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平均と分散と標準偏差の計算で「2 乗和の公式」が 0 を返すとき

10 個のデータの分散が 3.6 だとします。全部に 10 億を足しても、ばらつきは変わらないので分散は 3.6 のままのはずです。

ところが 2 乗和の公式で計算させると、答えが 0 になります。

手で解くぶんには起きない事故ですが、式そのものにはこの弱さが最初から入っています。

平均

個の値 の平均は、全部足して で割ったものです。

例として 4、8、5、9、6、7、3、8、6、4 の 10 個を使います。合計は 60 なので、平均は 6 です。

偏差と平方和

各値から平均を引いたものを偏差といいます。この例では 。

偏差の合計はつねに です。プラスとマイナスが打ち消し合うので、そのままではばらつきの尺度になりません。

そこで 2 乗してから足します。

値偏差偏差の 2 乗
44
84
51
99
60
71
39
84
60
44

合計は 36 です。これを偏差平方和といいます。

2 つの分散

平方和を で割ったものが標本分散、 で割ったものが不偏分散です[1]。

同じデータから 2 つの値が出ます。どちらを「分散」と呼ぶかは文脈しだいなので、割った数を確かめる習慣が要ります。

なぜ で割るのか

母集団の分散を推定したいとき、 で割ると小さめに出ます。偏差を測る中心が、母平均ではなく標本平均だからです。

標本平均はそのデータにいちばん近い位置に来るので、偏差平方和が最小になってしまう。真の平均から測れば、もっと大きくなるはずでした。

縮む割合はちょうど です。

縮む割合ずれ
20.50050.0%
50.80020.0%
100.90010.0%
300.9673.3%

が小さいほど深刻です。2 個なら半分になってしまう。 で割るのは、この縮みをちょうど打ち消すためです。

が 30 もあればずれは 3% で、実用上はどちらでも大差ありません。

で割った は分散については不偏ですが、その平方根 は標準偏差の不偏推定量ではありません。

平方根は非線形な操作なので、不偏性が保存されない。 はわずかに小さめに出ます。

標準偏差

分散の平方根が標準偏差です。単位がもとのデータに戻ります[1]。

分散は単位が 2 乗になるので、cm のデータなら cm² です。長さと面積を比べても意味がないので、平方根に戻してから使います。

2 乗和の公式

手計算では、偏差を 1 つずつ出すより次の形が速い場合があります。

例では 、 なので、。偏差から出した値と一致します。

データを 1 度読むだけで済むので、電卓でも表計算でも扱いやすい。

引き算で桁が消える

この式には弱点があります。大きい 2 つの数の差として小さい数を求める形になっているところです。

さきほどのデータに 10 億を足してみます。ばらつきは変わらないので、分散は 3.6 のままのはずです。

求め方10 億を足したとき正しい値
2 乗和の公式0.00003.6
偏差を先にとる3.60003.6

は の桁になり、 もほぼ同じ。差の 36 は、有効数字の外へ落ちてしまいます。

浮動小数点数の有効桁は 16 桁ほどしかありません。 の数どうしの差では、下 3 桁が保証されない。

偏差を先に引く形なら、扱う数がもとの大きさのままなので、この事故は起きません[2]。

数値計算の正確さを試すための標準データが公開されていて、この種の弱さを突く問題が難易度つきで並んでいます[2]。

度数分布から求める

同じ値がまとまって出てくる場合は、値と度数の組から計算します。

値が 2、3、4、5、6 で、度数がそれぞれ 1、3、5、4、2 の 15 個を考えます。

分散も同じように、偏差の 2 乗に度数を掛けて足します。

なので、標本分散は 。

不偏分散は 、標準偏差は 1.108 と 1.147 です。度数は個数を数えているだけなので、割る数は から を引きます。

練習

同じ手順で 2 つ通します。まず 12、15、11、18、14 の 5 個。

平均は 、偏差は 、平方和は 。

標本分散は 、不偏分散は 。標準偏差は 2.449 と 2.739 です。

次に 20、22、19、23、21、27 の 6 個。合計 132、平均 22。

偏差は で、平方和は 。標本分散 6.667、不偏分散 8.0 になります。

最後の 27 だけが平均から 5 も離れていて、平方和 40 のうち 25 を 1 つで占めています。2 乗するぶん、外れた値の影響が大きい[1]。

5 個のデータの偏差平方和が 80 でした。不偏分散はいくつですか。

  • 20
  • 16
  • 8.94
__RESULT__

不偏分散は平方和を で割るので です。16 は で割った標本分散、8.94 はどちらでもなく にあたります。

平均を出し、偏差を出し、2 乗して足し、 か で割る。順番を守るほうが、公式を 1 つ覚えるより安全です。

参考

Measures of Scale. NIST/SEMATECH e-Handbook of Statistical Methods.
Statistical Reference Datasets: Univariate Summary Statistics. NIST.
4、8、5、9、6、7、3、8、6、4 の平均は 6、偏差平方和は 36。10 で割れば標本分散 3.6、9 で割れば不偏分散 4.0 です。全部に 10 億を足してもばらつきは変わらないはずですが、$\sum x_i^2 - n\bar x^2$ の形で計算させると答えが 0 になります。$10^{19}$ どうしの差として 36 を求めているので、有効桁の外へ落ちるためです。$n-1$ で割る理由は縮む割合が $(n-1)/n$ になること、$n=2$ なら半分、$n=30$ なら 3.3% のずれ。$s^2$ が不偏でも $s$ は標準偏差の不偏推定量にならない話、度数分布からの計算、練習 2 題まで。