全微分の計算問題|偏微分があっても全微分可能とは限らない
全微分は、増分を 1 次式で置き換える操作である。近似計算にも誤差の見積もりにも同じ式が使える。
以下の問題は計算の型を身につけるために並べてある。後半には、偏微分の存在と全微分可能性を取り違えて誤りやすいものを集めた。
問題 1:全微分の計算
の全微分 を求めよ。
解答 1
全微分は偏導関数を係数に並べたものである。
一方の変数を定数とみなして微分するだけである。計算そのものは 1 変数の微分と変わらない。
問題 2:偏角の全微分
()の全微分を求めよ。
解答 2
の導関数が であることと、連鎖律を使う。
これは極座標の偏角 の全微分にあたる。 で割るところに、原点から遠いほど角の変化が小さいことが出ている。
問題 3:連鎖律で を求める
、、 のとき を求めよ。
解答 3
全微分 を で割る形にする。
、 を戻す。
代入してから微分しても同じである。 を積の微分で処理すれば、上と一致する。
問題 4:3 変数の全微分
で 、、 のとき、 を 、、 で表せ。
解答 4
球座標では なので、 である。したがって となる。
連鎖律でも確かめられる。 に 、、 の展開を代入すると、 と の項が打ち消し合う。
球面上を動くかぎり は変わらないので、 と の係数が 0 になるのは当然である。先に を だけの式に直すほうが早い。
問題 5:陰関数から偏導関数を出す
で定まる について、 と を求めよ。
解答 5
両辺の全微分を取る。
のとき について解ける。
と の係数がそのまま偏導関数なので、、 である。
を直接微分しても同じ式になる。全微分を取る方法なら、 について解かずに済む。
問題 6:線形近似
について、 の近似値を全微分で求めよ。
解答 6
のまわりで近似する。 である。
では 、 である。、 とする。
真の値は で、誤差は 程度に収まっている。
<svg viewBox="0 0 460 250" width="100%" style="max-width:460px;display:block;margin:0 auto">
<line x1="55" y1="200" x2="410" y2="200" stroke="#c8c8c8" stroke-width="1"></line>
<line x1="70" y1="200" x2="300" y2="108" stroke="#d0562a" stroke-width="1.5"></line>
<polyline points="70,192 110,182 150,168 190,150 230,128 270,102 310,72 350,38" fill="none" stroke="#1f1f1f" stroke-width="2"></polyline>
<line x1="150" y1="168" x2="150" y2="210" stroke="#c8c8c8" stroke-width="1" stroke-dasharray="4 3"></line>
<line x1="270" y1="102" x2="270" y2="210" stroke="#c8c8c8" stroke-width="1" stroke-dasharray="4 3"></line>
<line x1="150" y1="168" x2="292" y2="168" stroke="#c8c8c8" stroke-width="1" stroke-dasharray="4 3"></line>
<line x1="266" y1="168" x2="266" y2="120" stroke="#d0562a" stroke-width="3"></line>
<line x1="286" y1="168" x2="286" y2="102" stroke="#1b81e0" stroke-width="3"></line>
<line x1="150" y1="222" x2="270" y2="222" stroke="#9a9a9a" stroke-width="1"></line>
<circle cx="150" cy="168" r="3" fill="#1f1f1f"></circle>
<text x="55" y="30" font-size="11" fill="#1f1f1f">接線がとらえる増分が df、実際の増分が Δf</text>
<text x="244" y="146" font-size="11" fill="#d0562a">df</text>
<text x="294" y="132" font-size="11" fill="#1b81e0">Δf</text>
<text x="204" y="236" font-size="11" fill="#9a9a9a">dx</text>
