偏微分の計算問題|連鎖律・シュワルツの定理・極値判定
偏微分は、片方の変数を止めて 1 変数の微分をする操作である。定義は差分商の極限で、 についての偏微分は次のようになる。
は動かさないので、計算そのものは 1 変数の微分の規則がそのまま使える。難しくなるのは、変数が絡み合う連鎖律と、微分の順序が問題になる高階の場面である。
記号の順序に注意する
2 階の偏微分には 2 通りの書き方があり、順序の読み方が逆である。
添字で書く は「 で微分してから で微分する」を表す。分数で書く は「 で微分してから で微分する」を表す。作用素は右から順に掛かるからである。
多くの場面では順序を変えても値が同じなので混乱は表に出ないが、値が変わる例もある。以下ではこの流儀で統一する。
シュワルツの定理
定理。 と が点 の近傍で存在し、 で連続なら、 である。
証明。 を小さく取り、次の 2 重の差を考える。
と置くと である。平均値の定理から、 と の間の を取って次のように書ける。
括弧の中に についての平均値の定理を使えば、 と の間の があって となる。
同じ を から出発して評価すると、別の点で と書ける。
とすると 2 つの点はどちらも に近づく。連続性から両辺の極限が一致し、 を得る。
連続性を外すと結論は崩れる。反例は問題 14 で扱う。
<svg viewBox="0 0 460 250" width="100%" style="max-width:460px;display:block;margin:0 auto">
<polyline points="90,190 300,190 370,150 160,150 90,190" fill="none" stroke="#c8c8c8" stroke-width="1"></polyline>
<line x1="215" y1="118" x2="215" y2="176" stroke="#9a9a9a" stroke-width="1" stroke-dasharray="4 3"></line>
<polyline points="100,160 150,140 215,118 280,92 320,76" fill="none" stroke="#1b81e0" stroke-width="1.5"></polyline>
<polyline points="185,152 200,134 215,118 232,106 255,96" fill="none" stroke="#d0562a" stroke-width="1.5"></polyline>
<line x1="170" y1="131" x2="260" y2="105" stroke="#1b81e0" stroke-width="1" stroke-dasharray="5 3"></line>
<line x1="190" y1="140" x2="245" y2="100" stroke="#d0562a" stroke-width="1" stroke-dasharray="5 3"></line>
<circle cx="215" cy="118" r="3" fill="#1f1f1f"></circle>
<circle cx="215" cy="176" r="3" fill="#9a9a9a"></circle>
<text x="55" y="26" font-size="11" fill="#1f1f1f">片方の変数を止めると、断面の曲線の接線の傾きが偏微分になる</text>
<text x="55" y="44" font-size="11" fill="#9a9a9a">同じ点で、切る向きを変えれば別の傾きが出る</text>
<line x1="70" y1="228" x2="92" y2="228" stroke="#1b81e0" stroke-width="1.5"></line>
<text x="98" y="232" font-size="11" fill="#1b81e0">x 方向の断面</text>
<line x1="230" y1="228" x2="252" y2="228" stroke="#d0562a" stroke-width="1.5"></line>
<text x="258" y="232" font-size="11" fill="#d0562a">y 方向の断面</text>
</svg>問題 1:多項式の偏微分
について、、、、 を求めよ。
解答 1
を定数とみなして で微分する。
を定数とみなして で微分する。
は をさらに で微分したものである。
は を で微分する。
2 つが一致した。多項式は何回でも微分できて導関数も連続なので、シュワルツの定理の仮定が満たされている。
問題 2:記号の順序を確かめる
について を求めよ。
解答 2
記号の順序から、先に で微分する。
これを で微分する。積の微分になる。
逆の順序でも計算しておく。 を で微分すると となり、同じ結果になる。
答えが同じでも、記号がどちらの順序を指すのかは意識しておく。順序で値が変わる関数が実際にあるからである。
問題 3:指数に変数がある形
とする。 の と を求めよ。
解答 3
で微分するときは が定数なので、べき関数の微分になる。
で微分するときは が定数なので、指数関数の微分になる。 と書き直せば見やすい。
同じ式でも、どちらの変数を止めるかで別の型の微分になる。 を見た瞬間にべき関数と決めつけない。
問題 4:連鎖律を極座標で使う
で 、 とする。 と を求めよ。
解答 4
連鎖律は、経路ごとの寄与を足す形になる。
と を戻すと である。
についても同じように計算する。
と直接書けば 、 で、確かに一致する。
問題 5:中身の分からない関数の連鎖律
、、 のとき、 と を 、 で表せ。
解答 5
の中身が分からなくても、連鎖律の形は変わらない。
ここから が出る。 が だけの関数なら なので、 になる。
具体的な式を持たなくても、変数の絡み方だけで関係式が導ける。
問題 6:微分の作用素を極座標で表す
と を、 と についての微分で表せ。
解答 6
今度は逆向きに、 と を の関数と見る。 から次が出る。
は で決まる。両辺を で微分して整理すると次のようになる。
連鎖律に入れれば、作用素そのものの表示が得られる。
この 2 本を 2 乗して足すと、ラプラシアンの極座標表示 になる。原点では で割れないので、この表示は原点を除いて使う。
