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変数を 1 つ足しただけで傾きの符号が反対になる重回帰分析

だけで説明すると、傾きは です。ここへ を加えて同時に当てはめると、 の係数は になります。

同じデータ、同じ最小二乗法。それでも符号が反対になる。

単回帰の傾きと重回帰の係数は、測っているものが違うためです。

モデル

説明変数が 個ある場合、次の形で書きます[2]

最小にするのは、単回帰と同じく縦方向のずれの 2 乗和です[1]。変数が増えても、当てはめる面が直線から平面や超平面に変わるだけ。

行列で書く

観測が 個、説明変数が 個なら、次の行列を作ります。

左端の 1 の列は切片のためのものです。これでモデルが 1 行に収まります。

2 乗和を で微分して と置くと、正規方程式 が出ます。

が逆行列を持つことが条件です。持たないのは、説明変数のあいだに完全な 1 次関係があるとき。

偏回帰係数の意味

は「 が 1 増えたときの の増分」ではありません。「ほかの変数を止めたまま が 1 増えたときの増分」です。

単回帰の傾きは、ほかの変数を止めていません。 が動くと も一緒に動き、その効果もまとめて拾ってしまう。

単回帰の傾き

が動くと連れて動くものの効果まで含んだ、合計の傾き

重回帰の偏回帰係数

ほかの変数を止めたときに残る、 だけの傾き

止めるかどうかで値が変わるのは当然で、変わらないほうがめずらしい。

例:符号が反転する

12 個の観測で、 の相関が 0.9926 という強い関係にある場合です。

当てはめ の係数
だけで0.9597
だけで0.9930
0.9990

を入れると の係数が から へ動きました。 の係数は です。

が増えるとき もほぼ同じだけ増え、 の効果が大きいので、合計では が増えて見えます。 を止めれば、 単独の効果は負だった。

どちらが正しい、という問いは立ちません。答えたい問いが「 を増やしたら はどうなるか」なら、 も一緒に動くのかどうかを先に決める必要があります。

追加変数プロット

偏回帰係数を絵で見る方法があります。 の両方から の効果を先にとりのぞき、残ったものどうしを並べる。

この散布図に単回帰を当てた傾きが、重回帰の にちょうど一致します。

左は右上がり、右は右下がりです。 をとりのぞくと、 の関係は反対を向いていました。

面の切り口として見る

2 変数のモデルは、-- の空間に平面を当てているのと同じです。

を 1 つの値に止めると、その平面の切り口が - 平面の直線になります。この直線の傾きが です。

を上げていくと、切り口の直線が上へ平行移動します。データ点は が大きいところほど も大きいので、高い位置の直線の上に乗る。

各点を結んで見ると右上がりに見えますが、それは直線をまたいで移動しているためです。同じ直線の上を動いているわけではありません。

多重共線性

説明変数どうしが強く相関していると、 が逆行列を持ちにくくなります。完全に一致すれば逆行列が存在しません。

一致しない場合でも、近いだけで係数の推定が不安定になります。どちらの変数に効果を割りふるかを、データが決めきれないためです。

目安になるのが分散拡大係数です。 をほかの説明変数で回帰したときの決定係数を として、次で定義されます[3]

この例では の相関が 0.9926 なので、。標準誤差が 倍に膨らんでいることを意味します。

10 を超えたら注意する、という目安がよく使われます。ただし標本の大きさや誤差の分散でも値が動くので、これだけで判断は決まりません[3]

多重共線性があっても、予測そのものは悪くならない。困るのは個々の係数の解釈です。

の合計の効果は安定していて、内訳だけが決まらない。

決定係数は必ず上がる

まったく無関係な変数を足しても、 は下がりません。当てはめの自由度が増えるだけなので、2 乗和は減るか同じかのどちらかです。

先の例に無関係な を足してみます。

モデル自由度調整済み
0.9990420.998829
0.9990710.998722

は上がりましたが、調整済みのほうは下がりました。 値は 0.500、p 値は 0.6303 で、効いている証拠はありません。

調整済み決定係数は、変数の数で罰を与えた形です。

変数を足したときの の上がり方が、失う自由度に見合わなければ値が下がります。モデルを比べるときは、こちらを見る。

係数の検定

各係数について、 を自由度 の t 分布と比べます。

例では の係数が 、標準誤差が 0.293 なので 。自由度 9 で p 値は です。

95% 信頼区間は で、全体が負の側にあります。符号が負であること自体は、偶然では説明しにくい。

各係数の検定は、ほかの変数がモデルに入っている状態での話です。入れる変数を変えれば、同じ でも t 値が変わります。

説明変数を 1 つ足したところ、 が 0.812 から 0.815 に上がり、自由度調整済み決定係数が 0.795 から 0.790 に下がりました。どう読みますか。

  • 当てはまりがよくなったので、足した変数を残す
  • 上がり幅が失う自由度に見合わないので、足した意味は薄い
  • が上がって調整済みが下がるのは計算まちがい
__RESULT__

は変数を足せば必ず上がるので、上がったこと自体は情報になりません。調整済みの値が下がったのは、その上がり幅が自由度 1 ぶんの代償に届いていないという意味です。2 つが逆に動くのはふつうに起きます。

単回帰の傾きは合計の効果、重回帰の係数はほかを止めたときの効果。どちらの問いに答えたいかを決めてから、モデルを組みます。

参考

Linear Least Squares Regression. NIST/SEMATECH e-Handbook of Statistical Methods.
Linear regression. Encyclopedia of Mathematics.
*Overcoming the inconsistences of the variance inflation factor: a redefined VIF and a test to detect statistical troubling multicollinearity*.
$y$ を $x_1$ だけで説明すると傾きは $+3.385$。$x_2$ を加えて同時に当てはめると $x_1$ の係数は $-2.209$ になります。単回帰の傾きは連れて動くものの効果まで含んだ合計で、偏回帰係数はほかを止めたときに残るぶん。測っているものが違います。$\hat{\boldsymbol{\beta}} = (X^{\top}X)^{-1}X^{\top}\boldsymbol{y}$ の導出、$y$ と $x_1$ から $x_2$ の効果を先に落とした散布図の傾きが偏回帰係数に一致すること、相関 0.9926 の 2 変数では分散拡大係数が 67.6 で標準誤差が 8.2 倍に膨らむことまで。無関係な変数を足しても $R^2$ は 0.999042 から 0.999071 へ上がり、自由度調整済みは 0.998829 から 0.998722 へ下がる例も。