ロピタルの定理の計算問題|不定形の変形と証明つきの適用条件
ロピタルの定理は、不定形の極限を導関数の比に置き換える。置き換えてよいかどうかは、置き換えた先の極限が存在するかで決まる。
向きを取り違えると誤用になる。仮定が「導関数の比の極限が存在する」で、結論が「もとの比の極限が存在して同じ値」である。逆向きには使えない。
定理の主張
と は を除いた近傍で微分可能とし、そこで とする。 のとき かつ であるか、または であるとする。
このとき、次の極限が存在すれば、もとの比の極限も存在して同じ値になる。
は でもよい。 は片側極限でも でもよい。
型の仮定は だけでよく、 の側は何も要らない。分子が発散するかどうかは結論に関係しない。
コーシーの平均値の定理
証明の土台になるのは、平均値の定理を 2 つの関数に広げた形である。
定理。 が で連続、 で微分可能、 で とする。このとき、ある が存在して次が成り立つ。
証明。 とロルの定理から である。次の関数を置く。
なので、ロルの定理から となる がある。これを書き直せば求める等式になる。
<svg viewBox="0 0 460 240" width="100%" style="max-width:460px;display:block;margin:0 auto">
<line x1="60" y1="210" x2="410" y2="210" stroke="#c8c8c8" stroke-width="1"></line>
<line x1="80" y1="190" x2="380" y2="80" stroke="#9a9a9a" stroke-width="1" stroke-dasharray="5 3"></line>
<polyline points="80,190 120,172 160,152 200,134 240,120 280,108 320,96 380,80" fill="none" stroke="#1f1f1f" stroke-width="2"></polyline>
<line x1="150" y1="170" x2="330" y2="104" stroke="#d0562a" stroke-width="1.5"></line>
<circle cx="80" cy="190" r="3" fill="#1f1f1f"></circle>
<circle cx="380" cy="80" r="3" fill="#1f1f1f"></circle>
<circle cx="240" cy="120" r="3" fill="#d0562a"></circle>
<text x="55" y="30" font-size="11" fill="#1f1f1f">点が描く曲線には、両端を結ぶ弦と平行な接線が必ずある</text>
<text x="286" y="76" font-size="11" fill="#9a9a9a">弦の傾きは両端の値の比</text>
<text x="150" y="196" font-size="11" fill="#d0562a">接線の傾きは導関数の比</text>
<text x="55" y="228" font-size="11" fill="#9a9a9a">横に g、縦に f を取って、同じ助変数で動かした図</text>
</svg>0 割る 0 の場合の証明
の場合を示す。 と定めれば、 と は で連続になる。
に対して区間 でコーシーの平均値の定理を使うと、 を満たす があって次が成り立つ。
のとき である。右辺は仮定から に近づくので、左辺も に近づく。左側極限も同じ議論でよい。
無限大割る無限大の場合の証明
こちらは と置けないので、同じ議論が通らない。 が有限の場合を示す。
を取る。 を に十分近く取り、 の上で となるようにする。
に対して区間 でコーシーの平均値の定理を使えば、次が成り立つ。
ここで次の恒等式を使う。右辺を展開すれば左辺に戻る。
を固定したまま とする。 だから、第 2 項は に近づき、第 1 項の後ろの因子は に近づく。
したがって を に十分近く取れば となる。 は任意なので結論を得る。
の挙動をどこにも使っていない。仮定に が要らないのはこのためである。
でも でもない形に定理を使うことはできない。分母だけが に行く場合や、値が確定している場合に形式的に微分すると、まったく違う答えが出る。
導関数の比が振動して極限を持たなくても、もとの比は極限を持つことがある。「微分したら極限がない」から「もとの極限もない」とは言えない。
不定形が や の形をしていないときは、まずその形に直す。
