偏差値でわかる標準正規分布|z スコアから確率計算・信頼区間までわかりやすく解説
試験の点数、身長、測定の誤差。世の中の多くのばらつきは、平均のまわりに山なりに集まる釣鐘型の分布に近い形をしています。これを表すのが正規分布です。
正規分布は平均 と分散 の 2 つで決まり、無数の種類があります。ところがそのすべては、たった 1 つの分布を平行移動して拡大縮小しただけの姿だと見抜けます。その基準になる 1 つが、平均 0・分散 1 の標準正規分布です。
標準化という操作で任意の正規分布を標準正規分布に移せば、確率の計算を 1 枚の数表に集約できます。この記事はその仕組みを、例を数多く挙げながら追います。
正規分布のおさらい
確率変数 が平均 、分散 の正規分布に従うことを と書きます。その確率密度関数は次の形です。
は山の中心の位置、 は山の広がりの幅を決めます。 を変えると山は左右に動き、 を大きくすると山は低く広がり、小さくすると高く尖ります。
密度関数なので、曲線と横軸で囲まれた全面積は必ず 1 です。 がある区間に入る確率は、その区間の上の面積として表されます。
標準正規分布の定義
この山の中でいちばん素朴なのが、中心が原点で幅が 1 のものです。
平均 0、分散 1 の正規分布を標準正規分布という。確率変数 がこれに従うことを と書く。その密度関数は
標準正規分布の密度は (ファイ)、次に出てくる累積分布関数は (大文字ファイ)で表すのが慣例。
一般の の式で 、 とすれば、ちょうどこの になります。標準正規分布は正規分布の一族の中の 1 つの特別な要素です。
密度関数の形
の形をつかんでおきます。指数の肩が で、 は の符号によらないので、グラフは に関して左右対称です。
最大値は原点でとります。 のとき指数部分が 1 になるので、値は次のとおりです。
原点から離れるほど値は急速に小さくなり、 で 0 に近づきます。裾は 0 に触れることなくどこまでも続きます。
<div class="sn-fig">
<svg viewBox="0 0 460 240" xmlns="http://www.w3.org/2000/svg" role="img" aria-label="標準正規分布の釣鐘型の密度曲線。原点で最大 0.399、左右対称。">
<rect x="0" y="0" width="460" height="240" rx="10" fill="#fafbfc"/>
<line x1="30" y1="200" x2="440" y2="200" stroke="#9aa3ad" stroke-width="1"/>
<line x1="235" y1="30" x2="235" y2="205" stroke="#c7ccd3" stroke-width="1" stroke-dasharray="4 4"/>
<path d="M 40 199 C 120 197, 175 188, 205 150 C 222 128, 228 60, 235 60 C 242 60, 248 128, 265 150 C 295 188, 350 197, 430 199" fill="#3468d6" fill-opacity="0.12" stroke="#1b4fb8" stroke-width="2.4"/>
<line x1="175" y1="200" x2="175" y2="188" stroke="#9aa3ad" stroke-width="1"/>
<line x1="295" y1="200" x2="295" y2="188" stroke="#9aa3ad" stroke-width="1"/>
<circle cx="235" cy="60" r="3" fill="#1b4fb8"/>
<g font-family="ui-sans-serif, system-ui, sans-serif" font-size="12.5" fill="#1b1d22" stroke="#fafbfc" stroke-width="3.2" paint-order="stroke">
<text x="243" y="58" fill="#1b4fb8">0.399</text>
<text x="231" y="219">0</text>
<text x="168" y="219">−1</text>
<text x="290" y="219">1</text>
<text x="392" y="185" fill="#5b6370">φ(z)</text>
</g>
</svg>
</div>.sn-fig { margin: 0; text-align: center; }
