ベクトル束の接続(接続形式・ゲージ変換・ホロノミー)
接続は接束に限った話ではありません。多様体の上に載ったベクトル束なら、どれでも同じ定義が通ります。
接束はその特別な場合です。一般の束で見ると、接束にだけある性質と、どの束でも成り立つ性質が分かれて見えてきます。
束と切断
ベクトル束 とは、 の各点にベクトル空間を 1 つずつ貼り付け、それらが局所的には積の形になっているものです。
各点に元を 1 つずつ、なめらかに選んだものが切断です。全体を と書きます。
接束 はその例で、切断がベクトル場にあたります。ほかにも余接束、テンソル束、複素直線束など、いくらでも例があります。
切断を微分したいのは自然な要求です。ところが接束のときと同じ問題が起きます。異なる点のファイバーは別々のベクトル空間なので、そのままでは差がとれません。
定義は 2 行
接続とは、ベクトル場と切断を受け取って切断を返す写像です。要求は 2 つ。
接束のときと同じ形です。違いは、微分される対象が接ベクトルでなく束の切断だという点だけ。
局所枠 をとると、成分で書けます。接束の枠 もとると、次の形になります[1]。
の添字のうち、ローマ字は「どの方向へ微分するか」、ギリシャ文字は「束のどの成分か」を指します[1]。接束では両者が同じ役割になるので、この区別が見えにくくなります。
縦線がファイバーです。底の点が動くとき、隣のファイバーのどの元へ対応させるか。その規約が接続です。
枠を取り替えると余りが出る
局所枠は 1 通りではありません。行列 で枠を取り替えると、成分は に変わります[2]。
接続の係数行列 の変わり方は、これと違います[2]。
第 2 項が素直な共役です。余計なのは第 1 項の で、枠の回り方そのものが入り込みます。
だから はテンソルではありません。枠を選ばないと書けない量で、選び方によって値が変わります。
この余りがあるおかげで、 という組み合わせがきちんと変換します[2]。 側に出る余りと打ち消し合う、という仕掛け。
底に沿って枠を少しずつ回しています。束も接続もそのままなのに、係数だけが増減します。
物理では、この取り替えをゲージ変換と呼びます。 にあたる量がゲージ場です。
接続の差はテンソル
同じ束の上に接続は無数にあります。2 つの接続の差をとると、余りの項が打ち消し合います[2]。
は に値をもつ 1 形式になります[2]。枠によらない量、つまりテンソルです。
したがって接続の全体は、ベクトル空間ではなくアフィン空間の構造を持ちます。基準を 1 つ選べば、あとは差で測れる。
曲率
曲率の定義も接束のときと同じ形です[1]。
これは の切断になります[1]。 と については反対称な 2 形式、束の側については自己準同型。
外微分の言葉でも書けます。 は束に値をもつ形式の外微分 に延びますが、普通の外微分と違って は になりません[2]。
そのずれが曲率です。 階の作用素になるので、テンソルとして扱えます[2]。
局所枠で計算すると、短い式が出ます[2]。
導出も 3 行で済みます。 を展開すると が打ち消し合い、 だけが残る[2]。
曲率はテンソルになる
枠を取り替えたときのふるまいが、 とは違います[2]。
余分な項が出ません。単なる行列の共役なので、曲率は枠によらない量です。
が座標系のせいで生じる見かけの量を含むのに対し、 は本物の幾何を測る。この対比が、接束のときとまったく同じ形で現れます。
平坦とはなにか
自明な束 に、成分をそのまま微分する接続を入れると、 なので曲率も です[2]。
局所的に自明化できる接続も同じです。局所枠を選んで にできるなら、曲率は恒等的に になります[2]。
逆向きも成り立ちます。曲率が消えれば、各点のまわりで平行な枠が作れる。だから曲率は、局所的に自明化できるかどうかの障害です。
大域では話が変わります。曲率が でも、輪を一周すると枠が戻らないことがある。
輪を一周して戻ったとき、ファイバーの元は最初と同じにはなりません。生じた変換の全体をホロノミー群と呼びます。
平坦な束でも、底が単連結でなければホロノミーが残ります。局所的な平坦さと、大域的な自明性は別の話です。
平行移動で言いかえる
接続は、曲線に沿った運び方としても読めます。
底空間の曲線 に沿って、切断 が をみたすとき、 は平行だといいます。成分で書けば線形の常微分方程式です。
初期値を決めれば解が一意に定まります。始点のファイバーから終点のファイバーへの線形同型が、これで手に入る。
接束のときと同じ構図です。違うのはファイバーが接空間でなく、束が与える一般のベクトル空間だという点だけ。
計量的な接続なら、この同型が内積を保ちます。運んでも長さと角度が変わらない、ということ[1]。
捩れは接束だけの概念
一般の束で定義できない量もあります。捩れがそれです[1]。
この式には が出てきます。 をベクトル場としても切断としても読む必要があるので、 でなければ書けません[1]。
括弧積 も接束の構造です。だから捩れは、束が接束であることに強く依存した概念になります。
同じ理由で、曲率テンソルの対称性も減ります。一般の束では、最初の 2 つの引数についての反対称性しか成り立ちません[1]。
計量的な接続を入れると、束の側についての反対称性が足されます。捩れがなければ第一ビアンキ恒等式が加わり、レヴィ・チヴィタ接続ならすべての対称性がそろう[1]。
対称性の多さは、接束に特有の構造から来ていた。一般の束から眺めると、その事情がよく見えます。
計量と両立する接続
束に各ファイバーの内積 が入っているとき、次をみたす接続を計量的と呼びます[1]。
正規直交枠をとると、接続 1 形式が反対称になります[1]。
対角成分が消え、独立な成分の数がぐっと減ります。計算するときの手数が変わってくる部分です。
このとき曲率も、内積に関して歪対称な自己準同型に値をとります[1]。
作った束へ延ばす
の接続があれば、 から作った束にも接続が入ります。ライプニッツ則を要求するだけで決まります[1]。
同じ要領で、任意のテンソル冪にも延びます。 を と見れば、そこにも接続が入る[1]。
接束の場合に、1 形式やテンソル場を微分できたのと同じ仕組みです。特別なことは何もしていません。
どこで役に立つか
一般の束で接続を考える動機は、応用の側にもあります。
物理では、電磁場が複素直線束の接続として書けます。ゲージ場 が にあたり、場の強さ が曲率にあたる。ゲージ変換は枠の取り替えそのものです[2]。
が枠に依存し、 が依存しないという構図が、そのまま「ポテンシャルは測れず、場は測れる」という物理の事情になります。
複素幾何では、正則直線束の接続からチャーン類が出ます。数論的な文脈でも、束と接続の言葉が使われる。
接束は、多様体に最初からくっついている束です。そこだけを見ていると、接束特有の性質と一般の性質が混ざって見えます[3]。
一般の束へ持ち上げてみると、どれが本質でどれが偶然かが分かれます。捩れが接束にしかないこと、対称性の多くが計量とレヴィ・チヴィタ性から来ていること。接続という概念の輪郭が、そこではっきりします。
曲率から不変量へ
一般の束で接続を考える利点は、そこから位相的な不変量が作れる点にあります。
曲率は に値をもつ 2 形式でした。行列式や跡のような不変式を当てると、普通の微分形式が得られます。
できあがる形式は閉じていて、接続の選び方を変えても、コホモロジー類が変わりません。これがチャーン・ヴェイユ理論の筋道です[2]。
接続は選び方に自由度がありました。その自由度を消した先に、束そのものの不変量が残る。接束を離れて一般の束を考える理由が、ここにあります。