問題 7:対数が調和であることを確かめる
が原点以外で を満たすことを示せ。
解答 7
まず 1 階を計算する。
商の微分で 2 階に進む。
と を入れ替えれば が出る。
足すと になる。 は原点を除いて調和である。
問題 8:指数関数と三角関数の積
について を求めよ。
解答 8
で 2 回微分しても形は変わらない。
で 2 回微分すると符号が反転する。
足すと になり、この も調和関数である。
の虚部がちょうど にあたる。複素指数関数の実部と虚部は、どちらも調和になる。
問題 9:2 階の和と差
について、 と を求めよ。
解答 9
で 2 回微分する。
で 2 回微分する。1 階では符号が分かれるが、2 階では戻る。
したがって 2 つの答えが出る。
後者は、この が波動方程式 を満たすことを意味する。 と は、右へ進む波と左へ進む波にあたる。
前者は と書ける。同じ関数が、見る式によって波動方程式の解にもヘルムホルツ方程式の解にもなる。
問題 10:勾配と方向微分係数
の点 での勾配を求め、方向微分係数が最大になる向きを述べよ。
解答 10
各変数で偏微分して並べる。
点 では である。
単位ベクトル 方向の方向微分係数は に等しい。コーシー・シュワルツの不等式から次が成り立つ。
等号は が と同じ向きのときに限る。だから勾配の向きが最も急に増える方向で、その傾きが である。
方向微分係数が と書けるのは、 が全微分可能なときである。偏微分が存在するだけでは、この等式は保証されない。
問題 11:極値を判定する
の極値を求めよ。
解答 11
停留点は 1 階の偏微分が両方 になる点である。
第 2 式から である。第 1 式に入れると となり、、 を得る。
2 階の偏微分は定数である。
判別式を計算する。
かつ なので極小である。値は になる。
判定式の根拠は 2 次形式にある。停留点のまわりで は 2 階の項で近似され、その 2 次形式の行列は次のようになる。
はこの行列式である。行列式が正なら 2 つの固有値が同符号で、 の符号がその共通の符号を教える。
問題 12:鞍点になる例
の原点での様子を調べよ。
解答 12
、 なので、停留点は原点だけである。
判別式は になる。行列式が負なので固有値の符号が食い違い、極値ではない。
実際、 に沿って見ると で原点が最小、 に沿って見ると で原点が最大である。同じ点が、向きによって谷にも山にもなる。
<svg viewBox="0 0 460 250" width="100%" style="max-width:460px;display:block;margin:0 auto">
<polyline points="110,62 170,108 230,140 290,108 350,62" fill="none" stroke="#1b81e0" stroke-width="1.5"></polyline>
<polyline points="150,210 190,165 230,140 270,135 310,150" fill="none" stroke="#d0562a" stroke-width="1.5"></polyline>
<circle cx="230" cy="140" r="3" fill="#1f1f1f"></circle>
<text x="55" y="26" font-size="11" fill="#1f1f1f">一方向から見ると谷、別の方向から見ると山になるのが鞍点</text>
<text x="55" y="44" font-size="11" fill="#9a9a9a">停留点であっても極値とは限らない</text>
<line x1="70" y1="232" x2="92" y2="232" stroke="#1b81e0" stroke-width="1.5"></line>
<text x="98" y="236" font-size="11" fill="#1b81e0">x 方向の断面</text>
<line x1="230" y1="232" x2="252" y2="232" stroke="#d0562a" stroke-width="1.5"></line>
<text x="258" y="236" font-size="11" fill="#d0562a">y 方向の断面</text>
</svg>問題 13:判別式が 0 になる場合
と を原点で比べよ。
解答 13
どちらも原点が停留点で、2 階の偏微分はすべて になる。したがって判別式も である。
ところが様子はまったく違う。 は原点以外で正なので、原点は極小である。 は に沿って正、 に沿って負なので、原点は極値ではない。
のとき判定法は何も言わない。2 階の項が消えているので、より高い次数を直接調べるしかない。
問題 14:微分の順序で値が変わる例
次の について と を求めよ。原点では と定める。
解答 14
まず に対して を定義から計算する。 に注意する。
もこの式に含まれる。これを で微分する。
同じように が出るので、 で微分すると次のようになる。
順序を変えると と で値が違う。シュワルツの定理の仮定である の連続性が、原点で破れているためである。
計算の途中で順序を入れ替えるとき、それが許されるかどうかは仮定に戻って確かめる。
問題 15:同次関数の恒等式
がすべての で成り立つとき、 を示せ。
解答 15
両辺を で微分する。左辺には連鎖律を使う。
と置けば を得る。
で確かめる。これは 次同次である。
同次性という 1 つの仮定から、偏微分の間の関係式が出てくる。
問題 16:熱方程式を満たすことの確認
で が を満たすことを示せ。
解答 16
で微分する。積の微分と、指数の中の の両方から項が出る。
で 1 回微分する。
もう一度 で微分する。積の微分になる。
2 つが一致するので である。
この は熱核と呼ばれ、時刻 が小さいほど原点に集中する。偏微分の計算だけで、解であることが確かめられる。
問題 17:ヤコビ行列と行列式
、 について、ヤコビ行列とその行列式を求めよ。
解答 17
偏微分を並べて行列にする。
行列式を計算する。
原点を除いて である。 と置くと にあたり、行列式は に一致する。
行列式は、その点のまわりで面積が何倍に伸びるかを表す。重積分の変数変換で現れる量と同じものである。









