第一基本形式と第二基本形式が分ける「中の幾何」と「外の形」
曲面には 2 通りの見方があります。面の上に住む人が測れる量と、外から眺めて分かる量。
前者を書き留めるのが第一基本形式、後者を書き留めるのが第二基本形式です[1,2]。名前は似ていますが、担当している範囲が違います。
以下では 2 つを定義から書き下し、長さと面積が第一基本形式だけで決まること、曲がり方は第二基本形式が持つことを確かめ、両者を結ぶガウスの方程式まで進みます。
曲面をパラメータで書く
曲面を と表します。 と を動かすと の中に面が描かれる。
接平面は と が張ります。この 2 本が一次独立であることを、正則なパラメータ表示の条件として課す。
以下では を仮定します。潰れた点は扱いません。
第一基本形式
接ベクトルどうしの内積を、パラメータの言葉で書きます。
これが第一基本形式です。 の内積を接平面に制限したもの。
長さを測る
曲面上の曲線 の長さは
です[5]。、、 だけで書けている。
曲面がどう置かれているかは要りません。面の中の情報だけで長さが決まる。
角度と面積も決まる
2 本の接ベクトルのなす角は、内積を長さで割れば出ます。第一基本形式があれば計算できる。
面積要素は
です[1,3]。 の長さを、ラグランジュの恒等式で書き直した形。
は、2 本の接ベクトルが平行でないことと同値です。
内在的とは何か
面の上に住む人が測れる量を内在的といいます。長さ、角度、面積、測地線。
第一基本形式はこの全部を決めます。したがって内在的な幾何は、、、 にすべて入っている[1]。
外から見た形は入りません。同じ第一基本形式を持つ 2 つの曲面が、空間の中では違う形をしていることがある。
例:平面と円柱
平面を と書けば 、 です。
円柱を と書いても 、。同じ第一基本形式になります[1]。
紙を丸めても、紙の上に描いた図形の長さと角度は変わりません。局所的に等長。
例:球面
半径 の球面を と書きます。
、、 です[3]。面積要素は 。
積分すれば になります。第一基本形式だけから球の表面積が出る。
例:回転面
平面の曲線 を 軸まわりに回します。。
、、 です。母線を弧長でとれば 。
は、緯線と経線が直交することを意味します。回転面の便利なところ。
単位法ベクトル
外から見る量を書くには、面の向きを決める必要があります。
が単位法ベクトルです[2]。パラメータの向きを変えると符号が変わる。
を選んだ時点で、内在的でない情報が入ります。面の外の方向を指しているため。
第二基本形式
と 2 階微分の内積をとります。
とおき、 とする[2]。これが第二基本形式です。
面が接平面からどれだけ離れていくかを測ります。 階の項なので、離れ方の主要部。
接平面からのずれを測る
点 で接平面をとり、そこからの高さを測ります。テイラー展開すると
の形になります。第二基本形式が高さの 次の項そのもの。
が正定値なら、面は接平面の片側にあります。不定符号なら、両側にまたがる。
2 本の曲線が同じ側へ曲がっていれば、面は接平面の片側にあります。反対側へ割れれば鞍。
この符号の情報が第二基本形式に入っています。第一基本形式には入っていません。
ガウス写像
各点にその点の単位法ベクトルを対応させる写像 をガウス写像といいます[4]。
面が平らなら は動きません。曲がっているほど、 が球面の上を大きく動く。
曲がり具合を「法線の動き」として測る、という発想です。
ガウス写像の像で曲率を測る
面の上を歩くと、法線が球面の上を動きます。動く速さが曲がり具合。
面が平らな部分では、右の点がほとんど動きません。曲がりの強いところで速く動く。
ガウス曲率は、この写像のヤコビ行列式です[4]。面の小さな領域が、球面の上でどれだけの面積に化けるか。
形状作用素
ガウス写像の微分を と書き、形状作用素またはワインガルテン写像といいます。
接平面から接平面への線型写像です。 が単位ベクトルなので、 は接平面に値をとる。
第二基本形式との関係は
です[2]。第二基本形式を、計量で 型に直したものが 。
面の中で測れる量。長さ、角度、面積、測地線を決めます。 の内積を制限したもの。
