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閉じているか縁があるか……発散定理とストークスの定理の使い分け

単位球面を通る の流量は です。面積分を直接組み立てると法線ベクトルの計算から始まりますが、発散を計算すると で、体積を掛けるだけで終わります。

どちらの定理を使うかは、曲面が閉じているかどうかで決まります。閉じていれば発散定理、縁があればストークスの定理です[1,2]。

以下は 問です。面積分の定義から始め、 つの定理、直接計算との突き合わせ、適用条件が崩れる場合まで並べました。

どちらを使うか

つの定理は、置きかえる先が違います。

発散定理

閉じた曲面上の流量を、囲む立体上の重積分に置きかえる。次元が 上がる

ストークスの定理

縁に沿う線積分を、張った曲面上の面積分に置きかえる。次元が 上がる

どちらも「境界の上の積分」を「中身の上の積分」に直す形です。次元を つ下げた微分積分学の基本定理、と読めます。

面積要素は曲面の表し方で決まります。 なら次の形です[3]。

問題 1:スカラー場の面積分

を計算せよ。 は の の部分とする。

解答 1

で 、 です。面積要素は になります[3]。

極座標に移します。領域は です。

と置くと です。

値は です。 の と面積要素の根号を両方入れる点が要になります。

問題 2:向きと流量

について、 の正方形(上向き法線)を通る流量を求めよ。

解答 2

平面上では 、 です。

で、この面では になります。

場が面に沿っていれば流量は です。法線方向の成分だけが効きます。

問題 3:発散定理

について、単位球面を通る流量を求めよ。

解答 3

発散は です。閉じた曲面なので発散定理が使えます[1]。

直接計算でも出ます。球面上では が法線と同じ向きで、大きさが です。表面積 を掛けて同じ値になります。

問題 4:立方体

について、 の立方体の表面を通る流量を求めよ。

解答 4

面が つあるので、直接計算では 回の面積分になります。発散定理で 回に減らします。

対称性から 項が等しく、それぞれ です。面の数が多いほど、定理を使う利点が大きくなります。

問題 5:ストークスの定理

について、 平面上の単位円に沿う線積分を求めよ。

解答 5

回転を計算します[2]。

縁に張る曲面として単位円板をとります。法線は上向きで です。

線積分が面積分に置きかわりました。回転が定数なので、面積を掛けるだけで済みます。

問題 6:直接計算で確かめる

問題 を媒介変数表示で計算せよ。

解答 6

、 です。

になります。

一致しました。定理を使う前に、簡単な例で突き合わせておくと符号の規約を確かめられます。

問題 7:縁が同じなら曲面は選べる

について、単位円を縁とする上半球面上で を求めよ。

解答 7

回転は です。ストークスの定理から、縁に沿う線積分に等しくなります[2]。

縁は問題 と同じ単位円なので、値も です。

半球面でも円板でも同じ値になります。縁が同じなら、張る曲面はどれを選んでもよい。

計算が楽な曲面を選べる。そこがこの定理の使いどころです。

問題 8:平面上の三角形

について、()の縁に沿う線積分を求めよ。

解答 8

回転を計算します。

平面の単位法線は です。内積は になります。

三角形は 辺 の正三角形で、面積は です。

法線の向きを逆にとれば符号が変わります。縁を回る向きと右手系になるほうを選びます[2]。

問題 9:体積を面積分で出す

を使って、半径 の球の体積を求めよ。

解答 9

発散は なので、発散定理から次が成り立ちます。

球面上では が外向き法線と同じ向きで、大きさが です。

問題 の線積分による面積公式と同じ構図です。境界の情報だけから中身の量が出ます。

問題 10:流量がつねに 0 になる条件

任意の閉曲面で流量が になるのはどんな場合か。

解答 10

発散定理から、任意の で が成り立つことになります。

が連続なら、これは を意味します。どこかで正なら、その近くの小さい球で積分が正になるからです。

の形なら、恒等的に です[1]。回転の発散は必ず消えます。

流体で言えば、湧き出しも吸い込みもない状態にあたります。非圧縮の条件と呼ばれる形です。

問題 11:開いた曲面に発散定理を当てる

について、 の単位円板だけを通る流量を、発散定理で求めようとするとどうなるか。

解答 11

発散は です。囲む体積が定まらないので、そのままでは定理が使えません[1]。

円板は閉じていない曲面です。定理の仮定を満たしていない。

閉じるには蓋が要ります。円柱 、 の全表面をとれば閉じます。