0 かける無限大
分数に書き直す
0 割る 0 か無限大割る無限大
指数の形の不定形は、対数を取ってから同じ流れに乗せる。
問題 1:繰り返し適用する
を求めよ。
解答 1
分子・分母ともに に収束するので 型である。導関数の比を作る。
これもまだ 型なので、もう一度導関数の比を作る。それも 型なので、さらにもう一度作る。
いちばん奥の極限が と確定したので、そこから手前へ順に極限の存在が保証される。
論理は奥から手前へ流れる。「まだ 型なので再度適用」と書くときも、実際に等号が確定するのは最後に極限が出た後である。
問題 2:指数関数と多項式の勝負
を正の整数とする。 を求めよ。
解答 2
分子・分母とも に発散する。導関数の比を作ると、分子の次数が 1 つ下がる。
回繰り返せば分子が定数になり、極限は である。奥から遡って、もとの極限も になる。
指数関数はどんな多項式よりも速く増える。この事実はあとの問題でも使う。
問題 3:0 かける無限大
を求めよ。
解答 3
と の積なので、そのままでは定理を使えない。分数に書き直す。
分母は に発散するので、 の形になった。導関数の比を作る。
したがって である。
を分母に回して としてもよいが、微分すると式が複雑になる。どちらを分母にするかで手間が変わる。
問題 4:無限大引く無限大
を求めよ。
解答 4
通分して 1 つの分数にする。
分子・分母とも に収束する。導関数の比を作る。
まだ 型なので、もう一度作る。
奥の極限が と確定したので、もとの極限も である。
引き算の不定形は、通分か共通因数のくくり出しで 1 つの分数にする。形を直すまでは定理を使えない。
問題 5:1 の無限大乗
を求めよ。
解答 5
と置き、対数を取る。指数の不定形は、この操作で積や商の形に落ちる。
分子・分母とも に収束するので、導関数の比を作る。
であり、指数関数は連続だから である。
ただしこの計算には注意がいる。 の導関数が であることを、 から導く流儀では、いま求めた極限をすでに使っていることになる。
を で定義しておけば、導関数は微分積分学の基本定理から出るので循環しない。定義の順序によって、この計算が証明になるかどうかが変わる。
問題 6:0 の 0 乗
を求めよ。
解答 6
と置いて対数を取る。
問題 3 で を示した。したがって である。
という記号自体は定義されないが、極限としては値が決まる場面がある。不定形とは「形だけでは決まらない」という意味であって、「決まらない」という意味ではない。
問題 7:無限大の 0 乗
を求めよ。
解答 7
対数を取ると になる。分子・分母とも に発散する。
より である。
問題 2 の一般形と同じで、対数は多項式より遅く増える。 はどんな でも に収束する。
問題 8:指数の底に変数を含む形
を実数とする。 を求めよ。
解答 8
対数を取る。 と置くと になる。
分子・分母とも に収束するので、導関数の比を作る。
したがって極限は である。 が問題 5 の形にあたる。
置換で変数を に寄せると、無限遠での計算が原点での計算に変わる。 を に移し替える常套手段である。
問題 9:対数どうしの比
を求めよ。
解答 9
分子・分母とも に発散する。定理が要求するのは だけなので、符号は問題にならない。
したがって極限は である。
で と は同じ速さで に行くので、対数を取った比は になる。定数倍や高次の差は、対数を通すと消える。
問題 10:テイラー展開と比べる
を求めよ。
解答 10
型が続くので、導関数の比を 3 回作る。
したがって極限は である。
同じ答えは展開からも読める。 を代入すると、分子の先頭が になる。
分子の低次の項がちょうど打ち消されている形なので、展開のほうが見通しがよい。何回微分することになるかも、展開を見れば先に分かる。
問題 11:使わないほうが速い例
を求めよ。
解答 11
定理を使ってもよいが、分子を因数分解したほうが速い。
既知の極限に分けて掛け合わせる。
導関数の比を 3 回作っても同じ答えになるが、 の 3 階微分を計算することになる。因数分解や既知の極限で崩せるなら、そちらが短い。
問題 12:導関数の比に極限がない例
を求めよ。
解答 12
型ではあるが、導関数の比は次のようになる。
これは と の間を振動し続けて極限を持たない。定理の仮定が満たされないので、ここから何も言えない。
もとの式は分けるだけで極限が出る。
導関数の比に極限がないことは、もとの比に極限がないことを意味しない。定理は片道であり、逆向きの推論はできない。
<svg viewBox="0 0 460 250" width="100%" style="max-width:460px;display:block;margin:0 auto">
