4 分の 1 という上界は縮められない - チェビシェフの不等式
分布の形をまったく知らなくても、平均から 以上離れる確率は 以下だと言えます。
正規分布なら実際は 0.0455 なので、 は 5 倍以上ゆるい。それでもこの数字は縮められません。
ちょうどになる分布が実在するためです。
不等式のかたち
平均 、分散 を持つ確率変数 と、任意の について次が成り立ちます[1]。
と置きかえた形もよく使われます[2]。
必要なのは平均と分散が存在することだけ。連続か離散か、対称か、山が 1 つかは問いません。
マルコフの不等式から出る
もとになるのは、非負の確率変数 と についての次の関係です[1]。
、 と置くと、2 乗しても大小関係が変わらないので次のように移ります。
行数が短いのは、使っている情報が少ないためです。分散という 1 つの数しか見ていない。
例:どれくらいゆるいか
分布を決めて実際の確率を出し、上界と並べます。
| 分布 | の外 | の外 |
|---|---|---|
| チェビシェフの上界 | 0.25 | 0.1111 |
| 正規分布 | 0.0455 | 0.0027 |
| 指数分布 | 0.0498 | 0.0183 |
| 一様分布 | 0 | 0 |
一様分布は端が までしかないので、 の外に何も置けません。上界との差は 0.25 まるごと。
指数分布は非対称なぶん正規分布より外へ出やすく、 では 7 倍近い差になります。それでも上界にはまったく届かない。
は縮められない
上界に届く分布があります。3 点だけに確率を置いた分布です。
に確率
に確率
に確率
なら、 にそれぞれ 、中央に です。外にいる確率はちょうど 。
分散も確かめられます。中央では偏差が 、両端では なので、 になる。
上界が達成される以上、分布の形を仮定しないかぎり より小さい数には置きかえられません[1]。

片側ならもっと締まる
上下をまとめて評価するのをやめると、上界が改善します。平均 、分散 の と について次が成り立つ[4]。
カンテリの不等式と呼ばれます。 なら で、チェビシェフの より小さい。
証明は を作ってチェビシェフに戻す形です。 と書きかえてから 2 乗の評価を当てる。
例:カンテリの等号
こちらにも達成する分布があります。2 点だけです[4]。
を確率 、 を確率 でとる。
なら、 が確率 、 が確率 です。平均は 。
分散は で、条件を満たしています。 がそのまま上界。
片側のほうが締まるのは、反対側へ確率を逃がせるためです。上へ だけ出る確率を減らす代わりに、下側の に重みを置ける。
両側を同時に評価する形では、この逃がし方が使えない。
形を仮定すると、もっと締まる
山が 1 つだと分かっているなら、ガウスの不等式のほうが小さい上界を与えます[1]。
区間を平均について非対称にとる場合まで含めて、分布のクラスごとに最良の上界が調べられています[4]。一般、対称、単峰、凹などで別々の値になる。
チェビシェフの は、何も仮定しない側の端にある数です。仮定を足せば下げられる。
大数の弱法則への応用
独立同分布な列の標本平均は を満たします。そのまま当てはめる。
右辺は で です。粗い評価でも、 へ行くことを示すには足ります[1]。
チェビシェフの名前がこの不等式に残っているのは、彼がこれを使って大数の法則を示したためでした[1]。
上界は で減りますが、正規分布は指数より速く減ります。 が大きいほど差が開いていく。
減り方の階級が違うので、裾の評価に使うと極端に保守的になります。分布が分かっているなら、そちらを使うほうがよい。
名前の順番
先に書いたのはビエネメで、証明をつけたのはチェビシェフです[1]。
証明をつけずに関係だけを述べた。フランス側の系統にあたる。
大数の法則を示すための道具として使い、この不等式に名前が残った。
いまはビエネメ・チェビシェフの不等式と 2 人の名前で呼ぶことも多い。フランス側とロシア側の系統が、この 1 本で交わっています[3]。
片側の形にカンテリの名がついているのも、同じ種類の事情によります。関係そのものはチェビシェフの側にさかのぼる。
平均 、標準偏差 の分布について、チェビシェフの不等式から確実にいえるのはどれですか。
- から の範囲に 95% 以上が入る
- から の範囲に 75% 以上が入る
- から の範囲に 68% 以上が入る
分散という 1 つの数だけから何が言えるか。その限界を示した式なので、粗いことは欠点ではなく仕様です。













42 と 58 は平均から 2σ の位置です。外へ出る確率が 1/4 以下なので、内側は 75% 以上。95% と 68% は正規分布を仮定したときの数字で、形を知らない段階では使えません。