曲率テンソルは「空間がどれだけ曲がっているか」を測る量である。平行移動が経路に依存するかどうか、という素朴な問いに答える。
平坦な空間での平行移動
平面上でベクトルを持って歩き回ることを考えよう。どんな経路を通っても、出発点に戻ってくればベクトルは元の向きを向いている。
北に歩いて、東に曲がって、南に歩いて、西に曲がって戻ってくる。ベクトルはずっと同じ方向を指している。平坦な空間では、平行移動は経路によらない。
球面での実験
今度は地球の表面で同じことをしよう。北極から出発して、手にはずっと南を指す矢印を持っている。
まず経度 の子午線に沿って赤道まで歩く。矢印は南を指したまま。次に赤道に沿って東に 歩く。矢印は相変わらず「その場での南」を指している。最後に経度 の子午線に沿って北極に戻る。
北極に戻ってきたとき、矢印はどこを向いているか。出発時と ずれている。同じ点に戻ってきたのに、ベクトルが回転してしまった。
曲率の正体
この「ずれ」こそが曲率の本質である。
閉じた経路に沿って平行移動したとき、ベクトルがどれだけ回転するか。その回転量が、経路で囲まれた領域の曲率の積分に等しい。
小さな閉曲線で囲まれた領域を考えると、回転量は面積に比例する。その比例係数が、その点での曲率である。
方向による違い
3次元以上の空間では、どの2方向に沿って移動するかで曲率が変わりうる。
曲率テンソル は「 方向に進んでから 方向に進む」のと「 方向に進んでから 方向に進む」の差を測る。この順序を入れ替えたときのずれが曲率である。
平行四辺形を一周する
から出発して、 方向に少し、 方向に少し、 方向に少し、 方向に少し進んで戻ってくる。この微小な平行四辺形を一周したとき、ベクトル がどれだけずれるか。
そのずれが である。曲がった空間では、たとえ微小な閉曲線でもベクトルはずれる。平坦な空間では であり、ずれは生じない。
2次元と高次元
2次元曲面では、曲率は1つの数(Gauss 曲率 )で表される。どの方向を向いても曲がり具合は同じだからである。
3次元以上では、方向ごとに曲がり具合が異なる。東西方向と南北方向で曲率が違うかもしれない。曲率テンソルはこの「方向ごとの曲率」をすべて記録する。
潮汐力との類似
一般相対性理論では、重力は時空の曲率として現れる。曲率テンソルは潮汐力に対応する。
地球の近くで自由落下する2つの物体を考えよう。最初は並んでいても、地球に近い方がより強く引かれるので、徐々に離れていく。この「引き離す力」が潮汐力であり、時空の曲率を反映している。
曲率ゼロの意味
は空間が局所的に平坦であることを意味する。座標を適切に選べば、その近傍ではユークリッド空間と区別がつかない。
ただしこれは局所的な性質である。円柱の側面は だが、大域的には平面と異なる。紙を丸めて筒にしても、局所的な曲率は変わらない。
まとめ
曲率テンソルは「閉曲線に沿った平行移動でベクトルがどれだけずれるか」を測る。空間が曲がっていれば、どの経路を通るかで平行移動の結果が変わる。この経路依存性こそが曲率の本質である。