<line x1="60" y1="90" x2="410" y2="90" stroke="#9a9a9a" stroke-width="1" stroke-dasharray="4 3"></line>
<polyline points="70,66 87,109 105,135 122,119 140,77 157,47 174,56 192,97 209,131 227,128 244,90 261,52 279,49 296,84 314,124 331,133 348,102 366,60 383,46 400,72" fill="none" stroke="#d0562a" stroke-width="1.5"></polyline>
<polyline points="70,52 87,70 105,88 122,99 140,99 157,92 174,86 192,84 209,88 227,92 244,94 261,92 279,89 296,87 314,88 331,91 348,93 366,92 383,90 400,88" fill="none" stroke="#1b81e0" stroke-width="1.5"></polyline>
<text x="55" y="26" font-size="11" fill="#1f1f1f">もとの比は 1 に落ち着くが、導関数の比は振動し続ける</text>
<text x="414" y="93" font-size="11" fill="#9a9a9a">1</text>
<line x1="70" y1="228" x2="92" y2="228" stroke="#1b81e0" stroke-width="1.5"></line>
<text x="98" y="232" font-size="11" fill="#1b81e0">もとの比</text>
<line x1="200" y1="228" x2="222" y2="228" stroke="#d0562a" stroke-width="1.5"></line>
<text x="228" y="232" font-size="11" fill="#d0562a">導関数の比</text>
</svg>問題 13:同じ形に戻ってしまう例
を求めよ。
解答 13
型なので導関数の比を作る。
分子と分母が入れ替わった形になった。もう一度作ると元に戻る。何回繰り返しても終わらない。
もとの式を変形すれば一目で分かる。
定理が使えることと、使って答えに近づくことは別である。堂々巡りになったら、変形に切り替える。
問題 14:証明が循環する例
に定理を使ってよいか。
解答 14
形式的には 型で、導関数の比は となり、正しい答えが出る。
しかし の導関数が であることの証明に、まさにこの極限を使う流儀が多い。その順序で組み立てているなら、これは証明になっていない。
をべき級数で定義すれば、導関数は項別微分から出るので循環しない。問題 5 と同じ構図で、定義の順序が答えを決める。
正しい答えが出ることと、証明として通っていることは別である。
問題 15:不定形でないのに使う誤用
を、導関数の比で計算するとどうなるか。
解答 15
形式的に導関数の比を作ると次のようになる。
でこれは発散する。ところが、もとの式は単に代入すれば値が出る。
分子は 、分母も に収束していて、そもそも不定形ではない。定理の仮定を確かめずに手を動かすと、こうして違う答えに着く。
不定形かどうかの確認は、計算の前に必ず行う。
問題 16:繰り返しても終わらない例
を正の整数とする。 を求めよ。
解答 16
型だが、分子を微分すると となり、 の負べきが増える。繰り返すほど式が悪くなる。
置換に切り替える。 と置くと で であり、 である。
では だから である。したがって右辺は 以下になり、問題 2 からこれは に収束する。求める極限は である。
どんな を取っても になる。この関数は原点で無限回微分可能で、導関数がすべて になるという有名な例を与える。
問題 17:展開のほうが早い例
を求めよ。
解答 17
問題 5 から分子は に収束するので 型である。ただし を微分すると式が膨らむ。
指数の形に直して、肩の部分を展開する。 から次が出る。
なので、 をくくり出す。
より中央の因子は に近づき、右の因子は に近づく。
不定形を見たら反射的に微分する、という手順に乗せないほうがよい場面がある。分子の形を先に見て、展開で崩せるかを確かめる。









