主曲率とは〜曲面の曲がり方を 2 つの数で言い表す
曲面の曲がり方は、方向によって違います。円柱なら、輪の向きには曲がっていて、軸の向きにはまっすぐ。
方向ごとの曲がり方を全部並べても扱いにくいので、最大と最小の 2 つだけをとり出します。これが主曲率で、ほかの方向はこの 2 つから決まる[1]。
以下では法曲率の定義から主曲率をとり出し、オイラーの公式で全方向が復元されることを見て、積と平均が担う役割の違いまで扱います。
法曲率をおさらいする
点 と接方向 をとり、 と法ベクトル が張る平面で曲面を切ります。切り口は曲線になる。
その曲線の曲率に、 側へ曲がるなら正、逆なら負の符号を付けたものが法曲率 です。
式では
と書けます。 の長さに依らず、方向だけで決まる量。
主曲率の定義
を接平面の単位円上で動かすと、 が連続に変わります。円はコンパクトなので、最大と最小が存在する。
この最大値 と最小値 を主曲率といいます[1]。
形状作用素 の言葉では、 を単位ベクトルで最大化する問題です。対称作用素の固有値問題そのもの。
主曲率は固有値である
は第一基本形式について対称なので、実固有値を持ち、固有ベクトルが直交します。
なら主方向は直交する 2 本に決まります。オイラーが 1760 年に示した事実。
オイラーの公式
主方向から角 だけ回った方向の法曲率は
です[4]。2 つの主曲率の重み付き平均。
で 、 で 。あいだは滑らかにつながります。
全方向の情報が 2 つの数に畳まれる、というのがこの公式の中身。
方向を回すと曲がり方が変わる
単位円上で方向を回し、法曲率がどう変わるかを描きます。
方向が回ると、右の切り口が上へ凸から下へ凸まで変わります。途中で直線になる瞬間がある。
その瞬間が漸近方向です。 になる向きで、双曲点にだけ現れます。
ガウス曲率
主曲率の積をガウス曲率といいます。
形状作用素の行列式です[3]。
驚異の定理により、 は第一基本形式だけで決まります。定義には法ベクトルが要るのに、結果は面の中の量。
平均曲率
主曲率の平均を平均曲率といいます。
こちらは内在的ではありません。法ベクトルの向きを裏返すと符号が変わる。
主曲率の積。内在的で、面の中の測定だけで決まります。向きを裏返しても符号が変わらない。
主曲率の平均。外在的で、空間への入り方に依存します。向きを裏返すと符号が変わる。
積と平均で符号の振る舞いが違う
を にとり替えると、 と の符号が両方とも反転します。
積は符号が 2 回変わって元に戻り、平均は符号が変わる。この違いが内在性の違いに直結しています。
平面と円柱がどちらも なのに、 は と で違う。第一基本形式が同じでも は一致しません。
点の分類
主曲率の符号で、点が 4 通りに分かれます。
。主曲率が同じ符号で、面は接平面の片側にあります。球面の点が典型。
。主曲率の符号が割れ、面は接平面の両側にまたがります。鞍点。
で、片方の主曲率だけが 。円柱の点がこれにあたります。
。すべての方向が主方向になり、主方向が定まりません。
臍点では法曲率がどの方向でも同じです。球面はすべての点が臍点[1]。
例:球面
半径 の球面で を内向きにとると、 です。
、。どちらも正で、どの点でも同じ値。
半径が大きいほど平らになります。地球の表面が身近な範囲では平らに見えること。
例:円柱面
半径 の円柱では 、 です。
、。ガウス曲率だけが平面と一致します。
紙を丸めても が変わらないのは驚異の定理どおり。 は変わるので、外から見た形は違う。
例:鞍型曲面
の原点では 、 です。
で双曲点、。平均曲率が になる点。
が負なら、その点で三角形の内角の和は より小さくなります。曲率が幾何を決める。
例:トーラス
トーラスには 3 種類の点が全部あります。外側は 、内側は 、上下の輪の上で [3]。
外側は球面のように膨らみ、内側は鞍のようにくびれています。
