び縮みしない条件。
レヴィ・チヴィタ接続
捩れが で計量と両立する接続は、ただ 1 つ存在します[1,3,5]。これがリーマン幾何学の基本定理。
条件は 2 つ、決めるべき量は で 個です。数がちょうど釣り合っていて、一意に決まる。
存在と一意性を同時に示すのがコシュールの公式です。
コシュールの公式
右辺には が現れません[1]。したがって左辺が決まり、 が非退化なので が定まります。
導き方は、両立条件を 、、 を巡回させて 3 本書き、符号を付けて足すだけ。捩れが という条件で括弧の項を整理する。
クリストッフェル記号の公式
コシュールの公式に座標基底を入れると、括弧の項が消えて
捩れが という条件は、 と について対称であることに現れています。右辺は入れ替えても変わらない。
例:球面のクリストッフェル記号
単位球面に を入れます。 でない記号は
です[4]。
で が発散します。極で座標が壊れるためで、球面そのものは極でも滑らか。
例:計量から記号を作る手順
対角な計量 を考えます。
、 を使うと、、 のように書けます。
計量が定数なら、記号はすべて です。直交座標のユークリッド計量がその場合。
ある点でクリストッフェル記号をすべて にする座標がとれる。これはなにを意味するか。
- その点で曲率が である
- 記号がテンソルではない
- 接続が一意に決まらない
- 計量が定数である
テンソル場への拡張
はベクトル場に対して定めましたが、テンソル場全体へ一意に延びます。
関数には 、縮約と可換、テンソル積にライプニッツ則、という 3 つを要求すれば決まる。
形式では
になります。符号が引き算になるところが、上と下の添字の違い。
曲線に沿った共変微分
曲線 の上だけで定義されたベクトル場 も微分できます。 と書く。
座標では
です。 が曲線の外へ延びていなくても意味を持ちます。
となる が平行なベクトル場で、測地線は を満たす曲線。
例:球面の大円に沿って運ぶ
球面で、赤道に沿ってベクトルを平行移動します。接ベクトルを保つように運ぶ。
赤道は大円で、それ自身が測地線です。測地線に沿って運ぶかぎり、接方向との角度は変わりません。
緯線に沿って運ぶと事情が変わります。緯線は測地線でないので、運んだベクトルが回ってしまう。
例:測地線の方程式
曲線の速度ベクトルを、自分自身に沿って平行に保つ条件を書きます。
これが測地線の方程式です[4]。第 2 項がなければ等速直線運動の式。
平面の極座標で書けば と になります。曲がって見える式が、じつは直線を表している。
共変微分とリー微分の違い
どちらもベクトル場を微分しますが、要る構造が違います。リー微分は多様体の構造だけ、共変微分は接続が要る。
についての線型性も違います。 に対し、。
は だけで決まり、 は の近傍での様子が要ります。1 点で値を出せるかどうかが分かれ目。
例:平坦な空間で確かめる
直交座標のユークリッド空間では です。共変微分は成分の微分そのもの。
平行なベクトル場は成分が定数のもの、測地線は直線になります。習ってきた内容と一致する。
極座標に移しても、答えは同じ図形です。記号は でなくなりますが、補正項がちょうど座標の効果を打ち消す。










テンソルなら、1 点で成分が 0 ならどの座標でも 0 です。0 にできること自体が、変換則に二階微分の項が入っている証拠になります。