.sn-fig svg { width: 100%; max-width: 460px; height: auto; }対称性から、平均・中央値・最頻値はいずれも 0 で一致します。左右のどちらに偏ることもない、つり合いのとれた分布です。
変曲点は
標準正規分布では、標準偏差 が曲線の形に直接現れます。曲線の曲がり方が変わる変曲点が、ちょうど にあるのです。
を 2 回微分すると となり、これが 0 になるのは のときです。 では上に凸、 では下に凸に変わります。
つまり山の肩のあたり、傾きがいちばん急な位置が標準偏差 1 個分に対応します。標準偏差が図形的に「どこか」を、この点が教えてくれます。
全確率は 1 になる
密度関数である以上、全区間の積分は 1 でなければなりません。標準正規分布でこれを確かめると、有名なガウス積分に行き着きます。
分母の は、この積分を 1 にそろえるための規格化定数です。 だけを積分すると になるので、それで割ってつじつまを合わせています。
裾が無限に続いても面積は発散せず、ちょうど 1 に収まります。だからこそ確率分布として使えます。
と で曲線はどう動くか
一般の正規分布は、この標準の釣鐘を動かして作れます。 が位置を、 が横幅と高さを支配します。
を右へずらせば山ごと右へ平行移動します。形は変わりません。 を 2 倍にすれば横に 2 倍伸び、面積を 1 に保つために高さは半分になります。
この「位置」と「スケール」の 2 つのつまみだけで、あらゆる正規分布が標準正規分布から得られます。標準化は、このつまみを逆に回して基準の姿へ戻す操作にほかなりません。
なぜ標準化するのか
正規分布は と の組ごとに無数にあります。確率を求めるたびに を計算し直すのは現実的ではありません。しかもこの積分は初等関数で書けません。
そこで発想を変えます。すべての正規分布を 1 つの標準正規分布に変換してしまえば、必要な数表は の 1 枚だけで済みます。
その変換が標準化です。位置とスケールのつまみを基準へ戻すことで、 の問題を の問題に翻訳します。
標準化の定義
具体的な変換は、平均を引いて標準偏差で割るだけです。
のとき、次の変換で得られる は標準正規分布 に従う。
で中心を 0 に移し、 で割って散らばりを 1 にそろえる。位置合わせと拡大縮小の 2 段構え。
で山の中心を原点へ動かし、 で割って幅を 1 にします。定義のところで見た「位置」と「スケール」の 2 つのつまみを、順に基準へ戻しているわけです。
z スコアの意味
標準化した値 には、はっきりした読み方があります。
は、 が平均から標準偏差何個分だけ離れているかを表します。 なら平均より標準偏差 2 個分だけ上、 なら標準偏差 1.5 個分だけ下、という意味です。
この を z スコア(標準得点)と呼びます。単位が違う量どうしでも、標準偏差を物差しにそろえるので、平均からの隔たりを共通の尺度で比べられるようになります。
標準化は平行移動と拡大縮小
標準化を図で見ると、山を原点へ運んで幅を整える操作だとわかります。
<div class="sn-fig">
<svg viewBox="0 0 470 240" xmlns="http://www.w3.org/2000/svg" role="img" aria-label="平均ミューの広い正規分布を、平行移動と拡大縮小で標準正規分布に変換する図。">
<rect x="0" y="0" width="470" height="240" rx="10" fill="#fafbfc"/>
<line x1="30" y1="200" x2="445" y2="200" stroke="#9aa3ad" stroke-width="1"/>
<path d="M 60 199 C 110 196, 150 182, 185 176 C 210 172, 210 120, 235 120 C 260 120, 260 172, 285 176 C 320 182, 360 196, 410 199" fill="#e5484d" fill-opacity="0.10" stroke="#c93c41" stroke-width="2.2"/>
<path d="M 175 199 C 210 197, 226 150, 235 92 C 240 66, 243 66, 248 92 C 258 150, 272 197, 300 199" fill="#3468d6" fill-opacity="0.12" stroke="#1b4fb8" stroke-width="2.2"/>
<line x1="235" y1="200" x2="235" y2="188" stroke="#9aa3ad" stroke-width="1"/>