<text x="320" y="180" font-size="11" fill="#9a9a9a">差は dx より速く 0 に近づく</text>
</svg>図は 1 変数に切った断面である。2 変数でも事情は同じで、接線が接平面に変わるだけである。
偏導関数を係数にした 1 次式。接平面が与える増分で、計算はいつでもできる。
関数の値の実際の増分。全微分可能であれば、両者の差は 、 の大きさより速く 0 に近づく。
問題 7:誤差の伝播
直方体の体積 で、、、 のとき の誤差を見積もれ。
解答 7
を代入する。最悪の場合を見るので、各項の絶対値を足す。
なので相対誤差は である。
符号をそのまま足すと打ち消し合って小さく見える。最大誤差を求めるときは必ず絶対値を取る。
問題 8:相対誤差と対数微分
円柱の体積 で、 に 、 に の相対誤差があるとき、 の相対誤差を見積もれ。
解答 8
両辺の対数を取ってから全微分すると、相対誤差の式が直接出る。
相対誤差は 以下である。
積と商だけでできた量では、対数微分が早い。指数がそのまま相対誤差の重みになるので、 の誤差は 2 倍に効く。
問題 9:接平面
の点 における接平面の方程式を求めよ。
解答 9
と置くと、曲面は である。
点 では なので、接平面は次の式になる。
全微分から書いてもよい。 で同じ式が出る。
問題 10:球面の接平面
の点 における接平面の方程式を求めよ。
解答 10
で、点 では である。
係数が接点の座標に一致した。原点中心の球面 では、点 での接平面が になる。
勾配が球面の法線を向き、それが原点から接点へのベクトルと同じ向きだからである。
問題 11:方向微分
の点 における、単位ベクトル 方向の方向微分を求めよ。
解答 11
は多項式なので全微分可能である。このとき方向微分は勾配との内積で書ける。
最も増加が速いのは の向き、つまり の方向で、そのときの値は である。
内積で書けるのは全微分可能なときに限る。この点は後の問題で確かめる。
問題 12:全微分可能性の十分条件
が全微分可能な点を調べよ。
解答 12
原点以外では偏導関数が計算できる。
どちらも原点を除いて連続である。偏導関数が存在して連続なら全微分可能なので、原点以外のすべての点で全微分可能である。
原点では偏微分すら存在しない。 なので、差商 は の符号で に分かれる。
定義に戻って調べるより、偏導関数の連続性を見るほうが早い。ただしこれは十分条件であって、必要条件ではない。
問題 13:偏微分が存在しても連続でない例
(原点以外)、 について、原点での偏微分と連続性を調べよ。
解答 13
軸上では が 0 なので、偏微分はどちらも 0 になる。
も同様である。両方の偏微分が存在している。
ところが直線 に沿って原点に近づけると値が変わらない。
でも のままなので、 は原点で連続ですらない。連続でなければ全微分可能でもない。
偏微分の存在が見ているのは軸方向の情報だけである。斜めから近づいたときの様子は、そこに含まれない。
問題 14:偏微分が存在しても全微分可能でない例
は原点で全微分可能か調べよ。
解答 14
軸上では なので、 である。前問と違い、この は原点で連続でもある。
全微分可能なら、 として次が成り立たなければならない。
の方向で調べる。 なので次のようになる。
したがって原点で全微分可能ではない。連続で偏微分も存在するのに、全微分可能でない例である。
問題 15:方向微分がすべて存在しても全微分可能でない例
(原点以外)、 について、原点での方向微分を調べよ。
解答 15
単位ベクトル 方向の方向微分を定義から計算する。
なので値は である。どの方向でも方向微分が存在している。
全微分可能なら方向微分は について線形でなければならない。、 なので、線形なら値は になるはずである。
ところが実際の値は である。 で比べると と で一致しない。
したがって全微分可能ではない。方向微分がすべて存在することと、全微分可能であることは別である。
問題 16:全微分可能でも偏導関数が連続とは限らない例
(原点以外)、 を調べよ。
解答 16
と置く。 から なので、原点で次が成り立つ。
偏微分はどちらも 0 で、上の式はまさに全微分可能の定義そのものである。したがって原点で全微分可能である。
原点以外で を計算する。
軸の正の側から原点に近づけると なので、 となる。
第 1 項は 0 に行くが、第 2 項は振動して極限を持たない。つまり は原点で連続でない。
問題 12 で使った条件が十分条件にすぎないことが、これで分かる。逆は成り立たない。
<svg viewBox="0 0 460 260" width="100%" style="max-width:460px;display:block;margin:0 auto">
