ガウス・ボネの定理 - 曲がり具合を全部足すと穴の数が出てくる
曲面をどう変形しても、ガウス曲率を全体で積分した値が変わりません。膨らませても凹ませても、増えたぶんと減ったぶんが釣り合う。
積分の値を決めているのは形ではなく、穴の数です。曲率という測定の量が、位相という数え上げの量に一致する[1]。
以下では境界のある領域についての局所版から始め、境界項と角の項の意味を確かめ、大域版とオイラー標数の対応、高次元への一般化まで扱います。
測地曲率
曲面上の曲線がどれだけ曲がっているかは、2 つに分けて測ります。
空間の中での曲率 を、曲面に接する成分 と法方向の成分 に分解する。
の関係があります[6]。 が測地曲率で、面の中で曲がっているぶん。
測地線は
測地曲率が の曲線が測地線です。面の中ではまっすぐ進んでいる。
空間の中では曲がって見えます。曲がっているのは面のほうで、曲線ではありません。
球面の大円は 、緯線は です。緯線は面の中で曲がっている[6]。
測地曲率は内在的
は第一基本形式だけで決まります。面の中に住む人が測れる量。
のほうは外在的です。法ベクトルを使うため。
ガウス・ボネの定理に現れるのは と で、どちらも内在的です。定理の主張が面の中で完結している。
局所版
曲面上の領域 を、区分的に滑らかな曲線で囲みます。角が 個あるとする。
右辺が で固定されているところが要点です。左辺の 3 つが、どう配分されるかだけが変わる。
3 つの項の役割
面の曲がり、境界の曲がり、角の折れ。3 通りの「曲がり」を全部足すと、いつでも 。
面の内部で曲がるぶん
境界が面の中で曲がるぶん
角で折れるぶん
平面の円板なら 、、角なし。境界の長さが なので、積分がちょうど になります。
例:平面の多角形
平面の 角形をとります。、辺は直線なので 。
残るのは外角の和だけで、 になります。多角形の外角の和が 度、という中学校の事実。
内角に直せば です。同じことを言い換えただけ。
例:測地三角形の内角の和
3 辺が測地線の三角形をとると、 です。外角の和は から内角の和を引いたもの。
が出ます[5]。内角の和が からどれだけずれるかが、囲んだ曲率の総量。
平面なら で 。球面なら正、双曲面なら負にずれます。
曲率が内角の和を動かす
3 つの曲率で、測地三角形の形がどう変わるかを描きます。
辺が外へ膨らむと内角の和が増え、内へ凹むと減ります。ずれた分がちょうど囲んだ曲率。
三角形を小さくすれば、ずれも小さくなります。面積に比例するため。
例:球面の三角形
単位球面で、北極と赤道上の 2 点を結ぶ三角形をとります。赤道上の 2 点を 度離す。
3 つの角がすべて直角なので、内角の和は です。 より だけ大きい。
面積は球面の で 、曲率は なので 。ぴったり合います[5]。
大域版
境界のない閉曲面では、境界項も角の項も消えます。
が成り立ちます[1]。 はオイラー標数。
左辺は計量に依存する量、右辺は位相だけで決まる量です。等式が成り立つこと自体が驚きの部分。
オイラー標数
多面体では です。頂点、辺、面の数から出る[4]。
閉じた向き付け可能な曲面では、種数 を使って と書けます。 は穴の数。
| 球面 | χ = 2、種数 0 |
| トーラス | χ = 0、種数 1 |
| 2 人乗り浮き輪 | χ = -2、種数 2 |
| 円板 | χ = 1、境界あり |
| クラインの壺 | χ = 0、向き付け不可能 |
は位相不変量です。連続に変形しても変わりません[4]。
例:球面で確かめる
半径 の球面では 、面積は です。
積分すると になります。 で一致する。
半径を変えても値が変わりません。曲率が小さくなるぶん、面積が増えて釣り合う。
例:トーラスで確かめる
トーラスは なので、 でなければなりません。
外側は 、内側は です。両者がちょうど打ち消し合う[3]。
どんな形のトーラスでも同じです。細くしても太くしても、積分は のまま。
種数 の閉曲面について、 の値はどれか。
- 曲面の形による
位相的な帰結
の曲面には、 の計量が入りません。積分が負でなければならないため。
種数 以上の曲面には、至るところ の計量が入ります。双曲幾何が載る。
逆に の閉曲面は球面と射影平面だけで、どちらも正曲率の計量を持ちます。曲率の符号と位相の対応。
局所の測定。膨らみやくぼみの様子が、点ごとの に出ます。
積分した総量。個々の をどう配分しても、合計は動きません。
変形しても総量が変わらない
球面にこぶを作ると、こぶの頂上で が増え、根元で が減ります。
積分すれば増減が消えて のまま[5]。局所は自由に動かせるが、総量は固定されている。
配分だけが自由で総量が縛られている、という構図。保存則に似た形をしています。
こぶを作っても総量が動かない
球面にこぶを作り、曲率の分布と総量を並べて見ます。
こぶの頂上では曲率が上がり、根元のくびれでは下がります。赤い区間が動いている場所。
積分すると、どの時点でも です。位相が変わっていないため。
曲率を集中させる
多面体は曲率が頂点に集中した曲面と見なせます。頂点まわりの角の欠損が、そこでの曲率。
立方体なら、各頂点の欠損が で頂点が 8 個です。合計 になり、球面と同じ[1]。
離散版のガウス・ボネの定理が、この形で成り立ちます。オイラーの多面体定理を曲率の言葉で言い直したもの。

平らに切り開くと、 に足りません。この欠損が、その頂点に集まった曲率。
正多面体でも一般の多面体でも、欠損を全部足せば になります。球面と同じ位相だから。
例:立方体で数える
立方体の各頂点には正方形が 3 枚集まります。角の和は 。
に足りないぶんが です。これが頂点の曲率。
8 つ足すと で、 に一致します。。
高次元への一般化
偶数次元の閉多様体では、曲率形式から作ったオイラー形式の積分が を与えます[2]。
はパフィアンです。 次元では に戻ります。
奇数次元では なので、対応する定理がありません[2]。
指数定理との関係
チャーン・ガウス・ボネの定理は、アティヤ・シンガーの指数定理の特別な場合です[2]。
楕円型作用素の解析的な指数が、特性類の積分という位相的な量に等しくなる、という枠組み。ガウス・ボネはその最初の例。
局所の計算から大域の不変量が出る、という型の定理の原型になっています。












χ=2−2g=−2 なので、2πχ=−4π です。形には依りません。