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逆写像はいつ作れるのか?逆関数定理とヤコビアンの計算問題

は、原点のまわりで逆写像を持ちます。ところが全体では持ちません。 ずらすと同じ点へ移るからです。

逆関数定理が保証するのは局所的な逆だけ。判定はヤコビアンが でないかどうか、その 点で決まります[1]

以下は 問です。 変数から始め、極座標と球座標、複素関数に対応する写像、条件が崩れる点、そして定理の仮定を つ外すと壊れる例まで並べました。

定理と、微分の公式

が開集合で 級、点 でヤコビ行列 が正則とします[1]

このとき の近傍 の近傍 があって、 は全単射になり、逆写像も 級です。

逆写像の微分は、もとの微分の逆行列です。

変数なら という見慣れた形になります。

ヤコビアンは局所的な面積や体積の拡大率です[2] になる点では図形がつぶれ、向きの情報も失われます。

問題 1:1 変数の逆関数の微分

の逆関数について を求めよ。

解答 1

逆関数の値を先に押さえます。 なので です。

ではありません。定理が使えます。

の式は書けません。それでも 点での微分は出ます。この点が定理の使いどころです。

問題 2:条件が崩れる点

について、 で逆関数定理が使えるか判定せよ。

解答 2

です。仮定が満たされないので、定理からは何も言えません。

実際には逆関数 が全体で存在します。ヤコビアンが でないことは、逆が存在するための必要条件ではありません[3]

崩れるのは結論の後半です。 で微分できません。

微分できる逆が存在したとすると、連鎖律から となり、左辺が になって矛盾します。 級の逆を求めるかぎり、仮定は外せません。

問題 3:極座標のヤコビ行列

のヤコビ行列と行列式を求め、逆行列も出せ。

解答 3

各成分を で偏微分して並べます。

行列式は です[2] で正則になります。

逆行列は を掛けて成分を入れかえた形です。

行は などと合っています。原点では で、角度が決まらない点です。

問題 4:複素の 2 乗に対応する写像

について、点 の近傍で逆写像が存在するか判定せよ。

解答 4

ヤコビ行列を書きます。

では行列式が ではありません。定理より局所的な逆が存在します。

なので、逆写像は のまわりで定義されます。

この にあたります。 乗すると で、いま出た と一致する。

問題 5:ヤコビアンが 0 になる点

同じ について、ヤコビアンが になる点を求め、そこでの振る舞いを調べよ。

解答 5

行列式は で、 になるのは原点だけです。

では が同じ点へ移ります。原点のどんな近傍でも、 点が 点に重なる。

逆をとろうとすると つに分かれます。一価な逆写像がとれません。

原点で角度が 倍に引き伸ばされ、面積の比が につぶれています。ヤコビアンが になるとは、そういう状況です。

問題 6:3 変数の写像

のヤコビ行列を求め、点 で逆写像が存在するか判定せよ。

解答 6

各成分を で偏微分します。

では第 行で展開して です。 でないので局所的な逆が存在します。

一般には行列式が になります。どれか つでも なら座標軸上の点で、そこでは定理が使えません。

問題 7:複素指数に対応する写像

の点 でヤコビ行列とその逆行列を求めよ。

解答 7

では単位行列になり、逆行列も単位行列です。

行列式は で、どの点でも になりません。すべての点で局所的な逆が存在します。

にあたる写像で、 の微分が であることが単位行列に出ています。

問題 8:局所と大域の違い

同じ が全単射でないことを示せ。

解答 8

増やしても は変わりません。 です。

ヤコビアンはどこでも でないのに、写像は になりません。定理が言うのは局所的な逆だけです[1]

の範囲を幅 未満に切れば全単射になります。複素対数に分岐が要るのは、この事情です。

局所と大域を分ける。それがこの定理の性格です。ヤコビアンは 点の情報しか持ちません。

問題 9:球座標のヤコビアン

のヤコビアンを求めよ。

解答 9

行列式を計算すると次の形になります[2]

