重積分の計算問題|累次積分・積分順序の変更・極座標・ヤコビアン
重積分は、積分の順序と座標の取り方で手間が大きく変わる。同じ積分でも選び違えると、初等関数で書けない 1 変数積分に突き当たる。
以下の問題はその選び方を身につけるために並べてある。後半には、順序や範囲の取り方を誤りやすいものを集めた。
問題 1:長方形領域の累次積分
を計算せよ。ただし とする。
解答 1
被積分関数が の式と の式の積になっていて、領域も長方形である。この 2 つがそろうときだけ、 と分けて計算してよい。
領域が長方形でなければ分けられない。内側の積分範囲に が入ってくるからである。
問題 2:積分順序を選ぶ
を計算せよ。ただし とする。
解答 2
で先に積分する。 を定数と見れば、 の原始関数は である。
で先に積分すると部分積分が要り、そのあと現れる の積分もひと手間かかる。領域が長方形なら順序は自由なので、楽なほうを選べばよい。
問題 3:曲線で挟まれた領域
を計算せよ。ただし は と で囲まれた領域とする。
解答 3
交点は より である。 では なので、 と書ける。
上下どちらの曲線が上にあるかを、区間ごとに確かめてから積分範囲を書く。ここを逆にすると符号が反転する。
問題 4:三角形領域
を計算せよ。ただし は 、、 を頂点とする三角形とする。
解答 4
である。
内側の積分を終えた式が だけの簡単な形になった。 と の の 1 次と 2 次が打ち消し合っている。
問題 5:積分順序の変更
を計算せよ。
解答 5
の原始関数は初等関数で書けないので、この順序のままでは進まない。領域を描き直す。
積分領域は かつ で、これは かつ と同じである。
最後は と置換した。順序を変えたことで が 1 つ落ちてきて、置換が効く形になっている。
<svg viewBox="0 0 460 220" width="100%" style="max-width:460px;display:block;margin:0 auto">
<polygon points="60,180 60,70 170,70" fill="#1b81e0" opacity="0.12"></polygon>
<line x1="50" y1="180" x2="185" y2="180" stroke="#c8c8c8" stroke-width="1"></line>
<line x1="60" y1="60" x2="60" y2="190" stroke="#c8c8c8" stroke-width="1"></line>
<line x1="60" y1="180" x2="170" y2="70" stroke="#1f1f1f" stroke-width="1.5"></line>
<line x1="104" y1="136" x2="104" y2="70" stroke="#d0562a" stroke-width="2"></line>
<polygon points="280,180 280,70 390,70" fill="#1b81e0" opacity="0.12"></polygon>
<line x1="270" y1="180" x2="405" y2="180" stroke="#c8c8c8" stroke-width="1"></line>
<line x1="280" y1="60" x2="280" y2="190" stroke="#c8c8c8" stroke-width="1"></line>
<line x1="280" y1="180" x2="390" y2="70" stroke="#1f1f1f" stroke-width="1.5"></line>
<line x1="280" y1="114" x2="346" y2="114" stroke="#d0562a" stroke-width="2"></line>
<text x="50" y="30" font-size="11" fill="#1f1f1f">同じ領域でも、切る向きで積分範囲の式が変わる</text>
<text x="50" y="204" font-size="11" fill="#9a9a9a">縦に切ると先に y で積分</text>
<text x="270" y="204" font-size="11" fill="#9a9a9a">横に切ると先に x で積分</text>
</svg>図の左が元の順序、右が変更後である。縦の切り口は が から 1 まで、横の切り口は が 0 から までとなり、同じ領域が別の不等式で書かれる。
問題 6:積分順序の変更(三角関数)
を計算せよ。
解答 6
の原始関数も初等関数では書けない。前問と同じ形の領域なので、同じ手が使える。
領域は かつ と書き直せる。
内側の積分で が掛かり、分母の と約分された。順序を変えて分母が消える形は、この種の問題の典型である。
問題 7:分割が要る場合
を 、、 を頂点とする三角形とする。 を、2 通りの順序で計算せよ。
解答 7
先に で積分する。高さ の水平な切り口は である。
先に で積分すると、垂直な切り口の上端が を境に変わる。 では 、 では である。
水平な切り口の両端がどちらも 1 本の直線で書ける。分割は要らない。
垂直な切り口の上端が で切り替わる。2 つに分けないと式が書けない。
答えは一致する。順序を変えるときは不等式を書き換えるだけで済ませず、領域を描いて切り口の端が途中で変わらないか確かめる。
問題 8:極座標への変換
を計算せよ。ただし は の円板とする。
解答 8
、 と置く。面積要素は である。
被積分関数の が になり、面積要素からもう 1 つ が出て になった。 の を落とすと答えが になり、まったく合わない。
問題 9:ガウス積分
を極座標で計算し、 の値を求めよ。
解答 9
一方この重積分は と に分離できるので、 に等しい。両辺を比べて次を得る。