<path d="M 150 150 q 40 -22 80 0" fill="none" stroke="#5b6370" stroke-width="1.4" marker-end="url(#ar)"/>
<defs><marker id="ar" markerWidth="8" markerHeight="8" refX="6" refY="3" orient="auto"><path d="M0,0 L6,3 L0,6 z" fill="#5b6370"/></marker></defs>
<g font-family="ui-sans-serif, system-ui, sans-serif" font-size="12.5" fill="#1b1d22" stroke="#fafbfc" stroke-width="3.2" paint-order="stroke">
<text x="118" y="182" fill="#c93c41">X 〜 N(μ, σ²)</text>
<text x="250" y="80" fill="#1b4fb8">Z 〜 N(0, 1)</text>
<text x="228" y="219">0</text>
<text x="150" y="140" fill="#5b6370">標準化</text>
</g>
</svg>
</div>.sn-fig { margin: 0; text-align: center; }
.sn-fig svg { width: 100%; max-width: 470px; height: auto; }もとの分布がどんなに広くても偏っていても、標準化の後は必ず同じ 1 つの釣鐘に重なります。暗い配色のテーマでは 2 本の曲線が見分けにくいかもしれません。
標準化で になる理由
なぜ引いて割るだけで標準正規分布になるのか。決め手は、正規分布が線形変換で閉じている性質です。
を定数 で と変換すると、これもまた正規分布に従い、平均と分散は次のようになります。
標準化は 、 の場合です。新しい平均は 、新しい分散は 。たしかに になります。
変数変換で確かめる
密度関数のレベルでも確認できます。 の逆変換は で、 です。
の密度 にこれを代入し、 を掛けます。指数の肩は に化け、前の どうしが打ち消し合います。
右辺はまさに標準正規分布の密度です。ヤコビアン が規格化をちょうど整える役を果たしています。
例: z スコアを計算する
具体的な数で試します。ある集団の身長が 、つまり平均 170 cm・標準偏差 6 cm の正規分布に従うとします。
身長 182 cm の人の z スコアを求めます。標準化の式に入れるだけです。
この人は平均より標準偏差 2 個分だけ高い、と読めます。同じ集団で 164 cm なら で、標準偏差 1 個分だけ低いことになります。
偏差値は標準化そのもの
日本でおなじみの偏差値は、標準化を少し化粧しただけのものです。z スコアを 10 倍して 50 を足したものが偏差値で、これを と書きます。
平均点の人は なので偏差値 50、標準偏差 1 個分だけ上の人は偏差値 60 です。負の z スコアを避けて 50 を中心にそろえ、扱いやすい 2 桁の数にするための変換になっています。
中身は標準化と同じなので、偏差値の背後には必ず「平均から標準偏差何個分か」という z スコアが隠れています。
例: 偏差値を計算する
数学のテストが平均 60 点・標準偏差 15 点、つまり だったとします。
90 点をとった人の偏差値を求めます。まず z スコアを出します。
これを偏差値の式に入れて 。偏差値 70 です。平均点の人なら で偏差値 50、45 点なら で偏差値 40 になります。
累積分布関数
確率を求めるには、密度をどこまでか足し上げた量が要ります。それが累積分布関数です。標準正規分布では で表します。
は が 以下になる確率で、密度を から まで積分したもの。
は密度曲線の下、 より左側の面積にあたる。全面積が 1 なので は 0 から 1 まで動く。
は を右へ動かすほど増え、 で 0、 で 1 に近づきます。曲線の左側の面積が、左端から右へなめていくにつれて溜まっていく様子です。
初等関数では書けない
には、多項式や指数・対数の組み合わせで書ける閉じた式がありません。 の原始関数が初等関数の範囲に存在しないからです。
その代わり、誤差関数 という特殊関数を使えば表せます。
実務では、この値を数表として持っておくか、ソフトウェアに計算させます。手計算で を求めることはなく、表かコンピュータに頼るのが前提です。
対称性を使う
数表はふつう の部分しか載せません。負の側は対称性から出せるからです。
密度 が左右対称なので、次の関係が成り立ちます。
