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y から x へ引き直すと傾きが変わる〜単回帰分析と回帰の名前

同じ 10 個の点に最小二乗法で直線を当てると、傾きは 5.000 になります。 と の役割を入れかえて引き直し、もとの軸へ戻すと 5.204。

データも方法も同じなのに、2 本の直線は重なりません。何を最小にしているかが違うためです。

この差が、回帰という名前の由来にもつながります。

何を最小にしているのか

説明変数 と目的変数 の関係を、次の形で表します[1]。

は誤差で、平均 、分散 を持つとします。 のほうは誤差なしで測れているという扱いです。

最小二乗法が小さくするのは、点から直線までの縦方向のずれの 2 乗和です[1]。

縦だけ、というところが要点です。点と直線の最短距離ではありません。 の予測誤差だけを問題にしています。

解のかたち

を と で偏微分して と置くと、次が出ます[2]。

分子は と が一緒に動く量、分母は だけが動く量です。共分散を の分散で割った形になっている。

切片の式は、直線が必ず を通ることを言っています。重心を通る直線を、傾きだけ選んでいる。

例:10 個の点から求める

を 1 から 10、 を 38、38、42、54、53、58、69、67、73、83 とします。

平均は 、 です。3 つの平方和を出します。

量値
82.5
2146.5
412.5

傾きは 、切片は 。

が 1 増えると が 5.00 増える、と読みます。単位のある量なら、傾きにも単位がつく。

残差

各点での実際の値と予測値の差を残差といいます。この例では次のようになります。

の 10 個。
合計はちょうど になる。
を掛けて足したものも になる。
2 乗して足すと 84。

合計が になるのは偶然ではありません。 で微分して と置いた式が、そのまま残差の和が という条件です。

残差の標準偏差は 。割る数が なのは、傾きと切片の 2 つを推定に使ったためです[2]。

決定係数

の全変動を、直線で説明できた部分と残った部分に分けます。

説明できた割合が決定係数です。。

相関係数 は 0.9802 で、2 乗すると決定係数に一致します。単回帰では と決定係数が同じ数になる。

高い値が出ても、直線が正しいという意味ではありません。曲がった関係でも、範囲が狭ければ は高く出ます。

傾きが でないといえるか

の標準誤差は、残差の標準偏差を で割った値です。

で、自由度は 。両側の p 値は です。

95% 信頼区間は で 。傾きが 5 ちょうどだと決まったわけではありません。

が分母にあることに意味があります。 の散らばりが大きいほど傾きの推定が安定する。狭い範囲のデータで傾きを論じると、誤差が大きくなります。

点数を増やすより、 の範囲を広げるほうが傾きの精度に効くことがあります。 は の散らばりそのものだからです。

同じ でも、 が 1 から 10 まで散っている場合と 5 から 6 に固まっている場合では、精度がまるで違う。

2 本の直線が一致しない

と を入れかえて、 を で説明する直線も引けます。傾きは 。

これを について解き直すと、- の平面では傾き になります。もとの 5.000 と一致しません。

2 つの傾きを掛けると で、決定係数に等しくなります。

は 1 以下なので、2 本の直線は必ずずれます。一致するのは点が完全に一直線に並ぶときだけ。

縦のずれを小さくする直線と、横のずれを小さくする直線は別物、というだけの話です。

「回帰」という名前

名前はゴルトンの実験から来ています。1875 年ごろにスイートピーの種でおこなった観察です[4]。

大きい種から採れた次の世代は親より小さく、小さい種からは親より大きいものが採れた。平均のほうへ戻る、という現象です。

はじめ彼はこれを reversion と呼び、のちに regression と呼びかえました[4]。1889 年の『Natural Inheritance』でまとめられ、ピアソンに強い影響を与えています[4]。

平均へ戻るように見えるのは、傾きが より小さくなるためです。標準化した変数どうしなら傾きは に等しく、 ならつねに を割ります。

親が平均より 単位高くても、子の予測は 単位ぶんしか高くない。逆向きに回帰すると同じことが反対側でも起きるので、どちらから見ても「戻る」ように見えます。

直線の外へは伸ばさない

得られた式は、データがあった の範囲でだけ意味を持ちます。 から で当てた直線を に使う根拠はどこにもない。

切片も同じです。この例の 30.0 は での予測値ですが、 のデータは 1 つもありません。

切片に意味があるのは、 がデータの範囲に入っているときだけです。範囲の外なら、直線を伸ばした先の数字にすぎません。

、、 のとき、決定係数はいくつですか。

  • 0.75
  • 0.50
  • 3.00
__RESULT__

傾きは 、相関係数は です。決定係数はその 2 乗で 。傾きの は決定係数とは別の量で、単位によっていくらでも変わります。

傾きは単位のある量、決定係数は単位のない割合、残差は 1 点ごとのずれ。3 つを並べて見ると、直線が何を言っていて何を言っていないかが分かります。

参考文献

Linear Least Squares Regression. NIST/SEMATECH e-Handbook of Statistical Methods.
Estimation of the straight line model. NIST/SEMATECH e-Handbook of Statistical Methods.
Linear regression. Encyclopedia of Mathematics.
Francis Galton. MacTutor History of Mathematics Archive.
同じ 10 点に最小二乗法を当てると傾きは 5.000、$x$ と $y$ を入れかえて引き直すと 5.204 になります。最小にしているのが縦のずれだけで、点と直線の距離ではないから。2 つの傾きを掛けると決定係数 0.9609 にちょうど等しくなります。$\hat\beta_1 = S_{xy}/S_{xx}$ と $\hat\beta_0 = \bar y - \hat\beta_1 \bar x$ の意味、残差の和が $0$ になる理由、$n-2$ で割る理由、標準誤差 0.3568 から $t = 14.02$ と区間 $[4.18, 5.82]$ を出すところまで通します。$x$ の散らばりを広げるほうが点数を増やすより効く理由、ゴルトンがスイートピーの種で見つけた現象を reversion から regression と呼びかえた経緯も。