<rect x="132" y="30" width="196" height="28" rx="3" fill="none" stroke="#9a9a9a" stroke-width="1"></rect>
<text x="146" y="49" font-size="11" fill="#1f1f1f">偏導関数が存在して連続</text>
<rect x="170" y="100" width="120" height="28" rx="3" fill="none" stroke="#9a9a9a" stroke-width="1"></rect>
<text x="196" y="119" font-size="11" fill="#1f1f1f">全微分可能</text>
<rect x="56" y="180" width="110" height="28" rx="3" fill="none" stroke="#9a9a9a" stroke-width="1"></rect>
<text x="96" y="199" font-size="11" fill="#1f1f1f">連続</text>
<rect x="284" y="180" width="130" height="28" rx="3" fill="none" stroke="#9a9a9a" stroke-width="1"></rect>
<text x="304" y="199" font-size="11" fill="#1f1f1f">偏微分が存在</text>
<line x1="230" y1="58" x2="230" y2="94" stroke="#1b81e0" stroke-width="1.5"></line>
<polygon points="230,102 226,92 234,92" fill="#1b81e0"></polygon>
<line x1="200" y1="128" x2="139" y2="171" stroke="#1b81e0" stroke-width="1.5"></line>
<polygon points="133,175 139,165 145,172" fill="#1b81e0"></polygon>
<line x1="260" y1="128" x2="321" y2="171" stroke="#1b81e0" stroke-width="1.5"></line>
<polygon points="327,175 315,172 321,165" fill="#1b81e0"></polygon>
<text x="240" y="82" font-size="10" fill="#d0562a">逆は不成立</text>
<text x="76" y="152" font-size="10" fill="#d0562a">逆は不成立</text>
<text x="300" y="152" font-size="10" fill="#d0562a">逆は不成立</text>
<text x="55" y="240" font-size="11" fill="#9a9a9a">矢印の向きだけが成り立ち、逆はどれも成り立たない</text>
</svg>矢印の順に条件が弱くなっていく。上から順に問題 16、問題 13、問題 14 が、それぞれの逆が成り立たないことを示している。
偏導関数が存在して連続
全微分可能
連続で、すべての方向微分が存在する
つまずきやすいところ
計算より、条件の取り違えで誤ることが多い。
存在するだけでは連続すら保証されない。軸方向しか見ていないためである。
十分条件と必要条件の取り違えである。連続でない例がある。
方向ごとの値が方向について線形でなければ、全微分可能ではない。
最大誤差を見るときは、各項の絶対値を足す。
判定に迷ったら、定義の分数を書いて で割った極限を調べる。そこへ戻れば結論は必ず出る。
問題 17:完全微分形式の判定
はある関数の全微分か。全微分ならその関数を求めよ。
解答 17
、 と置く。ある の全微分なら 、 であり、 が成り立たなければならない。
一致するので条件を満たす。 を求めると で、これは問題 1 の関数である。
一致しない例も見ておく。 では 、 となり、どんな の全微分にもならない。
は、 が成り立つことの言い換えである。偏微分の順序が交換できることが、判定条件の根拠になっている。
2 変数関数 が点 で両方の偏微分を持つとする。このとき必ず言えるものはどれか。
- は で全微分可能である
- は で連続である
- どちらも言えない
- すべての方向微分が存在する









x2+y2xy は原点で両方の偏微分を持つが、連続でも全微分可能でもない。斜め方向の方向微分も存在しない。