左側の裾の面積は、右側の裾の面積に等しい、という意味です。たとえば のように、正の側の値だけから負の側がわかります。中心では で、左右にちょうど半分ずつ分かれます。
の主な値
よく使う値を並べておきます。以下の例では、この小さな表とその対称性だけで足ります。
| z = 0.00 | Φ(z) = 0.5000 |
| z = 0.50 | Φ(z) = 0.6915 |
| z = 1.00 | Φ(z) = 0.8413 |
| z = 1.50 | Φ(z) = 0.9332 |
| z = 1.96 | Φ(z) = 0.9750 |
| z = 2.00 | Φ(z) = 0.9772 |
| z = 2.58 | Φ(z) = 0.9951 |
| z = 3.00 | Φ(z) = 0.9987 |
たとえば で という値は、あとで信頼区間の話に効いてきます。表になくても、対称性と組み合わせれば多くの確率が求まります。
数表とソフトの使い方
数表(z 表)は縦軸に の小数第 1 位まで、横軸に第 2 位を取り、交点に を載せるのが定番です。 なら「1.9 の行」と「.06 の列」の交点を読みます。
いまはソフトを使うのが速く、Python なら誤差関数から を組み立てられます。この記事の最後にそのコードを載せます。表を読むにせよ計算させるにせよ、やることは「 を決めて を引く」の一手です。
区間の確率の公式
標準化と を組み合わせると、任意の正規分布の区間確率が一本の式で書けます。
のとき、 の両端を標準化して の差をとります。
区間の上端と下端をそれぞれ z スコアに直し、対応する の値を引き算するだけです。これで正規分布の確率計算が、標準正規分布の数表引きに帰着します。
例: 区間の確率を求める
さっそく使います。数学のテストが 、平均 60 点・標準偏差 10 点だとします。
50 点以上 75 点以下の割合を求めます。両端を標準化します。
よって求める確率は です。対称性から なので
約 77% がこの範囲に入る、とわかります。
経験則: 68-95-99.7
正規分布には、数表を引かなくても確率を暗算できる便利な目安があります。経験則、または 68-95-99.7 則と呼ばれます。
正規分布では、平均から標準偏差 1 個分・2 個分・3 個分の範囲に、それぞれ全体の約 68%・95%・99.7% が入る。
、、 ということ。
標準化してしまえば、どの正規分布でも同じ 3 つの数が使えます。、、 の区間に入る割合が、順に 68%・95%・99.7% です。
経験則を面積で見る
3 つの割合は、密度曲線の下の面積として重なって見えます。
<div class="sn-fig">
<svg viewBox="0 0 480 270" xmlns="http://www.w3.org/2000/svg" role="img" aria-label="標準正規分布の曲線と、プラスマイナス1・2・3シグマの範囲に入る68・95・99.7パーセントを示す図。">
<rect x="0" y="0" width="480" height="270" rx="10" fill="#fafbfc"/>
<line x1="30" y1="190" x2="450" y2="190" stroke="#9aa3ad" stroke-width="1"/>
<path d="M 55 189 C 110 187, 150 176, 180 130 C 208 78, 220 50, 240 50 C 260 50, 272 78, 300 130 C 330 176, 370 187, 425 189" fill="#3468d6" fill-opacity="0.12" stroke="#1b4fb8" stroke-width="2.3"/>
<g stroke="#5b6370" stroke-width="1" stroke-dasharray="4 3">
<line x1="180" y1="190" x2="180" y2="124"/>
<line x1="300" y1="190" x2="300" y2="124"/>
<line x1="120" y1="190" x2="120" y2="171"/>
<line x1="360" y1="190" x2="360" y2="171"/>
<line x1="60" y1="190" x2="60" y2="185"/>
<line x1="420" y1="190" x2="420" y2="185"/>
</g>
<g stroke="#1b4fb8" stroke-width="1.3" fill="none">
<path d="M 180 210 L 180 216 L 224 216"/>
