曲率から特性類を作る(チャーン・ヴェイユ理論の入門)
接続を選ぶと曲率が決まります。ところが接続の選び方は無数にあり、曲率もそのぶん変わる。
それでも、曲率から作ったある種の量は、接続を変えても同じ値になります。この量が特性類で、束のねじれ具合を測る位相不変量[1]。
以下では不変多項式から出発し、曲率を代入した形式が閉じていること、コホモロジー類が接続に依らないことを確かめ、チャーン類とポントリャーギン類まで扱います。
束のねじれを数で測りたい
ベクトル束が自明かどうかを判定したいとします。自明なら大域的な枠がとれ、そうでなければとれない。
判定を直接やるのは大変です。すべての枠を調べるわけにはいきません。
そこで、自明な束では必ず になる量を作ります。 でなければ自明ではない、と結論できる[3]。
特性類とは
各ベクトル束にコホモロジー類を対応させ、引き戻しと両立するものを特性類といいます[3]。
に対し が成り立つ、という条件。自然変換になっている。
自明束には を返します。したがって なら は自明でない。
曲率形式
主束の接続形式 に対し、曲率形式を
で定めます[6]。カルタンの構造方程式。
リー代数に値をとる 形式です。ベクトル束なら、 形式を成分とする行列。
接ベクトル束にとれば、 がリーマン曲率テンソル になります。
ビアンキ恒等式
曲率形式は を満たします[6]。第 2 ビアンキ恒等式。
は共変外微分です。 を微分すると消える、という主張。
この式が、あとで「閉形式が出る」ことの根拠になります。
不変多項式
リー代数 の上の多項式 で、随伴作用について不変なものを不変多項式といいます[1]。
が任意の で成り立つ、という条件。基底のとり替えで値が変わらない量。
行列のリー代数なら、 や 、 の係数が該当します。
例:不変多項式を並べる
の不変多項式は、基本対称式で生成されます。
どれも固有値の対称関数です。共役で変わらない量は、固有値の対称式に限られる。
曲率を代入する
次の不変多項式 に曲率形式を代入します。 は 形式なので、 は 形式。
多項式に行列を入れる操作を、 形式を成分とする行列に対して行う形です。 形式どうしは可換なので、順序の問題は起きません。
不変性から、 は主束の上の形式として底空間へ降ります[1]。枠のとり替えで値が変わらないため。
閉形式になる
は閉形式です。証明はビアンキ恒等式から出ます[1]。
が不変性から言え、 が微分として振る舞うことと を合わせると になる。
したがって はド・ラームコホモロジーの類を定めます。
接続に依らない
と を 2 つの接続とし、 で結びます。接続の全体はアフィン空間なので、この直線が引ける。
で微分して積分すると、 が完全形式になることが示せます[1]。
コホモロジー類としては同じです。接続の選び方に依らない量が、こうして手に入る。
チャーン・ヴェイユ準同型
不変多項式からコホモロジーへの写像が定まりました。
これがチャーン・ヴェイユ準同型です[1]。代数の準同型になっている。
微分幾何の計算から位相の情報が出る、という橋がここに架かります。
接続を選ぶ
曲率形式を作る
不変多項式に代入する
接続によらないコホモロジー類が残る
3 歩目までは接続に依存し、4 歩目で依存が消えます。消え方を保証するのが上の 2 つの補題。

3 歩目までは選び方に引きずられています。4 歩目で商をとり、依存が落ちる。
コホモロジーをとる操作が、余分な情報を捨てる働きをしています。
曲率が変わっても類が動かない様子
接続を動かすと曲率形式が変わりますが、積分した値は動きません。
青い曲線が上下に波打っても、囲む面積は変わりません。赤い破線がその平均。
差が完全形式になっている、というのがこの絵の内容です。積分すればストークスの定理で消える。
チャーン類
複素ベクトル束 に対し、 を で展開します。
の係数がチャーン類です[2,5]。 は 次のコホモロジー類。
で割り、 を掛けるのは、整数係数のコホモロジーに値が入るようにするため。規格化の定数。
全チャーン類とホイットニー和
を全チャーン類といいます。
直和については
が成り立ちます[2,5]。行列式が対角ブロックで積に分かれることから出る。
を使う定義が、この積の形を自然に出しています。
例:直線束の第 1 チャーン類
複素直線束では だけが残ります。曲率は 次の行列、つまり 形式そのもの。
です。 は複素直線束を完全に分類します[2]。 との間に 1 対 1 の対応がある。
例: の接束
リーマン球面の複素接束について を積分すると になります[5]。
でないので、この束は自明ではありません。至るところ でない切断が存在しない。
実の言葉に直せば、球面に接する零点のないベクトル場が作れない、という事実です。毛玉の定理[2]。
巻きつきの数として見る
が になる、というのは何を数えているのか。境界での回転数として読めます。
境界を 1 周するあいだに、矢印は 2 回転します。中央の弧が、たまった角度。
回転数が でないと、内部を零点なしで埋められません。 が言っているのはこの障害[2]。
例:曲率の積分が回転数になる
直線束で を積分すると、境界での接続形式の回転数が出ます。ストークスの定理で境界へ落とす形。
平坦な接続なら曲率が ですが、境界での回転数が消えるとは限りません。可縮でない領域では差が残る。
第 1 チャーン類が整数値をとるのは、この回転数が整数だから。連続に動かしても飛ばない量。
例:ガウス・ボネとの一致
次元では の積分がオイラー標数に一致します。 では で、上の値と合う。
一般に、複素多様体の接束の と実の接束のオイラー類が対応します。
ガウス・ボネの定理は、この対応の 次元での姿になっています。曲率の積分が位相不変量になる、という共通の構図。
チャーン・ヴェイユの構成で、接続をとり替えたときに変わらないのはどれか。
- 曲率形式
- 不変多項式に代入した形式
- が定めるコホモロジー類
- どれも変わらない
ポントリャーギン類
実ベクトル束では、複素化してからチャーン類をとります。
がポントリャーギン類です[4]。 次のコホモロジーに入る。
奇数番目のチャーン類は 捩れを除いて消えます。実の束を複素化すると、共役で移り合う対称性が入るため。
オイラー類
向き付けられた偶数階数の実ベクトル束には、オイラー類が定まります。
曲率形式のパフィアンから作ります。 を で割った形。
接束のオイラー類を積分するとオイラー標数が出ます。これがチャーン・ガウス・ボネの定理。
複素ベクトル束。 の係数として出ます。 次。
実ベクトル束。複素化してからチャーン類をとります。 次。
障害としての読み方
特性類は、束が良い性質を持つことの障害として読めます[3]。
なら、零点のない切断が作れません。 なら、束は自明でない。
「作れない理由」を数で書き下したもの、という位置づけになります。作れる場合には になる。
特性数と不変量
特性類の積を基本類と対にすると、整数が出ます。特性数と呼ばれる量。
コボルディズム類がこの数で決まります。2 つの多様体がコボルダントであることと、特性数がそろうことが同値[3]。
ヒルツェブルフの符号数定理は、符号数をポントリャーギン数で書く公式です[4]。
有理係数までしか出ない
チャーン・ヴェイユの構成は、実または複素係数のコホモロジーに値をとります。
したがって捩れの情報は落ちます。シュティーフェル・ホイットニー類のような 係数の類は、この方法では作れません。
微分幾何で見えるのは、実係数に写した像だけ、ということ。位相の側から見ると情報が減っています。










Ω も f(Ω) も接続で変わります。差が完全形式になるので、コホモロジー類だけが不変になる。