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等温座標のとり方とメルカトル図法|曲面の共形幾何

どんな曲面にも、角度だけは変えない座標が局所的にとれます。長さは伸び縮みしますが、交わる 2 曲線のなす角は保たれる。

そういう座標では、計量がユークリッド計量の関数倍という形に落ちます。等温座標と呼ばれるものです。

定義

局所座標 が次の形の計量を与えるとき、等温座標といいます[1]

を共形因子と呼びます[1]。座標面の直交格子が、点ごとに 倍だけ引き伸ばされた形で曲面に写ります。

行列で書くと、計量の成分が単位行列の定数倍になります[2]

対角であること、つまり座標曲線が直交すること。そして 2 つの対角成分が等しいこと。この 2 つがそろった状態です。

角度を保つとはどういうことか

なぜこの形が角度と結びつくのか。写像 について、次の同値が成り立ちます[2]

内積が定数倍になるだけなら、 の分子と分母で が打ち消し合います。だから角度が変わらない[2]

長さのほうは 倍になります。伸び縮みは起きるけれど、その伸び方がどの向きでも同じ。だから小さな円は小さな円のまま写ります。

格子を等角写像で送っています。線は曲がり、間隔も変わりますが、交点はどこも直角のまま。

必ず存在する

驚くのは、こうした座標がいつでもとれるという点です。コルンとリヒテンシュタインの定理が保証します[1]

滑らかな正則曲面のどの点のまわりにも、等温座標が存在します[1][2]。曲面の側に条件は要りません。

歴史をたどると、解析的な計量の場合はガウスが扱っています。フランスの本は、等温座標の定理をガウスの扱った解析的な場合に限って紹介したうえで、アールフォルスとベルスが可測な場合まで証明したと述べています[3]

つまり定理の射程が、100 年以上かけて広がってきました。滑らかさの仮定をどこまで落とせるか、という形で研究が進んだ経緯です。

曲率が 1 行で出る

等温座標のいちばんの利点が、曲率の式の短さです[1]

は座標面での普通のラプラシアン です[1]

クリストッフェル記号を計算する必要がありません。共形因子の対数をとってラプラシアンをかけ、 で割るだけ。

3 つの模型が、 の選び方だけで出てきます。式を 1 本計算するだけで曲率が確かめられる。

双曲平面で確かめる

上半平面に を入れます。これはすでに等温座標の形です。

なので 。ラプラシアンをかけると次のようになります。

公式に入れると です。数行で終わりました。

メルカトル図法は等温座標

球面にも等温座標が入ります。しかも見慣れた形で。

単位球面の計量を とします。 は北極からの角、 は経度。ここで新しい座標 を、 で定めます。

積分すると です。この と経度 を使うと、計量が次の形になります。

等温座標が出ました。しかもこの座標変換は、メルカトル図法そのものです。

共形因子も書き下せます。 から となるので、

曲率を確かめます。 なので 、したがって です。

左の球面の緯線が、右の地図では水平な直線に写ります。極に近づくほど拡大率が跳ね上がる。

グリーンランドが大きく見える理由がこれです。角度を保つかわりに、面積を捨てている。

面積は保たれない

角度を保つ座標がいつでもとれる、と聞くと万能に思えます。捨てているものもあります。

保たれるのは角度だけで、面積も長さも変わります。共形因子 が場所によって違うためです。

球面を平面に写す地図で、面積を保つものも作れます。ただしそのとき角度は保てません。球面が平坦でない以上、両方を同時に満たす地図は存在しない。

角度と面積のどちらを取るか。等温座標は角度を取った側の選択です。

直交だけでは足りない

定義の 2 条件を分けて考えます。 は座標曲線が直交すること、 は 2 方向の伸び率が等しいことです。

直交座標なら簡単に作れます。曲線族を 1 つとり、その直交曲線族を引けばよい。極座標も球面座標も直交座標です。

難しいのは 2 番目です。伸び率をそろえるには、座標の刻み方を場所ごとに調整する必要があります。

メルカトル図法で と置いた操作が、まさにその調整です。緯度方向の刻みを、緯線の縮み方に合わせて伸ばしています。

立体射影でも入る

球面に等温座標を入れる方法は 1 つではありません。立体射影も等温座標を与えます[1]

南極を通る直線で平面へ落とす写像は、次の形で書けます[1]

こちらの共形因子は です。1 枚の地図で南極以外の全部を覆えます。

メルカトル図法と立体射影は、どちらも角度を保ちます。等温座標のとり方に自由度があることの表れです。

回転面での作り方

一般の曲面で等温座標を作る手順も見ておきます。回転面なら手で書けます[2]

という回転面を考えます。計量の成分は次のとおり[2]

すでに対角なので、あとは 2 つの成分を等しくするだけ。 を別の変数 に取り替えて、 の側で長さを合わせます[2]

の場合は、取り替えなしですでに等温です[2] となるためです。

一般の では、 となるように を定めます。1 変数の積分を 1 回やれば済む話です。

複素座標が入る

等温座標の重みは、複素解析とのつながりにあります。

2 枚の等温座標が重なる領域を考えます。両方とも角度を保つので、座標変換は角度を保つ写像です[1]

平面の間の角度を保つ写像は、正則関数か反正則関数に限られます。向きをそろえれば正則。

つまり と置くと、地図帳の座標変換がすべて正則になります。リーマン面の定義そのものです。

どんなリーマン計量の入った向き付け可能な曲面も、リーマン面になる。幾何の対象が、複素解析の対象に化けます。

ラプラシアンとディリクレ積分

等温座標では、解析の道具も簡単な形になります[1]

面積要素は 、勾配の長さの 2 乗は です[1]

掛け合わせると が消えます。だからディリクレ積分は共形変換で不変です[1]

調和関数という概念も、共形因子によりません[1]。曲面の計量をどう取り替えても、共形類が同じなら調和性は変わらない。

2 次元でだけ起きる現象です。高い次元では、この打ち消しが働きません。

一意化定理へ

等温座標は局所的な主張でした。大域ではどうなるか、という問いに答える定理が一意化定理です[1]

単連結なリーマン面は、円板か平面か球面のいずれかと共形同値になります[1]。ケーベの定理と呼ばれるものです。

位相的には円板であるものが、共形構造としては 2 種類しかない。球面には共形構造が 1 つしかありません[1]

局所的にはどこでも同じに見える等温座標が、大域では 3 つの型に分かれます。角度を保つという弱い条件から、これだけの分類が出る。

参考文献

Treibergs A. *Early Research Directions: Geometric Analysis I & II, Geometry of Surfaces*. University of Utah, 2010.
Baum H. *Minimalflächen und holomorphe Funktionen*. Sommerkurs, Humboldt-Universität zu Berlin, 2008.
Les amis de Saint-Gervais. *Uniformisation des surfaces de Riemann*. 2010.
どんな曲面にも、局所的には角度を保つ座標がとれます。計量がユークリッド計量の関数倍になる等温座標で、ガウス曲率が共形因子の対数のラプラシアン 1 本で書ける。メルカトル図法がまさにこの座標であること、立体射影という別の作り方、座標変換が正則になってリーマン面が現れる仕組み、そして一意化定理までをつなぎます。