<path d="M 256 216 L 300 216 L 300 210"/>
</g>
<g stroke="#3468d6" stroke-width="1.3" fill="none">
<path d="M 120 230 L 120 236 L 224 236"/>
<path d="M 256 236 L 360 236 L 360 230"/>
</g>
<g stroke="#8a94a3" stroke-width="1.3" fill="none">
<path d="M 60 250 L 60 256 L 222 256"/>
<path d="M 258 256 L 420 256 L 420 250"/>
</g>
<g font-family="ui-sans-serif, system-ui, sans-serif" font-size="12" fill="#3a3f47">
<text x="57" y="204">−3</text>
<text x="117" y="204">−2</text>
<text x="177" y="204">−1</text>
<text x="237" y="204">0</text>
<text x="297" y="204">1</text>
<text x="357" y="204">2</text>
<text x="417" y="204">3</text>
</g>
<g font-family="ui-sans-serif, system-ui, sans-serif" font-size="12.5" text-anchor="middle">
<text x="240" y="220" fill="#1b4fb8">68%</text>
<text x="240" y="240" fill="#3468d6">95%</text>
<text x="240" y="260" fill="#5b6370">99.7%</text>
</g>
</svg>
</div>.sn-fig { margin: 0; text-align: center; }
.sn-fig svg { width: 100%; max-width: 480px; height: auto; }内側の狭い帯に 68%、その外まで広げて 95%、さらに外まで含めてようやく 99.7% です。3 個分を超える外側はわずか 0.3% しか残りません。
厳密な値
68・95・99.7 は覚えやすく丸めた数で、Wikipedia の 68–95–99.7 rule の項にある厳密な値は少しだけ違います。
たとえば は と計算できます。暗算には丸めた値で十分ですが、厳密な確率が要るときは数表の から出します。
例: 経験則で暗算する
身長が 、平均 170 cm・標準偏差 6 cm の集団を考えます。数表なしで見当をつけます。
標準偏差 6 cm を単位に区切ると、 は 164〜176 cm で、ここに約 68% が入ります。 は 158〜182 cm で約 95%、 は 152〜188 cm で約 99.7% です。
さらに片側だけも出せます。176 cm 以上の割合は、中央から上半分 50% のうち の 34% を除いた残りで、約 16% と暗算できます。
95% は ではなく
経験則の 95% は、正確には標準偏差 2 個分ではありません。ちょうど 95% になる z の値は 1.96 です。
なので、 ちょうどになります。一方 だと で、95% よりわずかに広い範囲です。
統計の信頼区間で 1.96 という半端な数が現れるのはこのためです。暗算では 2、正確な 95% が要るときは 1.96 と使い分けます。
分位点
逆に、確率を先に決めて z を求めることもよくあります。 となる を上側・下側の分位点と呼びます。
よく使う値は次のとおりです。 を与える 、 を与える 、 を与える 。
これらは片側 5%・両側 5%・片側 1% といった基準に対応し、検定や区間推定で繰り返し登場します。数表を逆に引く、つまり中身の確率から を探す使い方です。
確率計算の型
ここからは応用です。正規分布の確率は、いつも同じ 3 手順で求まります。
区間の両端を z スコアに直す
数表で の値を引く
の差または補数をとる
求める確率を得る
上側確率 なら 、下側確率 なら そのもの、区間確率なら の差、という具合に最後の一手だけ変わります。どの問題も標準化して数表を引く形に落ちます。
例: 上側確率
製品の重さが 、平均 500 g・標準偏差 20 g だとします。530 g 以上の製品の割合を求めます。
下端 530 を標準化すると です。上側なので の補数をとります。
約 6.7% が 530 g 以上、とわかります。上側確率は「1 から引く」だけの違いです。