の原点と、 または の軸上で になります。極座標のときの原点と同じ事情です。

体積要素が になるのは、この行列式が拡大率だからです。

問題 10:1 次変換で確かめる

のヤコビアンを求め、面積の拡大率と一致することを確かめよ。

解答 10

次変換なのでヤコビ行列は定数行列です。

単位正方形の 頂点は へ移ります。この平行四辺形の面積は です。

拡大率がそのまま行列式になりました。一般の写像では、この比が点ごとに変わります。

問題 11:逆写像の微分を具体的に出す

における逆写像の微分を求めよ。

解答 11

問題 の行列の逆をとります。

次の逆行列は、対角を入れかえて非対角の符号を変え、行列式で割る形です。

これが における の微分です。 の式を書かずに求まりました。

問題 12:C^1 級を外すと壊れる

)、 について、 でも原点の近傍で単射にならないことを示せ。

解答 12

原点での微分を定義から出します。

ではありません。 での導関数は次の形です。

では となり、 です。

原点にいくらでも近いところで導関数が負になります。増える区間と減る区間が無限に交互に現れるので、どんな近傍でも単射になりません。

が原点で連続でないことが原因です。 級という仮定は、 点での値だけでなく近くでの連続性まで要求しています[1]

問題 13:陰関数定理を導く

逆関数定理から陰関数定理を導け。

解答 13

について解きたいとします。補助的な写像を作ります[3]

のヤコビ行列は、左上が単位行列、左下が 、右下が という形です。行列式は に等しくなります。

仮定から が正則なので、 に逆関数定理が使えます。局所的な逆 がとれる。

と置いた が求める陰関数です。 つの定理は同値で、どちらからでも他方が出ます[4]

問題 14:逆写像の 2 階の情報

について を求めよ。

解答 14

をもう一度微分します。合成と商が重なる形です。

です。

分母が 乗になる点が要です。 階の公式を微分すれば自然に出てきます。

つまずきやすいところ

判定そのものより、定理が何を言っていないかで誤ります。

大域的な逆を保証すると思う

保証されるのは近傍だけです。 はどこでもヤコビアンが でないのに全単射になりません。

ヤコビアンが なら逆がないと思う

のように逆が存在する例があります。崩れるのは逆の微分可能性のほうです。

点での微分だけで足りると思う

級が要ります。 が反例です。

変数の順を混ぜる

の行と列がどの変数に対応するかを、書き出す前に決めます。

ヤコビアンは 点の情報しか持たない。この線を引いておけば、局所と大域を混ぜずに済みます。

について、正しいものはどれですか。

  • ヤコビアンが になる点があるので、そこでは逆が作れない
  • どの点でもヤコビアンが でないが、全体では にならない
  • どの点でもヤコビアンが でないので、全体で逆が作れる
__RESULT__

行列式は で、どこでも になりません。それでも ずらすと同じ点へ移るので、全単射にはなりません。定理が保証するのは局所的な逆だけです。

よくある誤り

局所的な逆を大域的な逆だと思う。近傍でしか保証されません。
ヤコビアンが の点で逆が存在しないと決める。存在しても微分できないだけの場合があります。
級の仮定を落とす。 点で微分が でないだけでは足りません。
行列式を計算せずに正則だと判断する。 次でも 次でも、値を出してから判定します。
逆行列を求めるときに行列式で割り忘れる。 次では を掛けます。
極座標の原点を普通の点として扱う。 ではヤコビアンが になります。
階微分で分母の次数を間違える。 階の式を微分すると 乗が出ます。

判定はヤコビ行列式が かどうか、その 行だけ。あとは、結論が局所に限られることを忘れないだけです。

参考文献

[1] が定理の主張・逆写像の微分・ 級が要る理由、[2] がヤコビ行列と行列式および極座標の例、[3] が陰関数定理との関係、[4] がフランス語での定式化と つの定理の同値性、[5] がドイツ語での記述です。

Inverse function theorem - Wikipedia
Jacobian matrix and determinant - Wikipedia
Implicit function theorem - Wikipedia
Théorème des fonctions implicites - Wikipédia
Satz von der impliziten Funktion - Wikipedia
$e^x\cos y$ と $e^x\sin y$ の組はどの点でもヤコビアンが $0$ になりませんが、$y$ を $2\pi$ ずらすと同じ点へ移ります。保証されるのは局所的な逆だけ。$14$ 問で、$1$ 変数の逆関数の微分、極座標と球座標のヤコビアン、複素の $2$ 乗と指数に対応する写像、$1$ 次変換で面積の拡大率と一致することの確認、逆写像の $2$ 階微分までを扱いました。$x^3$ のようにヤコビアンが $0$ でも逆が存在する例、$C^1$ 級を外すと $f'(0)=1$ でも単射にならない例も並べています。