外から見た曲がり方。接平面からの離れ方を測ります。法ベクトルを選ばないと書けません。
法曲率
接方向 を選び、その方向の法曲率を
で定めます。 と が張る平面で切った断面の曲率。
分母で割るのは、 の長さに依らない量にするため。方向だけで決まります。
形状作用素の言葉では です。レイリー商の形。
例:球面の 2 つの形式
半径 の球面で を内向きにとると、、、 です。
第一基本形式と見比べると になっています。比が定数。
したがって法曲率はどの方向でも です。球面がどの方向にも同じだけ曲がっていること。
例:平面
平面では が定ベクトルなので、 などとの内積が です。。
第二基本形式が恒等的に になります。接平面から離れない。
第一基本形式は ではありません。長さも角度も測れる。2 つの形式が独立であることの分かりやすい例。
例:円柱
で ととります。
、 です。 方向には曲がり、 方向にはまっすぐ。
第一基本形式は平面と同じでした。第二基本形式だけが違う。外から見た形が違うのに、中の幾何は同じ。
平面と円柱について、正しいものはどれか。
- 第一基本形式も第二基本形式も一致する
- 第一基本形式は一致し、第二基本形式は違う
- 第一基本形式は違い、第二基本形式は一致する
- どちらも一致しない
3 つの形を並べる
第二基本形式の符号で、面の形が 3 通りに分かれます。

左は接平面の片側だけ、右は両側にまたがります。真ん中はその境目。
分類は第二基本形式の固有値の符号で決まります。第一基本形式は関与しません。
例:鞍型曲面
を原点で見ます。 で、、、。
第二基本形式は で、符号が割れます。双曲点。
方向には上へ、 方向には下へ曲がる。馬の鞍の形。
例:懸垂面
をとります。石鹸膜が作る形。
計算すると 、、 で、、。
第二基本形式の対角成分が符号違いで同じ大きさです。曲がり方が 2 方向で釣り合っている。
コダッチの方程式
ガウスの方程式のほかに、もう 1 本の関係式があります。第二基本形式の微分についての条件。
がコダッチの方程式です。 の中の曲面では、この形になります。
2 本の形式を勝手に置いてよいわけではありません。この 2 本の方程式が両立の条件。
高次元への一般化
の曲面に限らず、リーマン多様体の部分多様体でも同じ枠組みが使えます。
第二基本形式は、法束に値をとる対称な 型テンソルになります。法方向が 次元でないので、値がベクトルになる。
余次元 なら法方向が 1 本なので、スカラー値に戻ります。曲面の話が特別に簡単なのはこのため。
ガウスの方程式
2 つの形式は独立ではありません。曲面のリーマン曲率テンソルが
と書けます[2]。左辺は第一基本形式だけから決まる量、右辺は第二基本形式だけの式。
次元ではこの式が にまとまります。第二基本形式で書いた量が、じつは内在的。
驚異の定理
ガウス曲率が第一基本形式だけで決まる、というのが驚異の定理です[6]。
定義には が要ります。ところが結果は、面の中の測定だけで決まる。
平面と円柱がどちらも なのは、この定理と整合しています。等長な面は同じガウス曲率を持つ。
例:地図が作れない理由
球面は 、平面は です。等長な写像は存在しません[6]。
したがって地球の地図には、必ず長さか角度か面積のどれかの歪みが出ます。どの図法も何かを諦めている。
紙を球面に貼ろうとすると皺が寄るのも同じ理由。
例:ピザを折る
ピザの一切れを横に折ると、先が垂れなくなります。
折り目の方向に曲率が入ったので、 を保つには直交方向の曲率が でなければならない。垂れる自由が奪われます。
驚異の定理が台所で効いている例[6]。
曲面論の基本定理
第一基本形式と第二基本形式が、ガウスの方程式とコダッチの方程式を満たしていれば、その 2 つを持つ曲面が存在します。
しかも の合同変換を除いて一意です。2 つの形式が曲面を決める、という主張。
曲線の曲率と捩率が曲線を決めることの、次元を 1 つ上げた形になります。










紙を丸めても長さと角度が変わらないので、第一基本形式は同じです。曲がり方は変わるので、第二基本形式は違います。