全体で積分すると になります。正の部分と負の部分がちょうど打ち消し合う。
平面と円柱について、一致するのはどれか。
- ガウス曲率も平均曲率も一致する
- ガウス曲率だけ一致する
- 平均曲率だけ一致する
- どちらも一致しない
曲率線
主方向に沿った曲線を曲率線といいます。臍点を除けば、2 つの直交する族ができます[1]。
回転面では、緯線と経線がそのまま曲率線になります。対称性のおかげ。
臍点のまわりでは曲率線の様子が特異になり、星形やレモン形と呼ばれる配置が現れます。
デュパンの指標曲線
接平面の上で を満たす点を集めた図形を、デュパンの指標曲線といいます。
楕円点では楕円、双曲点では 2 組の双曲線、放物点では 2 本の平行線になります。主軸の向きが主方向。
第二基本形式の符号の様子を、そのまま図形にしたもの。分類の名前もここから来ています。

主軸の向きが主方向で、軸の長さが主曲率の大きさから決まります。図形の種類が点の分類そのもの。
例:回転面の主曲率
母線を弧長 でとり、 と書きます。
経線方向の主曲率は母線そのものの曲率、緯線方向は になります。 なので、緯線と経線がそのまま主方向。
です。第一基本形式だけで書けていて、驚異の定理と整合しています。
例:楕円面の主曲率
を考えます。 なら、主曲率は場所によって変わる。
軸との交点では、 断面と 断面の曲率が主曲率です。 と が違うので、。
の球面に近づけると、すべての点が臍点になります。楕円面には臍点が 4 つだけある。
例:三角形の内角の和
ガウス曲率が正の面では、測地三角形の内角の和が より大きくなります。負なら小さい。
球面の三角形で、北極と赤道上の 2 点を結ぶものを考える。直角が 3 つで和は 。
超過分は囲む面積に曲率を掛けたものです。ガウス・ボネの定理の局所版が言っていること[3]。
平均曲率と面積の変分
曲面を法方向へ だけずらすと、面積の 1 次の変化は
したがって は、面積が臨界であることと同値です。極小曲面の定義。
にはこういう変分の意味がありません。役割がはっきり分かれている。
極小曲面
の曲面を極小曲面といいます[5]。
は を意味するので、 です。極小曲面はどこでも 。
すべての点が鞍点になります。どちらの方向にも同じだけ、逆向きに曲がっている。
石鹸膜が極小曲面になる理由
石鹸膜は表面張力で面積を最小にしようとします。境界を固定したまま面積が臨界になる形。
したがって を満たします[5]。針金の枠に張った膜が数学の対象になる場面。
境界を与えて極小曲面を見つける問題をプラトー問題といいます。
例:懸垂面と常螺旋面
懸垂線を回転させた懸垂面は、回転面のなかで唯一の極小曲面です[5]。
常螺旋面も極小曲面で、懸垂面と局所的に等長になります。連続的に変形して移り合う族がある。
平面も極小曲面です。 なので自明に 。
懸垂面から常螺旋面へ
この 2 つは連続な族でつながっています。曲げるだけで移り合う。
途中の形もすべて極小曲面です。族のどのメンバーでも 。
長さを変えずに変形しているので、第一基本形式も変わりません。等長でありながら空間の中での形が違う例[5]。
石鹸の泡は極小曲面ではない
石鹸膜と石鹸の泡は違います。泡には内側の圧力があり、面積だけを最小にはしません。
ヤング・ラプラスの法則により、圧力差が に等しくなります[2]。 が定数になる曲面。
球面は が一定の曲面です。小さい泡ほど が大きく、内圧が高い。
平均曲率流
曲面を の向きへ動かす流れを平均曲率流といいます。熱方程式に似た形の発展方程式[2]。
面積が減る向きへ動くので、しわを均す働きをします。特異点を作って潰れることもある。
の曲面はこの流れの定常解です。動かない形。










K はどちらも 0 です。H は平面が 0、円柱が 1/(2r) で違います。K が内在的、H が外在的であることの現れ。