例: 下側確率
電池の寿命が 、平均 1000 時間・標準偏差 50 時間とします。920 時間以下で切れる割合を求めます。
標準化すると です。下側確率は をそのまま使い、対称性で負の側に直します。
約 5.5% がこの寿命を下回ります。負の z でも、対称性を挟めば正の側の数表で足ります。
例: 規格と不良率
部品の径が 、平均 50 mm・標準偏差 2 mm とします。規格は 47 mm 以上 53 mm 以下で、これを外れると不良品です。
両端を標準化すると と です。良品の割合は の差で求まります。
良品は約 86.6%、残る約 13.4% が不良です。中央の帯が良品、両裾が不良にあたります。
<div class="sn-fig">
<svg viewBox="0 0 460 235" xmlns="http://www.w3.org/2000/svg" role="img" aria-label="規格の下限と上限で区切られた正規分布。中央が良品86.6パーセント、両裾が不良それぞれ6.7パーセント。">
<rect x="0" y="0" width="460" height="235" rx="10" fill="#fafbfc"/>
<line x1="30" y1="195" x2="430" y2="195" stroke="#9aa3ad" stroke-width="1"/>
<path d="M 45 194 C 110 192, 150 176, 185 120 C 210 70, 220 55, 230 55 C 240 55, 250 70, 275 120 C 310 176, 350 192, 415 194" fill="#3468d6" fill-opacity="0.13" stroke="#1b4fb8" stroke-width="2.3"/>
<path d="M 45 194 C 90 193, 130 184, 163 152 L 163 195 Z" fill="#e5484d" fill-opacity="0.16" stroke="none"/>
<path d="M 297 152 C 330 184, 370 193, 415 194 L 297 195 Z" fill="#e5484d" fill-opacity="0.16" stroke="none"/>
<g stroke="#c93c41" stroke-width="1.4" stroke-dasharray="4 3">
<line x1="163" y1="195" x2="163" y2="150"/>
<line x1="297" y1="195" x2="297" y2="150"/>
</g>
<g font-family="ui-sans-serif, system-ui, sans-serif" font-size="12" fill="#3a3f47">
<text x="156" y="209">47</text>
<text x="224" y="209">50</text>
<text x="291" y="209">53</text>
</g>
<g font-family="ui-sans-serif, system-ui, sans-serif" font-size="12.5" text-anchor="middle" stroke="#fafbfc" stroke-width="3" paint-order="stroke">
<text x="230" y="150" fill="#1b4fb8">良品 86.6%</text>
<text x="97" y="180" fill="#c93c41">6.7%</text>
<text x="363" y="180" fill="#c93c41">6.7%</text>
</g>
</svg>
</div>.sn-fig { margin: 0; text-align: center; }
.sn-fig svg { width: 100%; max-width: 460px; height: auto; }逆問題: 割合から値を求める
これまでは値を決めて確率を求めました。逆に、割合を先に決めて境目の値を求めることもよくあります。
手順は逆回しです。まず求める割合に対応する分位点 を数表から探し、それを で元の単位に戻します。標準化 を について解いた形です。
上位何 % の基準点はどこか、といった問いがこの形です。次の例で使います。
例: 上位 10% の基準点
ある模試の得点が 、平均 500 点・標準偏差 100 点とします。上位 10% に入る基準点を求めます。