底面と側面の寄与を引けば、上面だけの流量が出ます。底面は で 、側面は法線が水平で内積が です。よって上面の流量が になります。

閉じていない曲面には、まず蓋を足して閉じる。これが基本の手です。

問題 12:向きの規約

ストークスの定理で、縁を回る向きと曲面の法線の関係を述べよ。

解答 12

右手系にそろえます。右手の親指を法線の向きに立てたとき、残りの指の巻く向きが縁を回る向きです[2]。

どちらか一方を逆にすると、等式の両辺の符号が合いません。片方だけ反転させる誤りが多いところです。

問題 で法線を にとれば、線積分の向きも逆になり、値は になります。

定理そのものは向きの選び方によりません。 つをそろえてさえいれば、どちらでも正しい等式です。

問題 13:特異点がある場合

について、原点を囲む球面を通る流量を求めよ。

解答 13

原点以外では発散が になります。それでも流量は ではありません。

球面上では が外向きで大きさが 、表面積が です。

半径によりません。発散定理が使えないのは、原点で場が定義されないためです[1]。

囲む立体の中に特異点があるかどうかを、定理を当てる前に確かめます。線積分での渦の場と同じ構図です。

問題 14:2 つの定理をつなぐ

ストークスの定理を閉じた曲面に当てるとどうなるか。

解答 14

閉じた曲面には縁がありません。線積分の側が消えます。

一方で発散定理からも同じ結論が出ます。 だからです。

つの定理が同じ事実を別の道から言っています。閉じた曲面を上下に割って考えると、共通の縁での線積分が向き違いで打ち消し合う形です。

問題 15:どちらの定理も使えない場合

が連続微分可能でないとき、 つの定理はどうなるか。

解答 15

どちらも仮定に 級を置いています[1,2]。満たされなければ結論は保証されません。

問題 がその例です。原点を除けばなめらかですが、原点を含む領域では成り立たない。

対処は 通りあります。特異点を小さい球で抜いて領域を作り直すか、極限として値を定義するかです。

前者では抜いた球面の寄与が残り、それが にあたります。電磁気でガウスの法則が点電荷に対して成り立つのは、この形です。

つまずきやすいところ

適用条件と向きで誤ります。

開いた曲面に発散定理を当てる

閉じていることが仮定です。蓋を足して閉じてから使います。

向きを片方だけ反転させる

縁を回る向きと法線は右手系でそろえます。

面積要素の根号を落とす

なら が掛かります。

領域の中の特異点を見落とす

のように、発散が でも流量が残る場があります。

閉じているか、向きはそろっているか、中に特異点はないか。この つを確かめてから定理を当てます。

について、半径 の球面を通る流量はどれですか。

__RESULT__

発散は です。球の体積は なので、 を掛けて になります。

よくある誤り

開いた曲面に発散定理を当てる。閉じていることが仮定です。
縁を回る向きと法線の向きを別々に決める。右手系にそろえます。
面積要素の根号を落とす。 では が掛かります。
極座標で の を落とす。面積要素の根号とは別に必要です。
発散が なら流量も だと決める。領域の中の特異点を確かめます。
ストークスの定理で曲面を選び直せないと思う。縁が同じなら値は同じです。
級の仮定を確かめない。特異点があると結論が変わります。

閉じているかどうかで定理が決まり、向きで符号が決まる。計算そのものは、そのあとの話です。

参考文献

[1] が発散定理の主張と仮定・湧き出しとしての読み方、[2] がストークスの定理と向きの規約、[3] が面積分と面積要素の公式、[4] がドイツ語での定式化、[5] がガウスの法則と点電荷です。

Divergence theorem - Wikipedia
Stokes' theorem - Wikipedia
Surface integral - Wikipedia
Satz von Gauß - Wikipedia
Gauss's law - Wikipedia
単位球面を通る $(x,y,z)$ の流量は、法線を組み立てなくても発散が $3$ と分かれば体積を掛けるだけで $4\pi$ が出ます。閉じていれば発散定理、縁があればストークスの定理。$15$ 問で、面積要素の根号と極座標の $r$ を両方入れること、右手系で向きをそろえること、縁が同じなら曲面を選び直せることを扱いました。開いた曲面には蓋を足して閉じます。発散が $0$ でも流量が $4\pi$ 残る $\frac{\mathbf{r}}{|\mathbf{r}|^3}$ のように、領域の中の特異点で結論が変わる場合まで並べています。