比較定理は曲率の上下界から測地線や三角形の性質を導く。定曲率空間との比較により、曲率の効果を定量的に評価できる。
比較定理の思想
曲率に制限があるとき、測地線の振る舞いは定曲率空間(球面、ユークリッド空間、双曲空間)と比較できる。
正曲率では測地線は収束し、負曲率では発散する。これを定量化するのが比較定理である。
Rauchの比較定理
を断面曲率 (上界)を持つリーマン多様体、 を曲率 の定曲率空間とする。
をそれぞれ の測地線、 を対応する Jacobi 場で , を満たすとする。
共役点が現れるまでの範囲で
が成り立つ。曲率が小さいほど Jacobi 場は速く成長する。
曲率の下界の場合
(下界)ならば、逆向きの不等式
が共役点までの範囲で成り立つ。
Toponogovの比較定理
を断面曲率 を持つ完備リーマン多様体とする。 内の測地三角形 に対して、定曲率空間 内の比較三角形 を辺の長さが等しくなるように取る。
このとき、 の三角形の各角は対応する比較三角形の角以上である。
測地三角形
測地三角形とは、3点 とそれらを結ぶ最短測地線からなる図形である。
完備多様体では Hopf-Rinow の定理により最短測地線が存在する。
比較三角形
定曲率空間 で同じ辺長を持つ三角形を比較三角形という。
のとき 、 のとき 、 のとき である。
角度比較の意味
のとき、三角形は定曲率空間より「太っている」。正曲率では三角形の内角の和は より大きくなる。
のとき、三角形は定曲率空間より「痩せている」。
Alexandrov空間
Toponogov の比較定理を公理として採用した空間を Alexandrov 空間という。
曲率の下界を測地三角形の比較で定義し、リーマン多様体より広いクラスで幾何学を展開できる。
蝶番版
Toponogovの定理の蝶番版(hinge version)は次を述べる。
で 、蝶番 ( から への測地線と角度 )を考える。対応する比較蝶番での 間の距離を とすると、 が成り立つ。
応用:直径の評価
ならば、 の直径は 以下である。
これは球面の直径と一致し、Bonnet-Myers の定理の別証明を与える。
応用:体積比較
曲率の比較から体積の比較も導かれる。Bishop-Gromov の体積比較定理は、リッチ曲率の下界から測地球の体積を評価する。