上位 10% は下側 90% の境目なので、 となる分位点を探します。数表から です。これを元の単位に戻します。
628 点が上位 10% の境目です。確率から出発して値にたどり着く、逆向きの計算になっています。
例: 偏差値 70 は上位何 %
偏差値の意味も、標準化で明快になります。偏差値 70 が全体のどのあたりかを求めます。
偏差値 70 は より です。上側の割合を出します。
偏差値 70 は上位約 2.3% にあたります。同じように偏差値 60 は で上位約 16%、偏差値 40 は で下位約 16% です。
例: 異なるテストを比べる
素点そのままでは比べられない成績も、標準得点にそろえると比較できます。太郎さんの結果を見ます。
数学は平均 70・標準偏差 15 のテストで 85 点、英語は平均 60・標準偏差 8 のテストで 76 点でした。素点では数学 85 点の方が高く見えます。z スコアに直します。
素点 85 点。 で、平均より標準偏差 1 個分だけ上。
素点 76 点。 で、平均より標準偏差 2 個分だけ上。
集団の中での位置で見ると、英語の方が上位です。標準化は、平均も散らばりも違うものを共通の物差しに載せる操作だ、とこの例が示しています。
なぜ正規分布があちこちに現れるのか
そもそも、なぜ多くの現象が正規分布に近づくのでしょうか。背景にあるのが中心極限定理です。
中心極限定理は、独立な多数の要因の和が、個々の分布によらず正規分布に近づくことを主張します。身長や測定誤差のように、小さな影響が積み重なって決まる量は、この定理により正規分布に寄っていきます。
しかもその和を標準化した は、 を大きくすると標準正規分布に収束します。標準正規分布が統計の中心に居座るのは、この収束先だからです。
検定と信頼区間への入り口
標準化は、推測統計の道具立てにそのままつながります。分位点 がここで働きます。
標本平均 を標準化した量が近似的に に従うことを使うと、母平均 の 95% 信頼区間は次の形になります。
先に見た「95% は 」がここに現れます。仮説検定で棄却域を と定めるのも同じ根拠です。標準正規分布の分位点が、推測の基準線を与えています。
正規分布でないものに使う注意
標準化はどんな分布にも形式的に適用できますが、 の数表が使えるのは元が正規分布のときだけです。
標準化それ自体は平均を引いて標準偏差で割るだけなので、どんな確率変数にも施せて、平均 0・分散 1 にはできます。しかし分布の形までは変わりません。元が正規分布でなければ、標準化しても にはならず、 で確率を読むのは誤りです。
強い歪みや外れ値のあるデータに 68-95-99.7 則を当てるのも危険です。経験則は正規分布に固有の性質なので、まず正規分布とみなせるかを確かめる姿勢が要ります。
標準化の歴史
標準正規分布は、確率論と誤差論の歩みの中で中心的な位置を得ました。
アブラーム・ド・モアブルが、二項分布を大きな で近似する曲線として正規分布の形を導いた。
ピエール=シモン・ラプラスが誤差の和の分布を研究し、中心極限定理へとつながる結果を示した。
カール・フリードリヒ・ガウスが観測誤差の理論に用い、最小二乗法と結びつけた。以後ガウス分布とも呼ばれる。
正規分布という名の「正規(normal)」は、もともと最小二乗法の正規方程式に由来する「直交する」の意味でした。それがのちに「普通の・典型的な」と解釈され、今の語感になっています。
Python で を計算する
数表を引く代わりに、誤差関数から を組み立てられます。標準ライブラリの math.erf だけで足ります。
import math
def Phi(z):
# 標準正規分布の累積分布関数
return 0.5 * (1 + math.erf(z / math.sqrt(2)))
# 主な値
for z in [0.0, 1.0, 1.5, 1.96, 2.0, 3.0]:
print(z, round(Phi(z), 4))
# 経験則 P(|Z| <= k) = Phi(k) - Phi(-k)
for k in [1, 2, 3]:
print(k, round(Phi(k) - Phi(-k), 4))前半は などの数表の値を、後半は経験則の 0.6827・0.9545・0.9973 を再現します。 が使える環境なら、数表なしで任意の の確率を出せます。
理解の確認
最後に 1 問。標準正規分布の代表的な値を思い出してください。
標準正規分布 で、 に最も近いのはどれですか。
- 0.05
- 0.025
- 0.5
- 0.95














Φ(1.96)=0.975 なので P(Z≥1.96)=1−0.975=0.025 です。両側に等しく分ければ合計 5%、片側 2.5% にあたり、95% 信頼区間の 1.96 はここから来ています。