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正規分布の形はなぜ一つしかないのか?定義と性質をたどる

平均から標準偏差 1 個ぶん以上離れる確率は 0.31731、2 個ぶんで 0.045500、3 個ぶんで 0.0026998 です[1]。

この 3 つの数は と をどう選んでも動きません。標準偏差を物差しにすると、正規分布の形は 1 つしかないため。

密度関数

連続確率変数 の確率密度が次の形になるとき、 は平均 、分散 の正規分布に従うといいます[1]。

記号は と書く。 が山の位置、 が横の広がりを決めます[2]。

左右対称なので、平均と中央値と最頻値が でそろいます。歪度は 、尖度は [2]。

を変える

山ごと左右へ平行移動する。形はまったく変わらない

を変える

横に広がるぶん縦が低くなる。面積を に保つための釣り合い

山の高さと変曲点

最大値は でとり、高さは です。 が小さいほど高く細くなる。

2 回微分すると、曲がり方の変わる点が出ます。

なので、 となるのは のときだけ。

グラフの曲がりが変わる位置を目で追えば、そこが標準偏差 1 個ぶんの距離です。 は式の中の記号ではなく、絵の中で指させる長さ。

全区間の積分が 1 になる

密度と呼べるかどうかは、全体を足して になるかで決まります。、 で確かめます。

積分を と置き、 を 2 重積分に直して極座標へ移す[4]。

が余分に出るところが効きます。 なら原始関数が書けるので、 次元では届かなかった積分が閉じる。

なので、 を掛ければ全体が です。一般の 、 でも と置換すれば同じ形に戻ります。

標準化

に対して次を作ると、平均 、分散 の正規分布になります[4]。

これで、どの正規分布も ひとつの表で読めます。分布族の中に代表が 1 つあり、残りは全部その平行移動と拡大。

例:標準化して確率を読む

で を求めます。

境目を標準化すると 、 です。

数表から 、。差は で、およそ 77.5% になります。

積率母関数

正規分布の性質はほとんど、この 1 つの関数から出ます[4]。

導き方は平方完成です。 と書いて を計算すると、指数の肩が になる。

残った積分は中心が へずれた密度の全積分なので です。したがって 。

平均と分散を母関数から出す

を で微分すると です。

パラメータに置いた と が、そのまま平均と分散になりました。名前と中身が一致している、めずらしい分布です。

線形変換で閉じている

()の母関数は です。中身を展開します。

同じ形なので 。正規分布を 1 次式で写しても正規分布のままです[4]。

標準化はこの性質の特別な場合にすぎません。、 ととったもの。

再生性

独立な と の和を考えます。独立なら母関数は掛け算になる。

です[1]。平均も分散も足し算で済みます。

足すのは分散であって、標準偏差ではない。、 なら和の標準偏差は ではなく です。

。直角三角形の斜辺と同じ足し方になる。

例:差の分布

と が独立のとき、 の分布を求めます。

なので、平均は 、分散は です。

引き算でも分散は足す。標準偏差は になります。

は を標準化した値なので、およそ 6.2% です。

3 シグマの範囲

標準化してしまえば、 からの距離は 何個ぶんかだけで測れます。

範囲内側の確率外側の確率
0.682690.31731
0.954500.045500
0.997300.0026998

を超える確率は 0.003 を下回ります[1]。工程管理でこの幅を管理限界に使うのは、外へ出たら偶然では説明しにくいためです。

和が正規なら、もとも正規

再生性には逆があります。独立な と の和が正規分布に従うなら、 と もそれぞれ正規分布に従う[1]。

クラメルの定理と呼ばれる結果です。正規分布でないものを足し合わせて、ちょうど正規分布を作ることはできません。

正規分布に見えるデータの背後に正規分布でない成分が隠れている、という説明は、独立な和のかたちでは通らないわけです。

名前がつくまで

曲線そのものは 18 世紀からありました。二項分布の項の和を近似する道具として現れた[3]。

1733
ド・モアブルの私家版

7 ページのラテン語論文を友人に配り、中央項の比が になると述べた。 が だと突き止めたのはスターリング。

1809
ガウスの Theoria Motus

観測誤差がこの分布に従うなら、算術平均が最も確からしい値になると示した。最小二乗法がここから出る。

「正規分布」という呼び名を広めたのはピアソンです。それ以前はガウス法則、ガウス・ラプラス分布と呼ばれていました[1]。

ド・モアブルは表と裏が等確率の試行を 回おこなう例を挙げ、1770 回から 1830 回のあいだに収まる確率を 0.682688 と計算しています[3]。

回は で、これが二項分布の標準偏差にあたります。外れる確率 0.317312 は、いま数表から読む 0.31731 と同じ数です。

のとき、 にいちばん近いのはどれですか。

  • 0.023
  • 0.046
  • 0.159
__RESULT__

なので、平均から 上にあたります。 の外側は両側で 0.045500 なので、片側はその半分の 0.02275。0.046 は両側ぶんの値、0.159 は の片側の値です。

密度の式を覚えるより、変曲点が の位置にあること、 次式で写しても形が保たれること、足しても壊れないことの 3 つを押さえるほうが先に効きます。

出典

Normal distribution. Encyclopedia of Mathematics.
Normal Distribution. NIST/SEMATECH e-Handbook of Statistical Methods, 1.3.6.6.1.
Abraham de Moivre, *Approximatio ad Summam Terminorum Binomii (a+b)^n in Seriem expansi*, 1733. Helen M. Walker 編訳.
Marco Taboga, *Normal distribution*. StatLect.
平均から標準偏差 1 個ぶん以上離れる確率は 0.31731、2 個ぶんで 0.045500、3 個ぶんで 0.0026998。$\mu$ と $\sigma$ をどう選んでも動きません。密度を 2 回微分して $0$ になるのは $x = \mu \pm \sigma$。グラフの曲がり方が変わる位置が、そのまま標準偏差になる。全区間の積分が $1$ になるのは、極座標へ移したときに $r$ が余分に出るため。積率母関数 $\exp(\mu t + \sigma^2 t^2 / 2)$ ひとつから、平均と分散、線形変換、独立な和の再生性がまとめて出ます。足すのは分散であって標準偏差ではない、という落とし穴も扱いました。和が正規ならもとも正規というクラメルの定理と、ド・モアブルが 1733 年に計算した 0.682688 まで。