対応を無視すると p 値が 300 倍になる(t 検定の手順と例題)
同じ 8 人の前後を測ったデータで、対応をとって計算すると になります。対応を無視して 2 つの群として扱うと 。
300 倍以上の差です。データは 1 文字も変えていません。
どの型で計算するかが、t 検定ではそのまま結論を決めます。
3 つの型
t 検定と呼ばれるものは 3 つあります。どれも形は同じで、分子と自由度だけが違う[1]。
| 型 | 分子 | 自由度 |
|---|---|---|
| 1 標本 | ||
| 対応のない 2 標本 | ||
| 対応のある 2 標本 | 差の平均 |
共通の形は「見たい差を、その差の標準誤差で割る」です。
割った結果を t 分布のパーセント点と比べます。標準誤差の中身だけが、型ごとに変わる。
対応のない 2 標本
2 つの群が別々の対象からなる場合です。母分散が等しいと仮定して、両方の平方和をひとまとめにします[1]。
差の標準誤差はここから作ります。
自由度は です。各群で平均を 1 つずつ使ったので、2 つ減ります。
例 1:2 つの群を比べる
A 群が 68、72、65、70、74、69、71、67 の 8 個。B 群が 75、78、74、80、77、73、79、76 の 8 個。
| 群 | 平均 | 不偏分散 |
|---|---|---|
| A | 69.500 | 8.2857 |
| B | 76.500 | 6.0000 |
プールした分散は で、。
標準誤差は です。差は 。
自由度 14 の両側 5% 点は 2.1448 なので、大きく超えています。両側の p 値は 。
差の 95% 信頼区間は です。判定だけでなく、この幅も一緒に見ます。
対応のある 2 標本
同じ対象を 2 回測った場合です。差をとってしまえば、1 標本の検定に戻ります。
自由度は 。差の母平均が かどうかを調べる形になります。
例 2:同じ 8 人の前後
前が 82、78、85、79、88、75、81、84。後が 85、80、86、84、90、79、83、88。
差をとると 3、2、1、5、2、4、2、4 です。
平均は 2.875、不偏分散は 1.8393、標準偏差は 1.3562。標準誤差は 。
自由度 7 の両側 5% 点は 2.3646 なので棄却されます。p 値は 。
対応をとると何が変わるか
同じデータを 2 群として扱ってみます。前の平均 81.5、後の平均 84.375 で、差は 2.875 と変わりません。
ところが 、p 値は 0.1688 になります。棄却できません。
割る相手は差のばらつき 1.356。人ごとの上下は差をとった時点で消える
割る相手は個人差を含んだばらつき 4.43。もともとの点数の高い低いが、そのまま雑音になる
もとの点数は 75 から 88 まで散らばっていますが、差は 1 から 5 までしか散っていません。
個人差を消せるぶん、対応のある設計のほうが小さい差を拾えます。対応があるのに無視するのは、情報を捨てることになる。
逆に、対応がないのに対応があるものとして計算するのは誤りです。8 人と 8 人が別人なら、1 番目どうしを引き算する根拠がありません。
どちらの型を使うかは、データのとり方で決まります。計算の都合で選ぶものではない。

等分散が怪しいとき
プールした分散を使う形は、2 群の母分散が等しいことを前提にしています。大きく違う場合は自由度を調整します。
分散をまとめず、それぞれの群のぶんを別々に足す形です。
自由度は整数になりません。2 つの分散の比から計算した値を使います。
例 3:分散が 28 倍違う
A 群の不偏分散が 8.29、C 群が 232.84 で、比は 28.1 倍です。平均は 69.5 と 74.375。
| 方法 | と自由度 | |
|---|---|---|
| 等分散を仮定 | 、14 | 0.3896 |
| 自由度を調整 | 、7.498 | 0.4021 |
の値は同じになりました。標本の大きさが両群で等しいと、この 2 つは一致します。
違うのは自由度です。14 から 7.5 へ半分近く減り、そのぶん p 値が上がりました。
標本の大きさが違えば の値も変わります。ばらつきの大きい群が小さい標本しかない場合に、差がとくに出ます。
前提をどう確かめるか
導出が置いている前提は、正規性と独立性、そして 2 標本の場合の等分散です[2]。
正規性は、ヒストグラムや正規確率プロットで大きく外れていないかを見ます。 が大きければ多少のずれは吸収されます。
独立性は計算では確かめられません。データのとり方まで戻って判断することになります。
等分散は分散の比を見ます。ただし分散の検定そのものが鈍いので、比が数倍あるなら自由度を調整する形にしておくほうが安全です。
同じ 10 人に 2 種類の方法を試して比べます。どの型を使いますか。
- 対応のある 2 標本の検定、自由度 9
- 対応のない 2 標本の検定、自由度 18
- 1 標本の検定、自由度 19
差を標準誤差で割る、という形は 3 つとも同じ。違うのは、何を雑音と見なすかです。














同じ人が両方を受けているので対応があります。差をとって 1 標本に戻す形で、自由度は 10−1=9 です。自由度 18 は別人どうしを比べる場合、19 は 20 個を 1 つの標本と見た場合の値になります。