面積要素の が効いているのがこの問題である。 がなければ が残り、1 変数のままでは手が出ない。1 変数で解けない積分が 2 変数にすると解ける、という逆転が起きている。
問題 10:原点を通る円
を計算せよ。ただし は の円板とする。
解答 10
極座標に直す。 より、 の部分では である。
の上限が正でなければならないので、、つまり に限られる。
なので、値は である。
<svg viewBox="0 0 460 250" width="100%" style="max-width:460px;display:block;margin:0 auto">
<circle cx="190" cy="130" r="80" fill="#1b81e0" opacity="0.1"></circle>
<line x1="60" y1="130" x2="400" y2="130" stroke="#c8c8c8" stroke-width="1"></line>
<line x1="110" y1="45" x2="110" y2="220" stroke="#c8c8c8" stroke-width="1"></line>
<circle cx="190" cy="130" r="80" fill="none" stroke="#1b81e0" stroke-width="2"></circle>
<line x1="110" y1="130" x2="270" y2="130" stroke="#d0562a" stroke-width="1"></line>
<line x1="110" y1="130" x2="190" y2="50" stroke="#d0562a" stroke-width="1"></line>
<line x1="110" y1="130" x2="190" y2="210" stroke="#d0562a" stroke-width="1"></line>
<circle cx="110" cy="130" r="3" fill="#1f1f1f"></circle>
<text x="55" y="30" font-size="11" fill="#1f1f1f">原点を通る円。原点から出る半直線が円を切り取る</text>
<text x="292" y="110" font-size="11" fill="#d0562a">r = 2cos θ</text>
<text x="55" y="238" font-size="11" fill="#9a9a9a">θ を 0 から 2π まで動かすと、r の上限が負になり破綻する</text>
</svg>原点が円周上にあるので、原点から出る半直線は円を 1 回だけ切って通り抜ける。切り取られる長さが である。
を から まで動かすと、 の範囲で上限が負になる。範囲を機械的に決めず、 の上限が正である向きだけを取る。
つまずきやすいところ
計算そのものより、範囲と要素の書き方で間違えることが多い。
極座標の面積要素は である。落とすと値が違うだけでなく、解ける形にならないことがある。
変数変換で掛けるのは である。符号をそのまま残すと答えの符号が反転する。
原点を通る円や扇形では、 の上限が正になる向きだけを取る。
不等式の書き換えだけで済ませると、切り口の端が途中で変わる場合に気づけない。
どれも領域を図に描けば防げる。式だけで進めないのが確実である。
問題 11:一次変換とヤコビアン
を計算せよ。ただし は 、、 の領域とする。
解答 11
、 と変換する。逆に解くと 、 である。
掛けるのは絶対値の である。 と は にあたり、 が残る。
内側の積分で が定数として扱われるところが要点である。 の範囲が に依存しているので、 の積分を外側にしなければならない。
問題 12:楕円領域
を計算せよ。ただし は の楕円板とする。
解答 12
、 と置くと、領域は単位円板 になる。ヤコビアンは である。
単位円板では対称性から であり、和は に等しい。
したがって となり、答えは である。
楕円をそのまま極座標にすると の上限が の複雑な式になる。先に円へ直す変換を挟むほうが早い。
問題 13:球座標
を計算せよ。ただし は かつ の上半球とする。
解答 13
球座標を使う。、体積要素は である。
上半球は 、、 にあたる。
は 軸からの角である。上半球なので までで、 まで動かすと下半分まで含めてしまい 0 になる。
問題 14:四面体
を計算せよ。ただし は 、、、 の四面体とする。
解答 14
内側から順に積分する。 の上限は 、 の上限は である。
対称性で検算できる。、、 の役割は対等なので 3 つの積分は等しく、和は である。この値が になっている。
問題 15:円柱座標
を計算せよ。ただし は 、 の円柱とする。
解答 15
円柱座標では である。 の範囲が にも にも依存しないので、3 つの積分が完全に分離する。
球座標を使うと領域が円柱なので の上限が の式になり、かえって面倒になる。領域の形に合う座標を選ぶ。
問題 16:順序を変えると値が変わる例
について、 上の 2 通りの累次積分を計算せよ。
解答 16
を で微分すると になるので、内側の積分は次のとおりである。
一方 なので、順序を入れ替えた累次積分は になる。
2 つの値が食い違う。原点の近くで が発散しているためで、フビニの定理の仮定が満たされていない。
順序を入れ替えてよいのは、絶対値の重積分が有限のときである。有界な領域で連続な関数を扱っているかぎり心配は要らないが、この問題のように端で発散する場合は確かめてから入れ替える。
を の円板とする。 を極座標で書いたとき、正しいものはどれか。










r≤2sinθ が正になるのは 0≤θ≤π の範囲である。面積要素の r も落とさない。値は π で、半径 1 の円の面積と合う。