断面曲率とガウス曲率(驚異の定理とガウス・ボネの定理)
曲がり具合を数 1 つで言えるのは 2 次元までです。3 次元以上では、同じ点でもどの向きの面を見るかで値が変わります。
面を 1 枚選ぶと数が 1 つ決まる。その対応が断面曲率で、 次元まで落とせばガウス曲率と同じものになります。
まず曲面から
の中の曲面で、点 をとります。 での法線を含む平面で切ると、切り口は平面曲線になります。
その曲線の曲がり具合が法曲率です。切る向き を単位ベクトルで指定すると、値は の 2 次形式で書けます[1]。
は対称行列なので、単位円の上で最大値と最小値をとります。この 2 つが主曲率 で、 の固有値にあたります[1]。
ここから 2 つの量が作れます[1]。
和が平均曲率、積がガウス曲率です。平均曲率のほうは と定義する流儀もあります[1]。
薄い円が接触円で、切り口の曲線にいちばんよく寄り添う円です。半径が法曲率の逆数になります。
向きによっては上へ反り、別の向きでは下へ反ります。 と の符号が違えば、途中に法曲率 の向きが現れる。
主方向は直交する
は対称行列なので、固有ベクトルを直交するように選べます。 と に対応する 2 つの向きを主方向と呼びます。
主方向を座標軸にとると、法曲率の式が簡単になります。オイラーの公式と呼ばれる形です。
は第 1 主方向からの角です。最大と最小のあいだを、 と の重みで行き来します。
主曲率の符号が違えば、途中に となる向きが 2 つ現れます。その向きを漸近方向といい、そこでは切り口が直線に近づく。
点を 4 種類に分ける
ガウス曲率の符号で、点を分類できます。
球面はどこでも楕円的、円柱はどこでも放物的です。トーラスなら外側が楕円的、内側が双曲的、上下の縁が放物的になります。
同じ曲面の中で符号が変わりうる。だから曲率は点ごとの量として扱われます。
全曲率という量
を曲面全体で積分した値を全曲率と呼びます。この値が になるのは、曲面が平面の一部であるときに限られます[1]。
局所的な情報を足し上げると、大域的な性質が出てくる。あとで見るガウス・ボネの定理が、その仕組みを説明します。
驚異の定理
と は、外の空間を使って定義しました。法線がなければ法曲率も定義できません。
ところが積のほうは、曲面の内側だけで決まります。フランスの講義録は、 の曲面についてガウス曲率 が内在的であることを、ガウスの驚異の定理として述べています[2]。
内在的というのは、曲面の中で測れる長さだけから決まるということ。曲面を折り曲げても、伸ばさない限り は変わりません。
紙を丸めて円柱にしても、 は のままです。だから平面の地図をそのまま円柱に貼れます。球面はそうはいきません。
内側から測ってみる
内在的であることは、実際に内側から測れば確かめられます。単位球面の上で、測地線に沿って半径 の円を描きます。
この円を、頂角の半分が の円錐の上縁だと思うと、 で測った半径は 、球面上で測った半径は です[3]。
したがって円周は になります。 では なので、平面の より短い[3]。
長さしか測っていないのに、平面との違いが出ました。だから球面のどの部分も平面と等長にはなりません[3]。
円柱や円錐なら、この差が出ません。局所的に平面と等長なので です[3]。
高次元では面を指定する
次元以上になると、法線が 1 本に決まりません。かわりに、接空間の中で 次元の平面を選びます。
一次独立な が張る平面を とし、断面曲率を次で定めます[2]。
分子は曲率テンソルに を入れた値。分母は と が張る平行四辺形の面積の 2 乗です。
基底の選び方によらない
値が平面だけで決まることを確かめます。 と取り替え、 とします[2]。
曲率テンソルの対称性から、分子は 倍になります。分母の平行四辺形の面積の 2 乗も、同じ 倍。
割り算すると係数が消えます[2]。だから は、平面 だけで決まる量として過不足なく定まります。
分母で割っているのは、この打ち消しを起こすためです。正規化しないと、同じ平面に別の数が対応してしまいます。
情報は減っていない
添字のテンソルを、平面 1 枚あたりの数に落としました。情報が減っていそうに見えます。
減っていません。すべての 平面での が分かれば、 は完全に復元されます[2]。
理由は 2 次形式の性質です。 は と のそれぞれについて 2 次形式なので、 の対称性と極形式によって成分が取り出せます[2]。
つまり断面曲率は、曲率テンソルの言い換えにすぎません。読みやすい形に書き直しただけ。
2 次元では両者が一致する
次元では、接空間に 平面が 1 枚しかありません。だから断面曲率は点ごとに 1 つの数になります。
その値がガウス曲率です。成分で書くと、次の関係が成り立ちます[2]。
右辺の括弧は計量の行列式です。曲率テンソルの唯一の独立成分を、面積の 2 乗で割ればガウス曲率が出る。
高次元での断面曲率の定義が、まさにこの割り算をまねています。分母の平行四辺形の面積が、 に対応します。
球面と双曲平面で計算する
数を入れて確かめます。単位球面を球面座標でとると 、 です。
成分を計算すると が出ます[2]。さきほどの関係に入れると次のとおり。
が消えました。球面はどこでも同じだけ曲がっています。
上半平面に を入れると、、 となり [2]。
こちらも位置によらず一定です。上へ行くほど縮む計量なのに、曲がり具合はどこでも同じ。
ガウスの方程式
曲面が高次元の空間に入っているとき、内側の曲率と外側の曲率は第二基本形式で結ばれます[2]。
が外側の曲率、 が内側の曲率です。ガウスの方程式と呼ばれます。
外側が なら なので、左辺が消えます。残った式を整理すると、内側の曲率が第二基本形式だけで書ける。
次元の場合に書き下すと に帰着します[2]。驚異の定理が、この方程式の系として出てくる形です。
定曲率空間
どの点のどの平面でも が成り立つとき、曲率テンソルは計量だけで書けます[2]。
自由度が数 1 つに縮みます。完備で単連結なら、球面とユークリッド空間と双曲空間の 3 つしかありません[2]。
の符号だけで世界の形が決まる。断面曲率という 1 つの関数が、幾何をどれだけ強く縛るかが分かります。
三角形が語ること
内在的な曲率は、三角形の内角の和にも出ます。滑らかな境界をもつ領域について、ガウス・ボネの定理が次を言います[3]。
は境界の測地的曲率、 は角における外角です。境界が測地線でできた三角形なら、第 1 項が消えます。
外角を内角に直すと、内角の和が に曲率の積分を足したものになります。平面なら なのでちょうど 。
球面では なので、内角の和が を超えます。超えた量が、囲んだ面積に対応する。
大域版もあります。コンパクトな領域を多角形に分割し、面の数を 、辺を 、頂点を とすると、右辺が になります[3]。
右辺はオイラー標数です。左辺は曲率の積分。局所的に測った曲がりの総量が、位相だけで決まってしまいます。
球面なら なので、曲率の積分は 。どう変形しても、この値は動きません。










